Wi-Fiルーターの需要に変化の兆し 販売現場での対応が急務


昨今、家電量販の店頭で、お客からWi-Fiルーター(無線LAN)に関する質問が増えてきているという。Wi-Fiルーターを販売しているメーカーと家電量販店に話を聞くと、これはWi-Fiルーターの潜在需要が顕在化してきた表れだということが分かった。その背景と、店頭でのWi-Fiルーターの拡売に向けた具体的な取り組みをレポートする。

Wi-Fiルーターの市場動向

GfKジャパンによると、家電量販店におけるWi-Fiルーターの販売は、台数ベースで微減基調、金額ベースでは横ばいを維持している。

各メーカーにその背景について聞くと、Wi-Fi通信規格「IEEE 802.11n(以下11n)」から最新規格「IEEE 802.11ac(以下11ac)」への買い替え需要が2012年末ごろからイノベーター、アーリーアダプター層で始まった。そして、この層において買い替えが落ち着いたことが、台数の微減基調の一因となっているようだ。

ちなみに、11nと11acの最大の違いは、通信速度。アンテナ1本ごとの最高速度は、11ac(433.3Mbps)が11n(150Mbps)に比べて約2.8倍も速い。また、11acは電波干渉の少ない周波数帯である5 GHz帯を使用するため、2.4 GHz帯のデメリットである電波干渉(電子レンジなど、同じ2.4 GHz帯の機器使用時につながりにくくなったりする)が起こりにくいという。

Wi-Fiルーターイメージ

家電量販店での販売金額は横ばい基調だが、単価はアップしている。Wi-Fiルーターの機種間での価格差は、通信速度を左右するアンテナ数(送信×受信)によるところが大きいが、1(送信)×1(受信)モデルと2×2、3×3と4×4の間でそれぞれの価格差が小さくなったことから、多少価格は高くともアンテナ数の多いモデルを購入するお客が多いことが、単価アップの一因となっているようだ。現在、2×2と4×4の二極化が進んでおり、ボリュームゾーンは前者、伸長基調にあるのは後者とのことだ。

今後のWi-Fiルーターの需要層は、比較的ITリテラシーの低い“一般の人”たち。
店頭の販売員に聞くとWi-Fiルーターに関する問い合わせは増えてきており、その背景には、Wi-Fiルーター(無線LAN)を導入するメリットが、少しずつではあるが、一般の人たちに認知され始め、店頭に足を運んでいるとみられる。

無線LANおよび最新規格導入のメリット

Wi-Fiルーターを用いると、どのようなメリットがあるのだろうか。一般の人に響く最大のメリットは、下記の2点だ。

・スマホやタブレット、ゲーム機など、デジタルモバイル端末を無線でネット接続できる(もちろんPCも)
・宅内でのネット接続時にデータ通信容量を気にすることがなくなる(電波状況によりWi-Fi接続ができない場合を除く)

まずはお客を取り巻く環境の変化を知ることが、これからのWi-Fiルーターの拡売に不可欠だ。デジタルモバイル端末の普及と、それらの端末でできることが急激に増加したことにより、Wi-Fiルーターを必要とするお客は確実に増えているのだ。

その理由は、NETFLIXやHulu、Amazonプライムビデオ、Youtubeなどの動画、ハイレゾ音源など、ネットを介してのコンテンツ配信が増え、スマホやタブレットなどの携帯端末でそれらを視聴する人が増加していることである。

動画や音楽などの視聴やダウンロードの際には高速なデータの伝送が必要となり、視聴する端末がハイスペックであっても、伝送路のスペックが追い付いていなければ、映像が途中でしばらく停止したり、音源のダウンロードに時間がかかったりする。コンテンツは充実しているのに、データの伝送環境が整っていなければ、ユーザーはストレスを抱えることになるのだ。

さらに高画質高音質化で、受信するほどデータ量も増大。スマホやタブレットで通信会社と契約しているパケット通信容量をオーバーしてしまうことは珍しいことではない。そこで、その都度課金をして一時的にパケット通信容量を増やしたり、翌月になるまで通信速度が低速のままで我慢することになる。

アンテナ数が少ないWi-Fiルーターの場合もしかり。一度にたくさんのデバイスからアクセスすると、通信が遅くなったり中断したりして、これまたユーザーのストレスとなる。

そこで、通信速度の速い11acのWi-Fiルーターを導入すると、インターネットでの通信生活が便利で快適になるのだ。

Wi-Fiルーター(無線LAN)は光回線の利用でそのメリットを最大限に享受できる。総務省が平成28年11月~12月で行った「平成28年通信利用動向調査」によると、インターネットを利用している個人の割合は83.5%。

