特別レポート 新生活向けデザイン家電
新生活向けを中心に拡大 シンプル&ラグジュアリー
かつて、新生活向け家電と言えば、お金を節約したい独り暮らしの学生や新社会人に向け、機能は最小限に絞って、デザインよりもコストダウンを優先させたことが露骨に分かる製品が多かった。
だがそれも今は昔の話だ。新生活需要でのプラスαが提案でき、顧客単価アップに繋がるデザイン重視のモデルが各社から次々と登場している。製品ジャンルは幅広く、新生活向けのほぼすべてのジャンルと言っても過言ではない。
商品変化を受け止めて見せ方を工夫する売り場も徐々に出てきた。
新入学は母親の攻略が重要
新入学は毎年約100万人が発生し、これに新社会人や単身赴任などを加えた数字が、新生活需要となる。
「当社では、このうちの4~5割が独り暮らしと捉えています。だいたい50万~60万人の市場ではないかと。この中には、家電は2~3年持てば良いという人と、もう少し長期的に使いたいという人がいます」と語るのは、ツインバード工業 開発生産本部 プロダクトディレクション部 副部長 岡田 剛 氏だ。
長く使うつもりか短く使うつもりかの差はあれど、新入学の場合、お金を出すのは十中八九、親だという点には留意しなければならない。多くは母親が自分で使いやすそうだと感じた製品に、子供の性格を加味して判断する。つまり、子供に気に入ってもらえることも大事だが、より重要なのは母親に認められることだと言える。
これは新生活商戦の大前提であり、伝統的な考え方だ。
親は自分が独り暮らしをしていた時のイメージで、揃えるべき家電をリストアップするため、子供があまり使わない家電でも、不自由のないよう「とりあえず持たせる」ことが少なくない。「財布に優しく、自分の子供でも使えそう」に感じる使いやすそうな家電は、相変わらずニーズが高いのだ。
合理的思考な若者が増加
一方で、デザイン性や機能性を重視する若者が増えてきている。流行を追う場合もあるが、基本的には自分の嗜好があり、家電に限らず家具や文具などにも個性を求める。部屋全体がナチュラルでニュートラルであり、暮らしやすさを犠牲にしてまで趣味にお金を回さない。
逆にこだわらないことには、徹底してこだわらない。中古にもこだわらないので、メルカリやヤフオクも躊躇せず利用する。家電量販店もホームセンターもECサイトもフラットに比較、場合によっては購入前にレンタルで試す。
学生から社会人になると、家電を買うときにお金を出すのが親ではなく自分になる。購入時に自分に合うデザインで、使い勝手が良いと自分が感じる製品を選ぶ者はさらに増える。最重視するのは安さではない。多少高くても納得のいく良いものを求める。とても合理的なのだ。こんな世代に訴求するには、作る側にもオリジナリティの高いものが求められる。
オリジナリティで差別化加
岡田氏はオリジナリティの高い新しい家電の試みとして、2018年秋に発売して注目されたコーヒーメーカー「CM-D457」を挙げる。
「こだわったものを作るに当たり、お客様のコーヒーライフを大事にしたい、その姿勢を示せるプロダクトストーリーが欲しい。そう考え、バッハ・コーヒーの田口 護先生に監修に入ってもらいました。すべての工程を指導された正しい作法で再現するべく丁寧に作り、お陰様で好評を得ています。今後、こうした製品を増やしていく必要があると考えています」。
学生が買うには少々贅沢品だが、コーヒー好きな社会人なら、新生活に持ち込むこだわりの一品になる。
もちろん、数を追うのは値ごろ感がありながら、チープに見えないシンプルなデザインの家電だ。冷凍容量がクラス最大級の2ドア冷凍冷蔵庫「ハーフ&ハーフ HR-E915」は、独り暮らしがよく使いがちな冷蔵・冷凍食品が収まりやすい棚の高さと奥行きに設計している。
ミラーガラスとマットブラックで統一したデザインを採用する「Mirror Design」シリーズでは、冷蔵庫、電子レンジ、オーブンレンジを揃える。デザインが揃っていると、導入時の部屋の様子が想像しやすくなるのに加え、「ミラー効果で部屋が広く見える」というセールストークが効く。
