東京おもちゃショー2017レポート (Part.1)「手で触る」玩具が人気。その背景とは


第56回目となる国内最大規模の玩具見本市「東京おもちゃショー」が、6月1日~6月4日、東京ビッグサイトで開催された。家電量販店にとって、集客のための重要商材となっている玩具。「東京おもちゃショー」で見た市場の概況と商品のトレンド、そして家電量販店での玩具コーナーの最新事情を、2回にわたりレポートする。

玩具の市場動向

一般社団法人 日本玩具協会によると、2016年度の国内玩具市場は希望小売価格ベースで8,031億円。前年度比100.3%だった。

一般社団法人 日本玩具協会の資料をもとに作成
一般社団法人 日本玩具協会の資料をもとに作成

内訳を見ると、着せ替え人形(前年度比137.4%)と抱き人形(前年度比123.4%)が大きく伸び、タカラトミーの「リカちゃん」とパイロットインキの「メルちゃん」がこれらのカテゴリーを牽引した。さらに「ままごと」も前年度比2桁増となり、日本玩具協会によると、「女児の遊びと言われていたおもちゃで遊ぶ男児が増えているのも近年の特徴」という。

日本玩具協会の富山 幹太郎会長は「東京おもちゃショー2017」のオープニングセレモニーの中で、「子供たちの世界にもデジタルの波が押し寄せ、小さな画面の中ですべてが完結してしまうことや情報量の多さから、おもちゃにできることは少ないと思われてしまうこともあります。そんな時代だからこそ、手で触れて楽しむおもちゃの必要性というものがあるはずです」と現代における玩具の意味合いについて述べた。

オープニングセレモニーでおもちゃ大賞を受賞社を発表する日本玩具協会の富山会長
オープニングセレモニーでおもちゃ大賞を受賞社を発表する日本玩具協会の富山会長

おもちゃは、『平安王朝の時代には「もて(ち)あそぶもの」、また略して「あそびもの」と呼んだ。この「もて(ち)あそび」を語源とし』ている(斉藤良輔著「おもちゃ博物誌」より)。触って遊ぶのがおもちゃの原点だ。

乳児は、よく自分の手足やおもちゃなどを口に入れて舐める動作をする。舌で触ることで、その物体がどういうものかを理解するのだ。大人が視覚だけでその物体の大きさや質感などのさまざまな情報を認識するところを、乳児は視覚と触覚を合わせることで理解する。舐めることがなくなると、今度は手で触って確かめる。「触覚」からさまざまな情報を得ながら、子供は成長していく。

2016年度の玩具市場は、富山会長の発言を裏付けるように、昔ながらの手で触って遊ぶ玩具が好調だった。しかし、その背景を探ると、デジタル社会の進展がアナログ回帰にプラスの影響を与えた面がある。これについては後述する。

玩具の最大の商戦はクリスマス。その後、お年玉商戦でまたひと波あるのが流れだ。販売店では早くから情報収集をして、商戦に向けた準備を進めていきたい。

昔ながらの玩具が好調

玩具市場は3年連続で8,000億円を超えたが、その内訳は年ごとに違う。今年は、子供の成長過程で自然に出てくるニーズと合致している、昔からある遊びが市場を牽引している。先述のように、今年発売から50周年を迎えるリカちゃんと、25周年を迎えるメルちゃんなどに代表される人形遊びだ。

日本おもちゃ大賞2017 特別賞を受賞したメルちゃんとリカちゃん
日本おもちゃ大賞2017 特別賞を受賞したメルちゃんとリカちゃん

その背景には、子供の遊びのジェンダーレス(性別にこだわらない)化があるようだが、そのほかにも要因がある。

パイロットインキの説明員にメルちゃんの売り上げ好調の背景について聞くと、3つの要因があるという。一つ目は、女児玩具市場を盛り上げた「アナと雪の女王」グッズなどの一大ブームとなる商品がないことで、定番商品が再注目されていること。二つ目は、メーカーが販売店向けに用意している「メルちゃん いっしょにあそぼうコーナー」などの体感型販促活動が奏功していること。三つめはYouTubeなどでの情報拡散で、これが最も大きい要因ではないかという。

メルちゃんの体感型販促ツール「いっしょにあそぼうコーナー」

パイロットインキはYouTubeで、メルちゃん等取り扱い商品の遊び方などの動画をUPしている。それらももちろん販売好調の要因になっているだろう。しかし、売り上げ好調に結びつくコンテンツは、一般のメルちゃんユーザーが投稿した、子供が実際に遊んでいる様子を撮影した動画。同年代の子供が他の子供が遊んでいる様子をYouTubeで見て、「楽しそう。私も、僕も同じように遊んでみたい」と思うのだ。

