郊外店からデジカメの裾野拡大「また来たくなる店づくり」(前編)
デジカメ市場は、新規需要の拡大が喫緊の課題。デジカメは嗜好品。生活必需品ではないからこそ、店頭では提案力が必要な商品だ。そこで、地域に密着した接客に注力する郊外店に着目。取材をすると、来店客に寄り添った、郊外店ならではの取り組みをしていた。その具体的な取り組みとは? 二回に分けて掲載する。
デジカメ市場の現状
カメラ映像機器工業会によると2016年の日本国内のデジカメ市場は、出荷ベースで、レンズ一体型が台数前年比68.4%、金額は同72.4%。レンズ交換式が台数同78.8%、金額同81.0%となった。この落ち込みはイメージセンサーの主要生産拠点がある熊本の地震の影響が大きく、商品の供給が滞ったことも一因のようだ。だが、主要因は依然として、スマホの高性能カメラによる代替が色濃く影響していることも確かだ。
デジカメ市場の再活性化に向けて注力しなくてはいけないのは、新規需要の拡大だ。高性能なカメラを搭載したスマホでの撮影に慣れているユーザーは、写真への興味はある。そこで店頭では、画質や撮影機能でのスマホとの差別化点を訴えることで、スマホを持ちながらデジカメも持つという共存の道を提案したい。
家電量販にとっても、デジカメは周辺機器の販売でリピーターの獲得につながる。また出力では、プリンターの他にもデジカメで撮影した高精細4K動画を見られる4Kテレビの訴求にもつながるなど、デジカメのもたらすメリットは大きいのだ。
郊外店だからこそ。行きたくなる理由
神奈川県川崎市のコジマ×ビックカメラ 梶ヶ谷店は、デジカメ本体のみならず、交換レンズやアクセサリー、三脚等の周辺機器に至るまで品ぞろえを厚くし、売り場面積も広く取っている。デジカメ専任の販売員は二名。コジマ×ビックカメラは、全店舗でデジカメ専門の販売員を配置するようにしているという。
「当店のデジカメコーナーにいらっしゃるお客様の8割は赤ちゃんから小学生のお子さんがいるファミリー層で、2割が写真愛好家の方々です。お客様がふらっと立ち寄れる郊外店ならではの売り場づくりを心掛けています」と話すのは、同店のデジカメ専任販売員の廣島健一郎さん。デジカメを初めて購入するエントリー層から、すでに写真の知識が豊富な写真愛好家まで、来店客のレベルに合わせた接客をするために、廣島さんはフォトマスターの資格を取得。カメラの構造から撮影法までの知識を身に着けた。また休日にはメーカーからの貸し出し機で撮影をして、それぞれの機種の特徴や撮影方法を勉強しているという。
「郊外店ならではの良さは、販売員とお客様が一対一で落ち着いてじっくりとお話ができることです。一人のお客様に2時間接客したこともあります。お客様が話しかけやすくなるように、カメラベストを着て“デジカメスタッフ”という名札を付けています。他商品の販売員との違いを分かっていただき、カメラの専門販売員を見つけていただきやすいようにするためです」と、廣島さん。
カメラは、生活必需品ではない。嗜好品に高いお金を払うからこそ、来店客は納得して購入したい。しかし、長時間の接客を受けたり、何度も来店すると、店に迷惑がかかるのではないかと気を使ってしまう来店客もいる。そのような気遣いは無用のようだ。
廣島さんは、来店客の撮影経験に合わせて提案方法も変えているという。
初心者には専門用語を使わずに“言い換える”ことを心掛けているそう。例えば、絞りは「ぼかす」「くっきり」、シャッタースピードは「止まる」「動く」、露出は「明るい」「暗い」、仕上がりは「鮮やか」「淡い」などだ。来店客と一緒にカメラを操作しながら実際に撮影して説明するという。
写真愛好家層はカメラや写真のことを“話したい”という傾向が強いので、話を聞きつつ、逆に廣島さんが撮影に関しての質問をすることもある。お互いにレベルの高い写真の話ができるので来店客との距離がぐっと縮まる。撮影した写真を持参したり、写真の話をするためにふらっと立ち寄る顧客も少なくないという。
先述の、廣島さんが2時間接客した来店客は、自身がカメラ本体とレンズ一本を購入し、後に妹さんを伴って来店。その妹さんもミラーレスのレンズキットを購入したという。また、写真愛好家は交換レンズやハイエンドタイプのプリンターの購入にも意欲的とのことだ。長時間の接客がリピーターの獲得につながっているのだ。