店舗を訪問して関係構築
ツインバード工業 営業本部 営業企画部 担当部長 池 正明 氏は「学生はもちろん、社会人になったばかりでも、199Lの冷蔵庫を探す人が結構いるのです。野菜室が独立していて、最小サイズの冷蔵庫は、国内では当社製品です。母親には国産メーカーである点が響きます」と述べる。
同社は社内に店頭構築部門があり、店舗を訪問活動しながら関係構築するという。
「キャンペーンは、製品を購入するお客様を増やすことだけでなく、店舗とのコミュニケーションツールとしての側面を重視して展開します。販売応援もできるだけ毎回同じ人間が同じ店舗に行きます。そのほうが間違いなくコミュニケーションが取りやすくなるからです」(池氏)。
販促策として重視する、販売応援や実演体験会、キャンペーンの実施。これらの狙いは店長や店員とのコミュニケーションの深化という訳だ。
Wi-Fiルーターは必需品
近年、新生活における必需品となっている家電の1つにWi-Fiルーターがある。PCやスマートフォンを常用する若者の場合、据え置き型だけでなくモバイルWi-Fiルーターも引き合いが強い。
Wi-Fiルーターがコモディティ化したことで、有線のみのルーターは業務用以外ではほぼ見掛けなくなったし、セキュリティの脆弱なIoT家電は、セキュリティをWi-Fiルーターやネットワークゲートウェイに委ねるしかないため、Wi-Fiルーターの需要は以前より増している。
それに伴い、Wi-Fiルーターのデザインも変化してきた。バッファローが2018年8月にリリースした、「AirStation connect」シリーズは、従来のWi-Fiルーターが踏襲する箱型のデザインからパラボラアンテナを想起させる円形のデザインとなって大きな注目を集めた。2019年11月には、シリーズの新製品として、デジオンが機器組み込み向けに用意するセキュリティ機能「ネット脅威ブロッカーPremium」を搭載する「WTR-M2133HS」を発売した。
家庭内に入るIoT機器が増えれば、Wi-Fiルーターは電波効率の良い室内のより目立つ場所に配置せざるを得なくなる。部屋のインテリア性まで考慮したデザインが求められるという判断だ。
「ちなみにWi-Fiルーターはカラバリで出るのは、黒が約7割、他の白やゴールドで約3割という構成比です。基本的に、室内で主張しない色を選んでいるので、赤や青は今のところ用意する予定はありません。部屋に馴染む色で白か、目立つ色にしたい場合でゴールドというケースが増えてきています。AirStation connectシリーズでは、特にリビングへの設置を念頭にしていることもあり、インテリアに溶け込みやすい白で、本体と専用中継機を揃えています」と語るのは、バッファロー ブロードバンドソリューションズ事業部 マーケティング課 マーケティング課長 下村洋平 氏だ。
部屋が広ければメッシュ
新生活がワンルームであれば、従来タイプのWi-Fiルーターが1台あれば十分だが、もう少し広い部屋や、一軒屋に移る場合、Wi-Fiルーターの設置できる場所によっては、部屋の中にWi-Fiの届かないエリアができてしまう。特にWi-Fiルーターは家具よりも後回しにされがちなので、死角ができてから導入となることが多い。
そんな環境に向けてWi-Fiルーターメーカー各社が提案しているのが、メッシュ(mech)ネットワークだ。メッシュとは網のこと。中継機を利用することで、1台では届かないエリアまで網目のように通信エリアを広げる。
バッファローにもメッシュネットワークに対応した複数の製品があり、Air Station Connectがその対応ブランドという位置付けになっている。
バッファロー ブロードバンドソリューションズ事業部 マーケティング課 コンシューママーケティング係長 髙木義行 氏は、「今年1月中旬に、ACアダプタいらずのコンセントに直接挿す中継機『WEM-1266WP』も発表しました。廊下や壁面のコンセントなど、場所を選ばず設置できます。上部への突出を抑えているので、コンセントの下の差込口を使えば、上を塞がずに利用できます。据置型のデュアルバンドルーター『WEM-1266』と組み合わせ、メッシュネットワークを構築して、屋内に通信エリアを広げられます」と新製品を紹介する。