さらに同調査では、インターネットを利用している個人のうち、「ブロードバンド回線」を利用している世帯は97.4%、さらにそのうち光回線を導入しているのは60.0%となっている(下図参照)。まずは光回線の導入によるメリットを店頭でアピールしたい。

複数回答ではあるが、携帯電話回線を利用している人もまだ51.0%と比率が高い。(総務省「平成28年通信利用動向調査」)

光回線の導入、さらに最新11acのWi-Fiルーターを導入するには、ユーザーの状況に応じてレベルアップする必要がある。快適な通信に向けて、お客の現状に応じたステップアップ提案は、下表を参考にしていただきたい。

快適な通信に向けてのステップアップ

先述の通り、最新規格の11acは、アンテナ1本での通信速度が、旧規格11nの約2.8倍。さらに、アンテナ数が多い方が、より多くの端末を快適に接続することができる。光回線のユーザーはプロバイダ支給のONU(光回線終端装置)兼Wi-Fiルーターを使用していることも多く、その場合、11nでアンテナ数が少ない場合がある。

注意すべきは、高速通信という点においては、11acを導入したとしても、スマホなどの端末側が11acに対応していない場合はハイスペック最新規格のWi-Fiルーターのメリットを享受できない場合もあるという点だ。しかし、ここ1年ほどに発売された最新機種のスマホの多くは11acに対応しているので、一度、持っている端末やPCのWi-Fi規格を確認することをオススメしよう

積極的な接客と展示の工夫

ビックカメラ 新宿西口店 主任 PC周辺サプライコーナー担当の販売スタッフ、金子直広さんに話を聞くと、最近Wi-Fiルーターに関するお客からの問い合わせが増加しているため、Wi-Fiルーターコーナーに販売員を常駐させて対応しているという。

ビックカメラ 新宿西口店4階のWi-Fiルーターコーナー。PC周辺機器のなかでも、お客から目立つ位置に配置している

Wi-Fiルーターコーナーの来店客の傾向は、

・40~50歳代のファミリー層
・一人暮らしを始めた人
・通信に不満がある
・接客を求めている

ITリテラシーに関しては、高いかそうでないかで分けると、1:9でほとんどの人が知識があまりないという。お客は来店前に、「Wi-Fiルーターを導入するとスマホなどの通信環境やデータ通信容量においてストレスが軽減される」という情報を入手している人が多い。

しかし、どのタイプのWi-Fiルーターを購入すれば良いのか、ネット等で検索しても、専門用語と商品ラインナップの多さから、よく分からない人がほとんど。そこで、店頭での説明を求めているケースが多いとのことだ。

実際、他の商品の場合、商品を見ているお客に「お困りごとはありますか?」などの声掛けをすると、接客は必要ないと言うお客も結構いるそうだが、Wi-Fiルーターの場合、接客を拒まれるケースはほとんどないという。

販売スタッフの金子直広さん。取材時の質問にもひとつひとつ丁寧に回答してくれた

Wi-Fiルーターの導入を検討している来店客の多くが、動画の快適な視聴とデータ通信容量の低減、家族内でのスマホ利用者の増加がきっかけだという。通信プロバイダが支給するONU兼Wi-Fiルーターや11nのWi-Fiルーターを利用している人の買い替え検討理由も同様だという。

11acのWi-Fiルーターを導入するメリットを訴求するパネル。Wi-Fiルーターコーナー内でも複数掲示してアピールしていた
難しいと思われがちなWi-Fiの規格を、分かりやすく説明したパネルも設置

接客の際は、まずお客の持つ不満点や疑問点をしっかりとヒアリングし、解決策として考えられる情報を提示。実機選びの際は、住まい環境(一戸建てがマンションかなど)や接続する機器の数、必要な機能などを順に聞いていき、お客のニーズに合ったスペックのWi-Fiルーターをオススメしているという。

機種選びの際には、住まい環境、スピードの他に付加機能についても重視したい。同店ではポイントを分かりやすく掲示している

店頭での課題点として、今回取材したメーカー各社の共通認識は、Wi-Fiルーターの「認知向上」。無線、最新規格、ハイスペックタイプを導入すれば必ず生活が便利になることを訴求することが肝要だ。通信環境は、動画が停止して観られないなど、よほどの不具合がなければ、たとえ通信速度が遅くても、現状で満足してしまう場合がある。そこで、Wi-Fiルーターコーナーに来店したお客への接客強化だけでなく、展示の工夫をすることで、通り過ぎるお客の注意を引きたい。

