8フロアで売り場面積は約4,700坪の超大型店
エディオンなんば本店は地下1階~地上9階の多層階で、売り場面積は15,539㎡、約4,700坪の超大型店舗である。地下は専用駐輪場、9階は「なんばラーメン一座」と名付けたフロアで、1~8階までが売り場となっている。
同社の久保允誉代表取締役会長兼社長執行役員は挨拶で、「大阪に旗艦店を作りたいとの思いから、3年前にここの契約を結びました。どのような店にしようかと悩んだ末、今までにない店を作ろうと考えました。最近はネットに小売業が食われていると言われているので、リアル店舗の良さを発信するため、『体験・体感』を一つのキーワードとして家電とアミューズメントをミックスさせ、“ワクワク感”や“楽しさ”をポイントに置きました。商品を売るのではなく、商品の“価値”を売っていくことがテーマです」と述べた。
エントランス部にはエレベーター3台を設置し、店内のエスカレーターは上りと下り専用がそれぞれ1機ずつ。最上階に前述の「なんばラーメン一座」を配置し、シャワー効果を狙う。
1階はスマホやモバイル関連商材からなるコミュニケーションパーク。スマートウォッチの専門コーナーや宝島社とコラボした若者向けのスマホ関連商材が配置されている。
eスポーツの体験ブースを設置し、オンラインで対戦が可能
2階はPCやロボット、デジカメなどのデジタルパーク。昨今、話題となっているe-スポーツのコーナーを上りのエスカレーター正面に配置。その場でオンラインゲームが体験できる。ゲームによっては1対1の対戦型やチーム編成による対戦型などがあるが、同コーナーのゲーミングPCは常時接続されており、営業時間のいつでもどのような対戦形式でも可能という。
ただし、あくまで体験のため、基本的には1ゲームで入れ替え。使用時間に制限を設けることで、遊びとして使用されることを防ぐ。e-スポーツに興味があるお客に実際に体験してもらうことで、コーナーに隣接したゲーミングPC本体の販売に活かすという。
また、同フロアには文具コーナーも設け、大阪由来の文具メーカーの商品を集めて「大阪文具」として展示している。文具一つとっても、展示にひと工夫を凝らし、来店客の興味を引く展示を実践している。
絵画を撮影してテレビの画質比較に活用
3階はテレビや音響などのAV商品を集めたフロアで、ビジュアル・ミュージックパークと命名。ヘッドホンをゲート状のショーケースに収納し、左右に配置されたヘッドホンを見ながら通り抜けるヘッドホン・ゲートを設置。売り場の中で目新しさと動き、そして遊び心がある展開だ。
スマートスピーカーで実機の操作を体験できるスマートライフコーナーでは、テレビやエアコン、照明などの実機と連動。お客が声で操作することで、実際に実機が作動する体験が可能だ。
テレビはメーカー各社の大画面4Kモデルをメーカーブース形式で展示。また、実物の絵画をムービーで撮影し、それをメーカー各社のテレビに流すことでの画質比較を行なっている。映像は動きがあるので、厳密な意味での画質比較は絶対にできないが、静止画像なら比較ができる。理にかなった新しい試みといえよう。
4階はコスメや理美容家電、健康家電からなるビューティー&ヘルスパーク。資生堂の人気ブランドであるエリクシールをコーナーとして展開し、専任スタッフによるスキンケアやメイクのカウンセリングが受けられる。また、専門ショップとしてEsthe Pro laboとAMPLEURがテナントして入店。それぞれ専門スタッフが対応する形になっている。
最近は身だしなみとしてスキンケアなどに気を使う若い男性が多くなっており、フロアの中に男性向けのスキンケア商品やフレグランスをそれぞれコーナーとして配置した。
健康家電のコーナーでは、エディオンジムとして、ランニングやサイクルマシンを配置。フィットネスではヨガマットやEMSなどの低周波機も展示し、体脂肪計や血圧計などの健康家電とともに、より積極的な意味での健康に関する機器を揃えている。
21種類の生豆を焙煎するコーナーを併設
いわゆる生活家電のフロアが5階のライフパークだ。冷蔵庫や洗濯機、クリーナーなどの生活家電では商品の消費電力や容量などの新旧比較やタイプ比較などをさまざまな手法で提示している。
世界の21種類の生豆からお好みの豆を選んで、さらに8種類の焙煎パターンで提供するコーナーも併設。同コーナーに隣接展示で家庭用焙煎機やグラインダーなど、コーヒーを楽しむための商品も幅広く揃えた。
調理実演や試飲ができるコーナーも設け、味を体感してもらい、確認した後で購入できるよう取り組みも行なっている。
なんば本店の大きな特徴として挙げられるのが、ユニークやキャッチを用いたサインの多用だ。ホットプレートやグリル鍋などのコーナーには「粉もん横丁」と記載されたのぼりを天井から吊り下げ、お客の興味を引く。炊飯器コーナーでは、「戦国武将メシ」とのネーミングで、ご飯の副菜を歴史上の武将と関連させて掲示。アイキャッチ効果が非常に高く、大阪の“ノリ”が感じられるサインになっている。
6階はエアコンや照明、リフォームとともに酒やアウトドアなどのフロア。全体を総称してホームバラエティパークと名付けた。
エアコンはエディオンサービスの工事と連動させ、おすすめ工事として化粧カバーを推奨するとともに、標準工事の範囲も提示する。さらにエアコンは、実機での体感がなかなかできないため、全国最大規模の実演ルームを設けた。
