画面越しの遠隔接客は来店客の心を掴むか?「えんかくさん」の挑戦


ポストコロナ時代の店舗接客業の在り方を占ううえで、興味深い事例が立ち上がりつつある。株式会社ベストプロジェクトが仕掛けるテレワーク接客業務支援システムであるクラモニテレショッパー「えんかくさん」がそれだ。現在、ビックカメラ有楽町店など6店舗で週末のみ運用している。ベストプロジェクトの執行役員・東京本部営業本部長の西村幹太氏に話を聞いた。

モニター越しに接客できる「えんかくさん」

「えんかくさん」は店頭に設置したモニター越しに、来店客とオペレーター(テレショッパー)がリアルタイムで会話できるシステムだ。昨今、テレワークなどで使われる、ZoomやSkypeなどのテレカン風景を店頭に持ってきたとイメージすると分かりやすい。ベストプロジェクトが展開する、店舗のモニターをクラウド管理する「クラモニ」サービスの1つとなっている。

店頭のモニターの前には呼び出しボタンがあり、来店客がボタンを押すとスタジオに控えるオペレーターが呼び出されて接客が始まる。遠隔接客による商品説明で購入意志を固めたお客は、備え付けの購入カードを手に取ってレジに向かうことになる。

モニターの周囲にはボタンのほか、カメラ、マイク、スピーカー、什器の背後にはそれらをつなぐパソコンとSIM対応ルーターが設置されている。また、展示機や購入カードも手に取れる位置に置かれている
モニターの周囲にはボタンのほか、カメラ、マイク、スピーカー、什器の背後にはそれらをつなぐパソコンとSIM対応ルーターが設置されている。また、展示機や購入カードも手に取れる位置に置かれている

オペレーターの仕事は原則として商品説明のみで、在庫の案内やクロージングは担当しない。価格交渉や配達希望などの引き継ぎの仕方は、店舗スタッフとの間で事前に決めておく形だ。来店客が目の前にいないときは、モニター画面には商品のデモ映像が流れる。

「えんかくさん」ではオペレーターが、モニター越しにお客の反応を見ながら商品説明できる。

遠隔でありながら来店客に声掛けできる

スタジオでは、最大10店舗をカメラで同時に監視して、オペレーターはその中の1店舗と通話ができる。一人のオペレーターが複数の店舗で、モニターを通した接客が行えるわけだ。接客は多店舗同時では行えないため、ある店舗で接客している間は、他の店舗で呼び出しボタンが押されても、他店で接客中である旨が画面上に表示されて接客は受けられない。
※スタジオ側でオペレーターを複数用意すれば、複数店舗からの呼び出しに順次対応していくことは可能となっている。

オペレーターが待機している画面では、数秒おきにキャプチャしたカメラの画像が、店舗ごとに並ぶ。縦軸が店舗、横軸が経過時間だ
オペレーターが待機している画面では、数秒おきにキャプチャしたカメラの画像が、店舗ごとに並ぶ。縦軸が店舗、横軸が経過時間だ

ユニークなのは、常にカメラ越しに店内を見ている仕組みを活かして、売り場に来店客が来たときにオペレーター側から声掛けができること。これはZoomやSkypeなど、既存のオンライン会議ツールと大きく異なるポイントだ。なお、撮影はするが録画はしていないため個人情報の取り扱いはなく、防犯目的の使用も想定していない。

店舗のモニターの前で来店客が興味を示しているのを見つけたオペレーターは、その店舗を指定して声を掛ける。その際はいきなり画面が切り替わるのではなく、来店客を驚かさないようデモ映像の隅に小窓を表示して、そこにオペレーターが映し出されて来店客の注意を引けるようになっている。

通話中はオペレーターがモニター画面に出す映像を管理でき、あらかじめ用意してある動画や静止画を表示したり、画面上にペンツールで書き込みを表示したりといったこともできる。

現在、店頭で実施しているライブ接客では、店頭での対面販売の経験があるオペレーターをスタジオに派遣してもらって運用しているが、システムはスタジオに限定する必要はなく、必要な機材さえ揃っていれば自宅などからでも接続して接客可能だ。

