アメリカ発体験型ストアの「b8ta」が新宿店と有楽町店を公開 定額制のRaaSによるビジネスモデルで出品社に出店メリットを提供


昨今、デジタルトランスフォーメーション(DX)が注目を集め、このDXによる新しいビジネスモデルの構築を目指す動きが見られる。5年前にアメリカで誕生したb8ta(ベータ)は当初からデジタルを活用した体験型店舗を展開してきた。そのb8taが日本に進出。プレス向けの発表会と店舗内覧会を行った。

出品企業に店内の区画をサブスクリプションで提供

b8taは2015年にアメリカ・サンフランシスコで創業し、同年に第1号店を出店。リアル店舗を展開する小売業だが、同社が行っているのは店内の区画を一定期間の契約で貸し出す“ショップ・イン・ショップ”である。

アメリカではECがメインストリームとなっていく中で、ECに物足りなさを感じる層も少なくないという。何が物足りないかというと、ECでは実機を見ることも触れることもできず、発見する楽しみもない。購入履歴や検索履歴を基にしたレコメンドは出てくるが、それは発見ではない。想像もしていなかった出会い、それが発見というものだ。

ビデオメッセージで挨拶をする創業者でCEOのヴィブ・ノービー氏

世界には創造性と革新性にあふれた製品を開発しているメーカーが無数にある。そのようなメーカーの製品を集めることで、来店客は新たな発見を体験することができる。そこで採用したのが、場所貸しであるショップ・イン・ショップ形式というわけだ。

それでなくてもリアル店舗はECに押されている中、借り手にとって多額の費用をかけて出店するメリットはあまりない。出店社にメリットを提供するための施策がRaaS(Retail as a Service)で、従来の小売業とは全く異なるスキームがお客や出品企業に支持され、現在はアメリカとドバイで24店を展開している。

2015年に創業したb8taは全米で23店、ドバイで1店を展開。日本は3番目の出店国となる

b8taのRaaSに注目が集まる3つのポイントとは

日本法人のb8ta Japan合同会社には小売業である丸井グループやカインズ、商業施設を展開する三菱地所が出資。b8taのビジネスモデルはリアル店舗を展開する日本の企業からも大きな注目を集めていることが分かる。

b8taはRaaSのパイオニアとして店舗を運営してきた。このRaaSが注目されている理由として、同社では次の3点を挙げている。

①現状を打破できる可能性がある
②販売を主目的にしない
③店内での来店客の行動をデータ化

①はECの拡大によって従来型の小売は厳しい状況下にあるが、RaaSによって新しい店舗の価値を提供できるのではないかという期待感だ。

ECは能動的な購買行動で、思わぬ発見というものがほとんどない。そのためECが普及拡大する中で、今まで知らなかったという製品との出会いを求めるニーズが増えてきた。店舗は売上や利益をつくる場だが、この前提を取り去って②を標榜することで、来店客に対するさまざまな提案が可能となる。

新しいマーケティングの考え方にECとリアル店舗の垣根を取っ払ったOMO(Online Merges with Offline)がある。最終的にはお客にどのような体験をさせるかが重要という考えだ。そのためにRaaSではテクノロジーを駆使した③がある。

月額出品費用には接客や販売代行、データ提供も含む

では、RaaSを実践するb8taの店舗は具体的に従来型の店舗とどこが違っているのか。その特徴は以下のとおりだ。

b8taの店舗に売り場という概念はなく、体験を提供する場所と位置づけている

前述のとおり、b8taの店舗はいわゆる場所貸しだ。そのためには企業に対して出品のハードルを下げる必要があり、出品費用は月額定額制のサブスクリプションを採用。1区画約60cm×40cmで月額費用は約30万円前後、最低契約期間は6カ月だ。

この費用の中には『b8taテスター』と呼ばれる商品説明員による接客対応や販売代行、イベントの実施や来店客の声のフィードバックなどが含まれている。お客がその場で商品を購入した場合のマージン等も一切なく、購入金額の100%が出品企業に支払われる仕組みだ。ただし、前述のとおり店舗は販売が主目的ではない。

トレーニングを受けたb8taテスターが来店客に商品の説明を行う。場合によってはその場での購入にも対応し、販売代行や在庫管理なども出品費用に含まれている
1区画には商品と説明用のタブレットが置かれており、POPやパネル等の販促物は一切ない。出品企業にとっては出品に要する手間やコストがかからず、ECと同じ感覚で出品が可能だ。展示品はCADOの脱臭機

店内に設置されたカメラで来店客の行動をデータ化

RaaSでは消費者の行動データを重視し、b8taもこのデータを出品企業に提供するための仕掛けを店内に配置している。有楽町店の店内には22台のカメラが設置され、来店客の行動を追尾。来店客が足を止めて立ち止まった商品やタブレットを操作した商品などをデータとして出品企業に提供する。

カメラは天井に設置されており、中央やや右にあるのはデモグラフィックカメラ。エントランスに向いていて、来店客の年齢層や性別をキャッチした画像から識別する
天井に取り付けられているのはAIカメラ。このカメラで来店客の行動や立ち止まり率を検知してデータ化する
AIカメラは来店客の店内の行動動線や該当商品の前で5秒以上立ち止まった場合の立ち止まり率などを可視化する

