2022年度上期決算から見る家電量販企業の4つの課題


家電量販企業各社の2022年度上期決算が発表された。

ヨドバシカメラは非上場会社であり、ビックカメラは8月決算であるので、決算月の同じヤマダホールディングス、エディオン、ケーズホールディングス、ノジマ、上新電機の上期決算を見てみよう。
先ず、決算発表した5社の合計数値から業界の動向を見てみよう。

5社合計で前年比、売上は98.5%、売上総利益は98.5%、販売費及び一般管理費は102.1%、営業利益は78.5%、経常利益は78.6%となっている。

上期の状況を説明すると「売上は伸び悩んだが売上総利益率は変わらなかった、しかし経費が増加し、結果として経常利益は低下した」ということになる。決算の中から家電量販企業の課題が見えてきたので説明したい。

伸びない売上

家電量販企業5社の売上は2022年上期が98.5%で終わった。
新型コロナの影響等も薄れ本格的な店舗販売が行われた中で、物足りない数字となった。上期の売上構成比の高いエアコンの7月、8月の不調、テレビ、レコーダーの不振が理由にあるが、一番大きな課題は商品の販売単価が上がっているのに売上増に結びつけられていないことである。

メーカーの出荷統計を分析すると、上期はメーカーの出荷単価が平均で106.7%上がっている。当然、メーカーの出荷単価が店頭価格にも反映されるので、単価は上がっているはずである。売上の総額が上がっていないのは数量が落ちていると考えられる。

当社の分析では、単価の上がらない部門の売上は比較的数量も確保できている。単価が上がった商品は数量が減少している。売上減少に歯止めをかけるためには、価格高騰のために離れた顧客を引き戻すための低価格帯の商品の強化や自社開発商品の強化が必要であろう。

また、既存の家電だけではなく、今後、成長性の高い商品への投資等も必要となる。実際、ヤマダホールディングスやエディオンはリフォームの売上が向上し、売上に貢献した。

売上総利益率の向上

通常、企業は売上が減少する時には、粗利率の向上で収益を確保しようとする。但し、5社合計を見てみると粗利率の改善は進んでいない。個別企業の営業利益率を見てみると、ヤマダホールディングスが前年よりも大きく落としている。エディオンは前年並み、ケーズホールディングスとノジマがやや改善、上新電機が大きく改善されている。但し、後で述べるが在庫金額が各社増加しているので、粗利率改善は在庫増の範囲であり、上新電機を除いた4社については売上総利益の改善は課題となっている。

売上総利益の改善に対して家電量販企業各社の対策をまとめてみると

・自社開発商品の販売強化
・高付加価値商品の売上拡大
・新製品の売上拡大
・サービス事業の売上拡大
・サプライ商品の売上拡大

といったことがある。
とくに注意したいのは、プライベートブランドの開発である。プライベートブランドの多くは製造コストの安い中国を中心に製造されているが、メーカーと同じようにサプライチェーンの分断と原材料高、円安の影響を受け開発が難しくなっている。
価格の安さが魅力のプライベートブランドが、価格では勝負がしにくくなっており、プライベートブランドの在り方を再考する時期に来ている。

高付加価値商品の販売や新製品の販売は粗利率が確保できるものの、逆に単価の高さ故に数量が出ず売れ残る危険性があり、売れ残りがさらに粗利率の低下につながる。粗利率の改善には、やはり自社開発商品の強化、サービス売上の強化が重要と思われ、下期はこの取り組み強化が期待される。

増加する経費

2022年の上期で一番注意しなければならないのは、経費の向上である。
家電量販企業各社は経費が大きく上がっている。とくに水道費光熱費、運賃、人件費といった項目が大きく上がっている。電気代の高騰はむしろ2022年度下期への影響が多く出るので、下期の水道光熱費の増大コントロールが難しい。各社はインターネット販売に対抗するために、店舗においての商品体感を強化しているが、体感は通電するので電気代の高騰をもたらす。

また、家電メーカーから持ち込まれるサイネージは家電量販企業の電気代を上げる。人件費の高騰も家電量販企業の収益率を圧迫する。とくに外資系のコストコやイケアのある地域は両社が高い時給で求人するために、パート、アルバイトの移動が起き人件費は上がる。正社員に対しても、インフレ対策として昇給等で対応が必要であり、家電量販企業各社は生産性の改善が求められている。2022年度は前年度に対して売上対比1~2%のコストアップが予測されており、経費コントロールが難しくなっている。

増大する商品在庫

5社の商品在庫を見ると在庫は前期比107%と増加している。
売上は98.5%であるので、商品回転率が悪化していることとなる。家電量販企業の中には、値上げ前の商品の仕入れを強化したという理由があるが、商品回転率は半期で2.46回転、年間ベースでは4.92回転となり、5回転を切っている。家電量販企業の商品にはパソコンや携帯電話、テレビ等のデジタル商品が多く、早く価格が下がる商品が多い。

今のところは、インフレ気味であり、在庫価値の棄損は少ないが、デフレ基調になった時には経営の足を引っ張る可能性が高い。郊外型家電量販企業であれは、少なくても6回転程度、都市型の家電量販企業であれば12回転は確保したいものである。家電量販企業はキャッシュフローを向上させるために商品在庫の効率化に取り組まなければならなくなっており、もし、5社で商品回転率が6回転程度まで改善されれば、1400億円程度の資金が生まれ、この資金で新店舗開発やM&A、改装、デジタル投資等を行うことができる。

家電量販企業各社の中には、通期に向けて業績の下方修正を出した企業があるが、下期も景気が不安定であり、インフレにより消費者の買い控え等が起きる可能性もあり、売上増と共に課題解決に向けて動きが活発化する。