立地や顧客特性に最適化 ドンキらしさを支える店作り


MEGAドン・キホーテ 渋谷本店の家電売場を束ねる石崎諒太氏は、「売り場はライブ会場のようなもの。臨場感を楽しみに来たお客様の期待に応えたい」と語る。家電量販店とは一味違う、ディスカウントストアならではの家電販売の取り組みを見る。

ディスカウントストア「ドン・キホーテ」の家電というと、2017年の夏にオリジナルブランドで発売した4Kテレビを想起する人が多いのではないだろうか。50V型の4Kテレビが5万円台で、メインボードが東芝製だったことから「ジェネリックREGZA」と呼ばれて話題になった。「情熱価格」のオリジナルブランドも持ち、テレビに限らずさまざまな家電を取り扱う。

PPIHグループ 首都圏 営業サポート本部 第一エリア(都心)トレンドセレクト1MD ゼネラルチーフ 石崎諒太 氏

外国人と学生の多い店舗

一度店舗を訪れてみれば一目瞭然だが、客層、売り場構成、取り扱い品目、展示の仕方、従業員の動きに至るまで、一般的な家電量販店とは大きく異なる。今回取材したMEGAドン・キホーテ 渋谷本店の家電売場は、最上階の6階でフロアの半分程度を占める。残りは時計や旅行グッズ、インテリア、OAパーツなど。エスカレーターがフロア中央にあり、主導線がフロアをぐるりと囲むレイアウトになっている。

エスカレーターで上がった正面は、石崎氏の最も重視する売り場だ。「ここは第二の店頭であり、第二の入り口だと意識しています。ごちゃごちゃして楽しいドンキの圧縮陳列の象徴であり、『ドンキは安い』のイメージを確かなものにするワンコイン家電などの価格訴求力の高い商品を並べています」と石崎氏。
家電量販店であればワゴン陳列に当たる、小物の特売品コーナーだが、ちょっと見ただけでは何を売っているのか分からないほど雑然としながら、力強い「500円!」の表示は商品が見えなくても好奇心を掻き立てる。

エスカレーターを上がってすぐの風景。正面にワゴン展示に相当する驚安アイテムの展示。左の柱の陰にはキャリーバッグが並ぶ
ワンコインで買える商品などをあえて雑多に並べることで、掘り出し物を求める来店客の足を止める

渋谷本店の客層は、グループ店舗の中でも外国人や学生の構成比が高いのが特徴だ。外国人客といっても銀座や新宿に比べると中国人は少ない印象となる。24時間営業していることから、夜は近隣の宿泊客の来店が多くなり、学生が終電でいなくなってからは外国人の比率がかなり高くなるそうだ。
品揃えは、外国人と日本人ですみ分けして展開しており、炊飯器などはメーカー指名での買い物もあるという。最近特に人気なのは、スマホなどのコネクタをアニメキャラクターの小さな人形で保護するキャラクターケーブルバイト。ドラゴンボールやクレヨンしんちゃんなど、海外でも人気のキャラクターがよく売れると言う。

使い方まで分かるPOP

展示は一応商品ジャンルごとに分類されているが、境目は敢えて分かりづらくなっており、調理家電を吟味していたはずが、いつの間にか面白い健康家電を見付けて手に取っているなどということも少なくない。手の込んだPOPがそこかしこに飾られ、天井からは小物が鈴なりで吊るされていたり、手に取って試したくなりそうな高級スティッククリーナーが、踏み台がないと手が届かない高い場所に置かれていたりし、家電量販店の常識ではとても測れない。

だが、細かく見ていくと計算された工夫が随所に凝らされている。高額帯の商品はゴールデンゾーンに置かれ、プライスカードは比較的小さな文字。逆に足元などの視認性に劣る場所には巨大な文字を使い、しゃがまなくても読めるようになっている。
新しいジャンルの商品や、興味深い新機能を搭載した新商品には、使い方にまで落とし込んだPOPを掲示し「この商品で何ができるのか」「どうやって使うのか」が売り場で分かる。こうしたPOPは本部の専門部署で制作するほか、店舗のPOPライターも手描きPOPを作っているそうだ。

「ドンキでしか買えないっ!!」のコピーが目を引く、アイリスオーヤマと共同開発したオリジナルの炊飯器
足元に貼るPOPは物理的に大きなサイズで、文字も大きくはっきり書くことで、腰をかがめなくても見やすくなっている
オリジナルブランド「情熱価格」は価格訴求もさることながら、世の中にないものを出すことに注力し、店頭では他製品との違いを強調する

ライブ会場の臨場感を意識

ドン・キホーテの特徴の1つに、取扱商品を店舗が独自の裁量で仕入れまですることが挙げられる。石崎氏は「マニアックな商品の仕入れを心がけている」と言う。中小メーカーが店舗に直接売り込みに来て商談になることもあるとか。

驚いたのは、仕入れの際にアルバイト(メイト)の意見を重視していること。転勤のある社員と異なり、長く同じ店舗に勤めるメイトが多く、お客の好みなどの店舗特性をよく理解しているからだ。もちろん、売上の全責任は負わせられないため、「加減が難しい」と石崎氏は笑うが、モチベーションアップにつなげ、ストレスにならないよう気を付けているとのこと。

「当社の社長からは、ネットの通販サイトは音楽で言うとダウンロードサイトのようなもので、ドン・キホーテはライブ会場のようなものと考えるよう言われています。同じ音楽好きでも求めるものが違うのだから、商品の検索性より、ライブ会場のような臨場感、アミューズメント感を大事にするのがドン・キホーテだと言うわけです」(石崎氏)。
見たことのない商品を見つける楽しさに重点を置いた圧縮陳列は、家電量販店でも取り入れているところは多い。だが、それを店舗全体で極限まで突き詰めたドン・キホーテの見せ方は先進性で群を抜く。オリジナルブランドの展示の仕方やPOPの使い方などは、家電量販店にとっても多いに参考になるだろう。

小型ドローンも取り扱う。スマホと連動するモデルでは、どうやって使うのかのイメージをそのままPOPにして掲示している
透明のケースに入れて展示する商品は基本的に高級な商品だ。よく見ると高級感を大事にする商品は価格を崩していない
LEDで魔法陣が浮き上がるワイヤレス充電器。遊び心のあるドンキらしい承認がここからしこで見つかる