ベストプロジェクトによれば、オペレーター1人が10店舗を担当したと想定すると、従来、1日に2万円から3万円程度かかっていた人件費を、1日2,500円程度に抑えられる(システム利用料を除く)。

スタジオでオペレーターがライブ接客する様子
スタジオでオペレーターがライブ接客する様子

専任スタッフがいない店舗をフォロー

ベストプロジェクトは創業から40年を超える広告代理店で、店頭の売り場づくりや、拡販イベントなどを事業の中心にしている。「えんかくさん」は新規事業。ソフトはWindows上で動作する完全オリジナルで、開発には時間も手間も大いに掛かったという。

ベストプロジェクトの西村幹太氏は、「えんかくさん」を開発した経緯について次のように語る。

「ポストコロナ環境下では、メーカーによる人員の派遣が難しく、接客要員は不足しがちです。そのうえ、お客様も販売員も至近距離で長く会話するのは避けたいと思っています。お客様は商品の説明を聞きたいし、販売員は商品の魅力を伝えたいのに、どちらも安心して会話ができません。『えんかくさん』は業界の抱えるこの問題を解決する助けになれるのではと考えました。実は去年の今頃から構想して開発は進めていたのですが、新型コロナの影響を鑑みてニーズを掴むなら今だと4月頃から急ピッチで開発しました」

現在、都心の大型店、中型店、地方の郊外店など、大きさの異なる複数の店舗で運用している。地方の郊外店では専任の説明員が常駐できないため、別の売り場の店舗スタッフがお客を誘導してきてボタンを押し、詳しい説明を求めるケースもあるそうだ。

画面越しの接客で購入意欲の湧くお客がいるのかと疑問に思う向きもあるかもしれない。このあたりは、コロナ禍ならではの安全性アピールに加え、オペレーターの腕も大きく関わる部分と言える。

「オペレーターには、発声の上手な人やオンライン塾講師の経験者などもいますが、現在一番販売実績が高いのは、人柄が明るくて画面越しにお客とすぐに仲良くなれるオペレーターです」と西村氏。販売員の笑顔と熱意は画面越しでも重要というわけだ。

セルフでは分かりづらい高額商材や新ジャンルの商材の販売ツール

「『えんかくさん』は、使い方がセルフでは分かりづらい高額商材や新ジャンルの商材の販売支援に向いています。たとえば、Bluetoothスピーカーの高級モデルなどは可能性があると思います。お客様の多くは購入前に自分のスマートフォンと接続して試してみたいと思うはずですが、Bluetooth接続がうまくできない人もまだ多く、スマホとの接続までを画面越しでガイドできると魅力が伝わりやすいのではないかと思います」と西村氏は言う。

「えんかくさん」のオペレーターは、先述のとおり、在庫確認もクロージングも、価格交渉もできない。他のメーカーの商品との比較実演も難しい。カメラの位置がずれたら誰かが戻さねばならないし、呼び出しボタンのそばに置くアルコールジェルなども補充が必要だ。

呼び出しボタンは心理的に押しやすい、市販のよくあるインターフォンと同じデザインのボタンを採用したという
呼び出しボタンは心理的に押しやすい、市販のよくあるインターフォンと同じデザインのボタンを採用したという

「単純に商品の売上を伸ばそうと考えると、実際に店頭に立つ優秀な販売員には敵わないでしょう。きめ細やかなご案内など、リアル接客には勝てない部分もあります。とはいえ、商品の魅力や使い方に説明が必要な商材すべてに販売員を付けるのも困難です。まして、いまは新型コロナで接客がしづらい環境。優秀な販売員のスキルを多店舗で同時展開できるなど、『えんかくさん』をうまく活用できるケースは少なくないだろうと考えています」(西村氏)

新型コロナの影響はまだしばらくは続くと見られている。幸い国内は欧米ほど大きな人的被害に見舞われていないが、いつ拡大しないとも限らない。感染の心配もなく、対面ならではの伝わる接客が遠隔で行える「えんかくさん」は、ポストコロナ時代のひとつの解答を示していると言える。

もちろん、感染の危険が去ったあとも派遣販売員の効率化に活用できる商材は多い。今までの接客とは異なる新たな接客ツールとして、「えんかくさん」の今後の展開に注目していきたい。