セットで導入すれば、親機の初期設定のみで運用開始でき、引っ越しの忙しい中でわずらわされずに済む。
今後はWi-Fi6対応が主流に
Wi-Fiルーターはセルフ商材と思われがちだが、接客がまったく不要な商材でもない。各社から様々な製品が出ており、通信速度と価格だけで選べるものではなくなっている。お客が店員に相談したときに、店員がお客に利用環境を聞いて、マッチするものを提案できるのが理想だ。
「地道に勉強会を開いて、商品のことを理解してもらっています。商品の単価を考えると、一人のお客様当たりに20分以上の接客時間は掛けたくない商材です。メッシュネットワークの認知率はまだ1割にもなりません。
『メッシュネットワークって何?』というお客様に、その魅力を手短かに理解していただけるよう、店頭向けのプロモーションムービーを用意しました。メインはお客様向けですが、販売員にも見てもらい、理解を深めてもらえると嬉しいです」(下村氏)。
Wi-Fiは4~5年ごとに新しい規格が登場する。現在は、IEEE802.11acが主流となっており、今回、IEEE802.11axに移り変わろうとしている。このIEEE802.11axが、Wi-Fi6と呼ばれる新しい規格だ。
今後、数年の内にWi-Fi6対応のデバイスは爆発的に増える。スムーズな利用には、Wi-Fi6対応のWi-Fiルーターが必要だ。注意したいのは、Wi-Fiルーターの買い替え頻度が5~6年だということ。いますぐ買ってもWi-Fi6の対応デバイスは少ないので、宝の持ち腐れになると考えるお客は必ず出る。
「iPhone 11は5G未対応にも関わらず、Wi-Fi6対応です。他のスマートフォンも次々と対応してくるのが目に見えます。2~3年後にスマートフォンを買い替えるときのことまで考えて、ルーターを選んで欲しいのです」と髙木氏。
Wi-Fi6に対応するのはスマートフォンだけではない。今後はIoT家電も家庭内で使われるようになり、既存のWi-Fi環境では家庭内で通信の渋滞が起きてしまう。Wi-Fi6は下位互換が保たれるため、現在のデバイスが使えなくなることはない。安心して買い替えてほしいと述べる。
白または黒での統一が流行
新生活商戦を意識して、デザイン重視の製品を投入するメーカーは今後も増えていくだろう。今期特に目に付いたメーカーとしては、他にシャープの「PLAINLY」と、アイリスオーヤマの「BLACK LABEL」及び「WHITE LABEL」にも触れておきたい。
PLAINLY(プレーンリィ)は、英語で「飾り気がない」「率直な」といった意味の単語。「ここちよく暮らすための家電」をコンセプトに、統一感のあるフラットですっきりしたデザインのオーブンレンジ(18L)、単機能レンジ(17L)、IHジャー炊飯器(5.5合/3合)、ガラスドア冷蔵庫(137L)をラインアップする。いずれも本体は黒と白を用意している(5.5合炊飯器は黒のみ)。
アイリスオーヤマは、発売中のデザイン性を重視した家電8機種をブラックとホワイトの2つの系統に分けて、新しいシリーズ家電にしたもの。
8機種の内訳は、冷蔵庫(162L)、縦型全自動洗濯機(8kg/7kg)、IHジャー炊飯器(3合)、オーブンレンジ(18L)、ミル付き全自動コーヒーメーカー(600ml)、電気ケトル(1.0L)、スチームトースター、紙パック式スティッククリーナーとなっている。
改めて指摘するまでもないが、白または黒での統一が流行りだ。同じ白や黒でも同一メーカーで揃えれば、よりスッキリしたインテリアになる。ただ、色だけ揃えてメーカーはごちゃまぜでも大きな違和感はない。売り場でも同一メーカーでのセットにこだわらず、色で揃えたセット提案などで、お客のニーズが汲み取れる展示を心がけたい。