調理家電売り場の教育施策 普段料理しない販売員が調理家電を上手に売るには


各社は高級タイプのオーブンレンジをおかずづくりの調理器具としてアピールしている。普段あまり料理しない男性のスタッフが、接客で日常的に調理する主婦から共感を得るのはなかなか難しい。どうすれば効果的なのか。ポイントを整理する。

買い替え客の場合、解凍に失敗した経験を持つ人は少なくない。だからこそ、「最新の高級タイプは解凍が上手にできる」というトークはフックになり、価格や性能の違いの説明に繋げやすい。解凍の説明には、下地になる調理の知識なども不要だ。調理経験が少ない男性スタッフも説明しやすいポイントであり、まずはここを押さえたい。

解凍はオーブンレンジの性能の差がわかりやすい。上手に解凍するにはマイクロ波を繊細にコントロールし、食材の表面温度をしっかり見張る必要がある。そのため赤外線センサーとマイクロ波を拡散させるアンテナが高精度に制御できる高級タイプの方がきれいに解凍できる。

例えば、薄切り肉や刺身が端だけ加熱されてしまう「端煮え」を抑え、ひき肉をハンバーグ作りなどの調理にすぐに取り掛かれる状態に解凍できるのだ。

今回の記事執筆にあたり、参考のためにいくつかの店舗で接客を受けた。製品の値段の違いについて尋ねると、「登録メニュー数の違い」「液晶がカラーかどうか」「扉がゆっくり閉まる」といった説明が多かった。もちろん、これらも価格の違いに繋がる要素ではある。だが、価格を上げてまで購入したくなる人は少ないだろう。単価アップを図るには、解凍機能を説明し、価格の違いをより身近な例にして伝えるべきだ。

もし研修会などで、高級タイプのオーブンレンジと、単機能のオーブンレンジ、または古いオーブンレンジを試す機会があれば、解凍機能を使ったときの仕上がりをぜひ比較してほしい。

具体的なメニューで時短調理を説明

高級タイプのオーブンレンジを買う際、お客は「使いこなせるだろうか」と潜在的に不安を抱く。そのため、日常的な調理に使える=使いこなせるというアピールが重要だ。

共働き家庭の増加に伴い、調理家電カテゴリーでは、毎日のおかず作りの「時短」がキーワードになっている。時短調理は具体的なメニューを紹介できるとより説得力が増す。

東芝の用意する、おつまみ1分メニュー、5分メニューといった専用メニューは、そこに注目した機能だ。東芝では、実験的に一部地域でこのおつまみ1分メニューを「居酒屋メニュー」と題して提案したところ、普段あまり料理しないスタッフも時間を掛けた接客ができたそうだ。

石窯ドームのフラグシップ「ER-TD7000」。庫内も活用してPOP訴求

1分メニューの1つ「ピーマンとじゃこの甘辛」の作り方を説明する場合、「ピーマン、じゃこ、醤油、砂糖、ごま油を入れ、ラップをかけて1分加熱すればOKです」と、簡単だ。実は1分で完成するためには、調味料が過度に加熱されないようコントロールしながら高出力で調理しなければならない。それには東芝の温度コントロールとセンサー技術が欠かせない。先に簡単なメニューを具体的に説明して調理イメージを持たせることで、技術的な説明に入りやすくなり、説得力も高くなる。

おつまみ1分メニューを「居酒屋メニュー」風のPOPにして提案

おつまみ1分メニューをきっかけに他の時短メニューや、調理メニューの提案にもつなげられる。普段料理をしている人なら、付属のレシピ集を見れば、他にどんな調理ができるのかは大体わかる。そのため、あまり料理をしないスタッフが接客する際は、レシピ集をお客に渡して見てもらうのがオススメだ。

料理が初めての男子でも本格派のこだわり男子でも対応すると訴求したPOPの例

東芝の場合は、パエリア、煮込み料理、パスタ、焼き物などができる深皿調理の幅広さをレシピブックで視覚的に理解できる。ハンバーグなら、フライパンよりも一度にたくさん作れるなど、写真を見ながら補足していくと、オーブンレンジ調理のイメージをお客に伝えやすい。