これらのデジタルデータに加えて、前述したb8taテスターが来店客に接客をして得られた出品商品に対するコメントなどのアナログデータも提供。これらすべてのデータはダッシュボードと呼ばれる管理システムに集約され、出品企業は与えられたダッシュボードへのアクセス権でログインして自社のパフォーマンスを確認する。

ダッシュボードでは店舗の来店状況や来店客のセグメント分布、男女比率などが把握できる(上)、出品商品では立ち止まった人数や比率、商品説明の回数、来店客の商品に対するコメントなどが閲覧できる(下)

8月1日に新宿と有楽町の2店を同時オープン

8月1日、新宿マルイ本館1階の「b8ta Tokyo – Shinjuku Marui」(以下、新宿店)と有楽町電気ビル1階の「b8ta Tokyo – Yurakucho」(以下、有楽町店)が2店同時オープンとなる。

新宿店は店舗面積が約122㎡でスタッフは丸井からの出向も含めて8名。マルイのインショップという立地からファミリー客の来店を想定。有楽町店の店舗面積は約256㎡と新宿の倍の広さがある。スタッフは8名+αで、オフィス街という立地のため、想定来店層はビジネスパーソンとしている。

出品企業および出品商品については、両店舗で異なる。例えばバルミューダは新宿店のみの出品で、アンカーは有楽町店のみ。NeoLABは両店舗に出品と、企業の考え方によって出品する店舗が異なっているのだ。

プレス向けの店舗内覧会で後者を訪れたので、簡単に紹介しよう。

有楽町店の外観(上)。奥に見えるのは阪急百貨店(下)

店内は木目調の展示台が配置され、照明は天井に付けられたダウンライトのみだが、壁面がガラス張りになっているため、外光を取り込み十分に明るい。各出品区画は前述した幅60cm×奥行き40cmだが、複数の区画を使って出品している企業もある。

有楽町店の店内。本国でも使用しているのと同じ展示台を日本に持ってきた。しかし、平均身長が日本人はアメリカ人よりも低いため、台の高さは本国よりも低くしているとのことだ

ブランドの世界観を伝えるエクスペリエンスルームを併設

通常の出品区画とは別に半個室スペースのエクスペリエンスルームが新宿店には1室、有楽町店には3室ある。このスペースは来店客に出品ブランドの世界観をより伝えるためのもので、装飾や什器などは出品者側で自由に設置することが可能という。

エクスペリエンスルームの1室はGoogleが使用し、Google NestシリーズやChromecast、Chromebookなどを展示
出資企業であるカインズもエクスペリエンスルームでPB商品を展示。カインズの店舗が都市部にないため、b8taへの出品は認知度アップを狙った取り組みとのことである
アンカーはモバイルバッテリー、完全ワイヤレスイヤホン、ロボット掃除機、ホームプロジェクターを出品。プロジェクターの映像は壁面に投影されている
NeoLAB社のNeo smartpenは専用のノートに書いた内容をデジタル化する光学式のペン
展示は商品とタブレットのみで余計な装飾は一切ない。さまざまな商品が展示されているが、雑多な印象はなく、いろいろな商品を発見しやすい

ECでは提供できない体験を店舗で提供

さまざまな媒体ではb8taを体験型店舗と紹介している。実際に操作ができるという点では確かにそのとおりだ。しかし、家電量販店でも体験型売り場をつくる店舗が増えており、b8taが家電量販店よりも優れた体験をもたらすとは言い難い。

ECを念頭に置くと分かりやすいが、ECでは実機に触れたり、操作したり、説明を受けるということができない。このECではできない体験がb8taでは可能という捉え方の方が、家電というフィールドで見た場合はしっくりくる。

b8taのもう一つの特徴である“店頭での発見”については、家電量販店でも注力してほしい部分だ。b8taはファッションやコスメ、スポーツなどのメーカーも出品している。全く関連性がない商品だからこその発見もある。家電量販店では取り扱いカテゴリーに制限があるものの、お客が想定していなかった発見ができる場がもっと増えてもよいだろう。

b8taのミッションは、家電量販店の店頭においても通じるものがある

マーケティング視点でb8taを捉えて店頭で応用

b8taのビジネスモデルは独特で、既存の小売と比較するのはあまり意味がないように感じる。しかし、デジタルマーケティング先進国のアメリカで誕生し、RaaSを掲げて成長してきたのは消費者の支持があったからに他ならない。その点で参考にできる部分はあるはずだ。

一例を挙げると、RaaSで重視されている来店客の行動データ。実は、これは多くの販売員が無意識に把握している。来店客がどこで足を止め、次にどこに行ったのか。この商品とこの商品を見たから、次はこの商品のところに行きそう、などだ。アナログではあるが、来店客の行動をより意識することで販売機会や成約率をアップすることにつなげられるのではないだろうか。

販売員は何気なく来店客の動きを見てアプローチのタイミングを考える。これ自体が行動データを収集しているのだ

また、接客で聞いたお客の声もメーカー営業にしっかりフィードバックすることで、新しい売り場提案やセールストークに生かせるだろう。

マーケティングという観点からb8taを捉えることにより、新しい視点で現在の売り場や売り方を見ることができる。消費者ニーズが変化し、多様化していく中で今後の店頭のあり方を考える好材料がb8taといえるのではないだろうか。