ヨドバシの「三脚の神」 周辺機器の接客の極意とは?


ヨドバシカメラ 新宿西口本店の三脚コーナーに「三脚の神」と呼ばれるスタッフがいる。「タバコじゃないんだから、置いているだけでは売れません」と話す”三脚の神”。その接客の極意とは?

今回取材したのは、ヨドバシカメラ 新宿西口本店に勤める森泰生さんだ。森さんは、三脚メーカーに長年勤めたのち、現在は同店で販売スタッフとして活躍する。「ヨドバシカメラの”三脚DVD”の人」といえば、誰のことか思い当たるカメラ担当者は多いのではないだろうか。

全国のヨドバシカメラで”三脚使い方講座”を放映中
全国のヨドバシカメラで”三脚使い方講座”を放映中

仕事で広がる“物撮り”ニーズ

ヨドバシカメラ新宿西口本店は、ヨドバシカメラ全体の中でも三脚の売り上げが高い。同店は、プロの写真家なども来店するため、幅広い商品を揃えており、多くの三脚を立てて展示している。深い品ぞろえは来店動機となり、遠方から来店する顧客も多い。

森さんによれば、三脚購入者の撮影テーマは、旅行、植物、鉄道などのほか、最近は”物撮り”の需要も高まっているという。SNSでの投稿、ネットオークションのほか、コスト削減のために自社の商品カタログを自分たちで製作する会社が増えており、そのため仕事で”物撮り”をする人が増えているのだという。このほか、デジカメの動画撮影モードで撮影する際のブレを気にして、三脚を買い求める人も目立つということだ。

初心者にオススメの軽量タイプは、高齢者の買い替えにも

春はコンパクトな三脚が人気
春はコンパクトな三脚が人気

卒入学シーズンは、三脚を買い求める人が増える時期でもある。その際、重視されているのは「軽量」「コンパクト」ということだ。森さんによれば、2kgを切る重さ、縮小時40cm程度のものが好まれるのだという。

森さんが接客時に伝えているポイントは次の3つだ。

1:式典に出席するときは正装なので、コンパクトなものの方がマッチする
2:大きい三脚だと、食事などをした際、うっかり忘れてしまうので、普段のカバンに入るコンパクトなものの方がよい
3:迷わず組み立てられるもの

卒入学シーズンに買いに来る人は、初心者が多い。そのため、2万円を切る手ごろな価格帯のものをオススメし「まずは使ってみてください」と案内しているという。

コンパクト軽量のものは、高齢者の買い替えにもオススメなのだと森さんはいう。
「今の高齢者が若い頃は手振れ補正機能などなかったので、三脚を使って撮影をする人が多くいました。退職などで時間ができて、旅行や山登りを楽しむ際、若い頃使用していた三脚を使おうと思うと、重く感じます。そこで、買い替えにいらっしゃるお客様が少なくありません」。

「カメラの周辺機器の接客なのに、なぜカメラを持たないんですか?」

森さんは接客時、顧客の話をじっくり聞く。最初の質問は「いつ、どこで、誰が、どのカメラで、何を撮影するために使うのか」だ。質問を投げかけられた顧客は、例えば「来週、カナダで、夫婦で、ミラーレスカメラを使って、オーロラを撮影するために使う」というように答える。それを受けて、森さんは、寒い野外で撮影するポイントや、機内持ち込みできるかどうか、オーロラを撮影するポイントなどを話すという。

”三脚の神”こと森泰生さん
”三脚の神”こと森泰生さん

接客の内容を聞いていると、三脚の機能説明というよりは、撮影方法や撮影ポイントの講座の趣が強い。ちょっとした裏技のようなものも紹介し、顧客が求める撮影ができるようにアドバイスしている印象だ。
接客時には、オススメする三脚を顧客自身に組み立ててもらうほか、森さんが首から提げているカメラを使ってセッティングを体験してもらう。森さんに、いつもカメラを持って売り場に立つのか? と聞くと
「そうですよ。逆に、カメラの周辺機器の接客なのに、なぜカメラを持たないんでしょうか? お客様の多くは、はじめて三脚を使うので、”雲台”のセッティングの仕方もよく分からないという方が少なくありません。買った後も使っていただけるよう、接客時に一緒に使い方をお伝えしています。本当は、お客様が撮影に使う予定のカメラを使うのがいいんですけどね」(森さん)。

三脚を組み立てる際は、持ち方をひと工夫

三脚を横に持って1本1本伸ばしているようでは、組み立てに時間がかかる。森さんは、三脚を斜めに持ち、ストッパーをはずすと、自重で自然と脚が伸びるように持っている。
「ちょっとした違いですが、スッと脚が伸びるので、お客様に”自分でもできそう”“簡単そう”と感じていただけます」(森さん)。

仕事の時にはいつもF2を持ち歩く
仕事の時にはいつもFM2を持ち歩く

森さんが持ち歩いているのは、ニコンのFM2。フィルムカメラの名機を持つことで、顧客から逆に声をかけられることも多いという。

「フィルムカメラの愛好家は、カメラのことを知っていても、デジカメになると分からないことが少なくありません。よく分からないからデジカメに手を出しにくいともいえます。私がFM2を持っていると、お客様から、フィルムカメラ、そしてデジカメの機能についてご相談をされることがたびたびあります。私は、”フィルムカメラの機能は、デジカメならこのようになっています”というように、フィルムとデジタルのつなぎ役をしています」

幅広い提案力が求められる周辺機器の接客

カメラ市場は、現在厳しい状況が続いている。一方で、写真を楽しむ人たちは増えている。三脚、レンズといった周辺機器の拡販は、写真を楽しみたい人の「撮影欲求」を刺激することが重要だ。ヨドバシのカメラ・カメラ周辺機器コーナーは、こうした「撮影欲求」を刺激する演出に長けている。

梅田のマクロレンズ体験コーナー。虫や植物のイラストで春らしさを演出
梅田のマクロレンズ体験コーナー。虫や植物のイラストで春らしさを演出

三脚の接客なら、森さんのように撮影のテクニックを説明し、三脚を使った実践的な撮影方法を伝える。交換レンズの場合、マルチメディア梅田ではマクロレンズ体験コーナーを作り、販売スタッフも配置。実際にレンズをのぞき、マクロ撮影を体験できるようにしている。
こうした演出は、「売り場発想」「写真撮影が好き」だからこそできることなのだと、ヨドバシ関係者は話す。カメラが好き、写真撮影が好き、接客が好き・・・。そうした気持ちで改めて接客や演出を見直すと、今までとは違ったアイデアが生まれてくるのではないだろうか。

※写真は全て、取材時に編集部で撮影