左から東芝ホームテクノ 家電商品企画部の澤村明奈さん、鏑城祟宏さん、初川嘉一グループ長

クックパッドの殿堂入りレシピを提案

日立の新製品で注目したいのはメニュー提案だ。レシピサイト「クックパッド」の人気メニュー(殿堂入りメニュー)のうち、30メニューをヘルシーシェフ用にアレンジし、オートメニューとして登録した。さらにスマホ用の専用アプリを使うとメニューの確認、操作方法、お手入れ方法等がすぐに見られる。

オーブンレンジを毎日の食事の支度で活用しようと思っても、どんなものが作れるのかイメージが伝わりにくい。その点、クックパッドの殿堂入りレシピと言えば、たとえビジュアルがなくても、フライパンや鍋で調理するように、オーブンレンジが日々のおかず作りに役立てられると伝えやすくなる。接客の際は、レシピをお客に見てもらい、煮込み料理も焼き物料理も炒め物もできることを確認してもらおう。

日立のヘルシーシェフ「MRO-W10X」は、ダブルセンサーの動きがわかるデモモードを搭載
保冷剤を使用すれば、重さと温度を計測する様子が簡単に見せられる

また、オーブンレンジなら火加減のコントロールはお任せで良い。調理中にほかのことができて「いわば、ほったらかし調理家電だ」と忘れずに伝えていきたい。

最初にどんな料理が作れるのかをお客に確認してもらった後、機能の説明で説得力を増す。ヘルシーシェフは重量センサーと赤外線センサーをダブルで搭載している点が特徴だ。新製品では、ダブルセンサーの動きがわかるデモモードを用意。庫内に保冷剤などを入れると、本体の液晶部にセンサーの読み取りの様子をイラスト化して表示する。そして読み取りを実行すると保冷剤のある位置が液晶部分に表示され、機能の働きが視覚的に確認できる。

デモモードで、庫内に入れるものの重さを変えれば、加熱時間の表示も変化するので「食品の表面温度と重さを見ながら加熱制御するから、解凍や温めが上手にできる」と説明しやすい。

テーブルプレートを取り出してお手入れできるのもヘルシーシェフの特長だ
日立 冷熱家電事業企画部の岩崎健二部長代理(左)、国内商品企画部の仁藤興次部長代理

接客では調理全般の悩みを聞き出す

オーブンレンジはPOPを上手に活用することで、調理経験が豊富でなくても接客できる。お客が求めているのは「今の食事の用意が便利になるのか」「焦げ目のつき具合など、今より調理がもっと上手にできるのか」「簡単にできるか」ということ。まずはお客自身にレシピを見てもらい、最新のオーブンレンジでは「こんなにいろいろつくれるんだ!」とお客のワクワク感を盛り上げ、「こうした多彩な調理ができるのは、センサーやマイクロ波のコントロール技術が進化したから」と繋げていこう。

専用容器で焦げ目の付く調理を実現したアイリスオーヤマの「かんたん両面焼きレンジ」

日常のおかずづくりのレシピ提案は、各社とも力を入れている。だが、オーブンレンジを買っても、普段使うのは温めや解凍で、オーブンを使うのはご馳走やケーキ作りの時だけというイメージを持っている人は少なくない。レシピでの提案は、それを払拭するためにも重要だ。各社の用意するPOPやレシピをお客との対話のきっかけにしよう。

その後は、お客の今の調理スタイルで「今こうしている」「もっとこうしたい」という困りごとを聞いていく。オーブンレンジへの不満ではなく、調理全般への悩みを聞くのがポイントだ。

シャープの「AX-XW600」は、副菜などが簡単に作れる「低温青菜蒸し調理」を搭載

例えば、お弁当をよくつくるなら、レンジで複数のおかずを同時に調理できることや短時間調理を説明する。共働きなど食事の支度にあまり時間が取れないなら、メインのおかずはオーブンレンジで調理すればその間に他の家事ができることを伝える。乳児がいる家庭なら、低めの温度での離乳食の温め直しができ、親の食事も火加減をお任せでつくれて洗い物が少なくて済むと伝えると良い。

こうした調理全般への不満は、オーブンレンジだけでなく、冷蔵庫などほかのキッチン家電の接客のネタとしても活かせる。販売員同士でお客から聞いたことを共有するとさらに良いだろう。

「ワンボウルパスタ」や「ワンボウル中華」を提案するパナソニックのビストロ「NE-BS1600」