回遊の際の同線上で商品を山積みの島展示にして、お客の注意を引いている

テレビコーナーとの連携

ビックカメラ新宿西口店では、3月からテレビコーナーでWi-Fiルーターの展示を大々的に始めた。「テレビ+Wi-Fiルーター」という紐づけを提案した新しい切り口の展示に、お客が興味を引かれて立ち止まるなど好評だという。

ビックカメラ 新宿西口店3階のテレビコーナーに設けられたWi-Fiルーターの展示。大きなスペースを取って訴求している

同店ビジュアルコーナー担当の販売スタッフ、金子真佐志さんによると、テレビコーナーの来店客の傾向としては、ネット配信動画を見る人が増えており、スマホで見ているけれど、テレビの大画面で見たいというニーズの高まりを感じているという。そこで、スピードの速いルーターを望む声が多い。

また、同店だけでなく、各家電量販店では、4Kテレビの販売においては、地デジではまだ放送が始まらないことから、4Kコンテンツの視聴に、動画配信サイトを紹介することが多い。

テレビコーナーで無線LANの利便性をアピールするパネルを設置。このほかに、Wi-Fiコーナーにも展示している11ac導入のメリットを記載したパネルも設置して、お客の気づきを促していた

さらに、「テレビ+ネット」で、ウイルス感染などのリスクまで意識しているお客は少ない。Wi-Fiルーターにはウイルス対策などのセキュリティ機能を備えた機種があるので、お客に、より安心してテレビのネット接続ができるようにワンポイントの情報を提供できるようになったという。

Wi-Fiルーターのオススメ機種

アイ・オー・データ機器 WN-AX1167GR

型番 WN-AX1167GR
アンテナ数 2×2
最大通信速度 867Mbps(11ac)
商品説明 普及ゾーンの機種ながら、上下、左右、奥行きと360度全方位に電波の死角を作らない、同社独自の「360(さんろくまる)コネクト」を搭載し、ユーザーの快適性を追求している。

また、同社では、光回線、ルーター、PC、スマホなど全てに11 acを導入していても、まだ通信が遅いと感じている人に、回線から見直すこともオススメしている。

現在、スマホの普及が進み、Youtubeなどの動画配信の急激な利用者増加により、既存のIPv4網の設備増強が追い付いていない状況。そこで、現在活用されていないIPv6を利用することでIPv4への負荷を軽減。高速通信を実現できるという。

IPv6に対応しているプロバイダと契約する必要はあるが、WN-AX1167GRはファームアップによりIPv6に対応可能。高速通信が実現できる。店頭では、情報感度の高いお客からはIPv6についての問い合わせもあるという。

エレコム WRC-2533GHBK2-T

型番 WRC-2533GHBK2-T
アンテナ数 4×4
最大通信速度 1733Mbps(11ac)
商品説明 エアコンの宅外からの電源ON、OFFや、レシピ提案をしてくれる電子レンジなど、ネット接続できる家電が増え、IoTは一般家庭にも着実に浸透し始めている。反面、同時に個人情報の流出やウイルス感染など、リスクも潜んでいる。

IoT時代において、家庭内のネット接続機器をまとめるWi-Fiルーターは、ホームゲートウェイの役割を果たす。

WRC-2533GHBK2-Tは、超高速通信や遠くまで電波を飛ばせるだけでなく、トレンドマイクロ社のセキュリティ技術を搭載しているのが大きなポイント。ウイルスを家に入れない、個人情報を家の外に出さない、ネット接続における心強い門番だ。

テレビ単体ではセキュリティ機能を持っていないため、本機で対応ができることをオススメしたい。

バッファロー WSR-2533DHP

カラバリは二種類
カラバリは二種類
型番 WSR-2533DHP
アンテナ数 4×4
最大通信速度 1733Mbps(11ac)
商品説明 バッファローは、Wi-Fiルーターの潜在需要層に、「Wi-Fiルーターは特別なものではない」ということを訴求するため、「デザイン性」に注目。

WSR-2533DHP はアンテナを内蔵してコンパクトにしているだけでなく、シャンパンゴールドというお洒落で高級感のあるカラバリも用意している。目につくところに置くことが多いWi-Fiルーター。インテリアにこだわる女性にも響くデザインだ。

また、すでに11acを導入していても、コンクリートの壁等が障壁となり、電波が行き届かない場所がある。そこで、中継機の需要が拡大しているという。中継機の導入で、宅内のどこにいてもネットとつなげることをオススメしたい。

バッファロー Wi-Fi中継機 WEX-733DHP