この実演ルームではエアコンの高級タイプと標準タイプを実際に運転して風の当たり具合を体感でき、吹出口の温度差も数値で確認できるというもの。商品比較を単にカタログやPOPなどのスペックで比べるのではなく、お客が実際に体感することで上位モデルのシフトを狙ったものだ。
同フロアには広島の蔦屋家電にテナントとして入店している酒商山田と業務提携した「日本酒店」も併設。国産の日本酒、焼酎、ワインのみを取り扱う。希少価値やブランド力の高い酒は本来の価格以上のプレミア価格で販売されることもあるが、同店では一部を除いて定価販売を行う。
キャラクターの専用ブースとプラモデル製作のレンタルスペースを配置
7階はおもちゃや玩具、プラモデル、ゲームなどのフロアで、同社のおもちゃコーナーであるNeverLandも含めたキッズパークとなっている。
フロアの壁面にはリカちゃんやシルバニアファミリー、レゴなどを、それぞれの専門ブースとして展開。子供連れのファミリーでは、子供ももちろん、親も童心に戻って楽しめるであろうフロアだ。
ガンプラの品ぞろえも多く、これと関連してガンプラを組み立てる有料のレンタルルーム「エディオンビルドベース」も併設している。塗装のためのダクトやエアブラシも用意しており、完成モデルを撮影するためのライティングや背景も備わっているので、モデルの製作から撮影までが同ベースで行える。
また、人気ゲームの「モンスター・ハンター」に登場するリオレウスの等身大頭部フィギュアを設置。モン・ハンファンには格好のフォトスポットで、話題を呼びそうだ。
8階は主にインバウンド向けという趣きで、時計や海外仕様家電、ドラッグやお土産品などを揃えたトレジャーパーク。大阪を訪れる訪日外国人は非常に多く、戎橋近辺の通行者の半数以上が訪日外国客と思えるほどで、久保允誉代表取締役会長兼社長執行役員は「売り上げの約3割はインバウンドで取れるのではないかと思っています」と述べている。
8階はその展示商品もさることながら、販売スタッフにもネイティブの外国人を多数、採用し、インバウンド需要を取り込んでいく考えだ。
そのインバウンド向けとしてフロアに併設したのが、忍者屋敷。有料で屋敷からの脱出ゲームやけん玉の体験などが体験できる。また、オプションで手裏剣の体験コーナーも併設。日本人にとってはベタな感じだが、外国人には受けそうなコーナーといえよう。
全国9店からなる「なんばラーメン一座」を最上階に配置
9階は9店のラーメン店からなる「なんばラーメン一座」で、オリジナルのグッズなどを販売するグッズショップも併設している。最近は訪日外国客にもラーメンが人気で、外貨両替機も用意した。
「大阪の祭り」がテーマで、通路の照明は暗めにして提灯を装飾に活用。祭り囃子のBGMを流し、和テイストのフロアだ。同フロアの営業終了時間は23時で、最も遅くまで営業するフロアとなっている。
店づくりでは女性目線とリアル店舗の特徴を重視
同店の片岸浩一執行役員統括店長は、フロア構成や売り場づくりについて、「今までエディオンがどちらかというと弱かった年代層に対しても再構築して、若い世代の取り込みもしっかりとやっていきたいと考えました」と話す。
展示演出においても従来の店舗より凝った形になっている。その点については「特に女性を意識して、女性目線を重視した売り場を作ろうと考えました」という。
エディオンではECの強化に取り組んでいる。その点で同店はECとリアル店舗の連携によるオムニチャネル化の仕掛けが薄いように感じたため、その点について聞くと、「検討自体はしましたが、最終的には距離を置いたという感じです。やはり、リアルであることを強めに意識して、リアルの良さを重視しました」とのことだ。
繁華街での立地という点から「チラシはオープン期間中だけで、その後の新聞折り込みなどは行わないつもりです」という。その一方で、「なんばは約83万人の乗降客がいます。その方たちに向けてなんば本店では公式ホームページで情報を提供したり、SNSの配信などで集客をしていこうと考えています」と述べた。
大阪色を前面に出した思い切りと徹底度に溢れた店舗
エディオンは、家電業界関係者から展示演出では高い評価を得ている家電量販企業だ。そのエディオンがなんばのど真ん中に作った店舗がどのようなものになるのか、業界内でも関心の的だった。実際に作ったなんば本店を内覧して感じたのは、こちらの想像を上回る振り切りようと徹底度だった。
大阪色をかなりデフォルメして作ったPOPやサインは、よくここまで振り切ったと思うほどの潔さが
感じられる。前述のモンスター・ハンターの頭部立像などはその場に行くと、その大きさが分かるのだが、坪効率という観点では損失以外の何物でもない。随所に設けられたフォトスポットも同様である。このような効率としてはマイナスと考えられるにも関わらず、お客の“ワクワク感”や“楽しさ”のための割り切りは、エディオンに対するイメージがガラッと変わるほどのインパクトがある。
また、リアルの良さを来店客に伝えるため、徹底した「体験・体感」を売り場で実践している点も大きな特徴だ。各フロアの各コーナーで工夫を凝らした体験・体感ができ、お客は自分が体感することで納得して商品を購入できる。いくらネットで体験動画をアップしても、実際の体験に勝るものはない。来店客は、これまで他店では経験したことがない商品の体験・体感が同店ならできる。
エディオンがこれまでの店舗開発や売り場づくり、展示演出などの経験を生かしたなんば本店は一見の
価値がある店舗といえよう。