筆者の娘(小学生)も、同年代の子供がUPしているYouTubeの動画を見てさまざまな商品への購買欲求が刺激されており、同級生も同様だという。

さらにタカラトミーの説明員に聞くと、同社はリカちゃんのオリジナルストーリーをYouTubeの公式ページにUPし、好評だという。例えば、「リカちゃんがペットショップでトリマーさんのお仕事体験」という動画は、実際の商品「わんにゃんトリマー にぎやかペットショップ」に連動したコンテンツ。トリマーという職業の紹介もしており、教育番組のような要素も含まれている。

リカちゃんの各シリーズに対応した動画展開
リカちゃんの各シリーズに対応した動画展開

YouTubeなどの動画は放映時間が決まっているテレビと違い、いつでも好きな時にPCやタブレット、スマホで見ることができる点もイマドキの親子に受けている要因だ。

さらにタカラトミーの説明員は、「お人形遊びはいつの時代も変わらない不変なもの」という。子供の成長過程で、お人形遊びは人間の本能的な欲求なのだ。そのような自然な欲求にデジタルデバイスを通して得る情報が加わり刺激されるという点が、現代っ子の購買プロセスの特徴と分析できる。

同じように動画共有サイトなどからの情報が人気の要因の一つとなっている話題の商品がある。メガハウスの「フィンガースピナー」だ。メガハウスがアメリカのメーカーと協力して製造した、指で回転させて遊ぶ玩具だ。

メガハウスの「フィンガースピナー」

昨年の秋ごろからアメリカで、画像共有サイト「インスタグラム」やYouTubeなどに投稿された静止画、動画がきっかけで「ハンドスピナー」という同様の玩具が人気となり、日本ではYouTuber(ユーチューバー)と呼ばれる一般人がYouTubeで紹介したことから話題になったのだという。

さらに、インスタグラムで人気の情報を製品開発に生かしたのが、アガツマの「ラブあみボンボンメーカー」だ。

アガツマの「ラブあみボンボンメーカー」のブース

毛糸などで作る玉状の飾り「ポンポン」。アガツマの広報担当者よると、動物などの顔をデザインしたポンポンが「インスタ映え」するということから、作り方を紹介する「動物ポンポン(誠文堂新光社)」という本が手芸店等で売れ行き好調とのことだ。「インスタ映え」とは、インスタグラムで他者からの好反応を得られるような、印象的な画像のこと。ポンポンは主にOL等から人気となり、もともと編み物の玩具を作っていたアガツマはこの情報を製品開発に生かし、「ラブあみボンボンメーカー」を製造したのだという。

日本おもちゃ大賞2017 ガールズ・トイ部門の大賞を受賞した「ラブあみボンボンメーカー」は、素材の違う毛糸で、大小さまざまなボンボンが作れる。親子でも楽しめるし、OLが自分用として購入することも大いにありそうだ。

「ラブあみボンボンメーカー」の作例
「ラブあみボンボンメーカー」の作例

何かを作りたいという欲求は誰しもに備わっていることだろう。女児のモノづくり玩具は古くから人気だ。先述のメルちゃん、リカちゃんと同様、玩具への本質的なニーズが、インターネットの情報共有サイトからの情報によってさらに刺激されているのだ。

このように、お客の購入意欲にデジタル社会の影響は少なからずあり、それが子供の世界にまで広がっている。

ソニーのおもちゃは「手で触る最新技術」

ソニーは同社の新規事業創出プログラムで初めて玩具に参入し、「toio(トイオ)」を発表した。toioは、体感型トイ・プラットフォーム。toioにコンテンツソフトのカートリッジを入れることで、さまざまな遊びができる。

「リアルな遊びが未来をつくる」というプロジェクトビジョンが表すように、実際に触って動かして遊ぶ体感型の玩具だ。

toioの各部分

toioのtoは「Toy」から、ioは「I/O」を表し、「リアルとコンピュータが融合したエンタテインメント」という意味を持つ。あくまでもリアル、体感にこだわり、それを支えるのが、ソニーの最新技術というわけだ。

toioは、絶対位置センサーと高性能モーターが搭載された二つのキューブを利用して遊ぶ。センサーで自分の位置やもう一つのキューブとの位置関係を把握するキューブに子供が紙などのさまざまな材料で作った創作物を乗せたりすることで、さらに遊びの幅が広がる。また、キューブはリング型のコントローラと連動させることができる。コントローラは片手で持てるので、空いたほうの手でおもちゃなどを触ることができる。

キューブに自分で作ったものを乗せて、相撲ゲームをして遊ぶ様子。対戦する楽しみのほかに、創意工夫する楽しみも得られる

ソフトは現在のところ2つのタイトルを用意。今後さまざまなパートナ―企業とともに、タイトルを企画していく。パートナー企業は、バンダイやレゴなどがすでに決定している。

初期ラインナップのプラットフォームと二つのタイトル
初期ラインナップのプラットフォームと二つのタイトル

このように、今年のおもちゃショーでは、「触る」という原点に立ち還った玩具の復活が印象的だった。しかし、そこにはインターネットでの情報収集や最新技術という、まさに現代ならではの背景があることも特徴的であった。

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東京おもちゃショー2017