特別レポート 法人PCと個人PC


久しぶりの好景気に湧いたPC市場だが、2020年度は特需の反動が懸念される。特に法人向けPCは需要を大きく先食いした印象が拭えない。台数ベースでの減少は不可避としても、金額ベースで数字を維持するために何ができるのか。

法人PC売り場では個人PC売り場とは違う提案が必要になる

Windows 7のサポート終了に伴う買い替え需要や、働き方改革の流れに牽引され、2019年度は法人向けPC(以下、法人PC)のリプレースが大きく進んだ。ホーム向け・個人向けPC(以下、個人PC)も法人PCほどではないが伸び、PC市場は久しぶりに賑わった。

2020年度はこの反動が出る。個人PCは法人PCほど伸びなかった分、反動も小さく抑えられるが、法人PCを取り扱っていた店舗は、対前年比が厳しい数字になる可能性がある。

本誌ではこれまで法人PCを題材に取り上げることは少なかった。改めて考えると、個人PCと法人PCでは何が違うのか、整理できていない人もいるだろう。実際、個人PCを仕事に使っても機能面で支障が出ることは少ない。ならば何故分かれているのか。

今回は法人PCと個人PCの違いを再確認し、2020年度のPC市場の課題を考える。

法人PCは本物の質実剛健 セキュリティやサポート重視

先に法人PCと個人PCの違いをまとめる。ざっくり言うと法人PCは業務に必要な機能や性能を重視するため、セキュリティやサポートの信頼性が高い。

例えば、法人PCの取り扱いには修理の際に専門のエンジニアを派遣するオンサイト(出張修理)が用意されている。業務によっては機密情報管理などの理由から外に持ち出せないため、万が一の修理が発生したときを考えると、オンサイトに未対応では業務利用の選択肢から外れる訳だ。支払い方法も個人PCより多彩で、見積書の提示や請求書払いにも対応する。

ハードウェアは、パーツ単位でのカスタマイズに応じることも多く、堅牢性や耐久性、可搬性、低消費電力性といった実用性を重視する半面、業務に不必要な機能は削ぎ落としてコストダウンを図る。このため、スペックベースで比較すると個人PCよりも安価に感じる場合が多い。

ただし法人PCでは、スタイリッシュなデザインやカラーバリエーション等は無視されがちで、ラインアップに黒しか用意していないメーカーも少なくない。一言で表現するなら「質実剛健」なのだ。

NECの「VersaPro」に、新たに14.0型が登場し、15.6型、14.0型、12.5型のラインアップとなる。左が14.0型の「タイプVM」、右は12.5型の「タイプVC」
法人PCには、有線LAN(RJ-45)コネクタなど、レガシー化しつつある接続端子を備えるモデルも比較的多い。上はタイプVMの右側面。下はタイプVCの背面

このほか、個人PCのOSは、Windows 10 Homeが多く、ビジネスで使えるモデルでもWindows 10 Proまでだ。法人PCのOSはWindows 10 Proが基本で、場合によってはWindows 10 Enterpriseとなる。また、LTSC(囲み参照)が用意されているのは法人PCのみとなる。こうした専門的なモデルもラインアップに用意されるのが法人PCの特徴と言える。

反動減対策は単価アップと追加提案

冒頭でも触れたとおり、2019年度のPC市場は法人PCのリプレースが大きく伸びた。2020年度にはこの反動で販売台数はかなり厳しくなる。影響を抑えるため、PCメーカー各社は「働き方改革の推進」という御旗のもと、「単価アップ」と「追加提案」につなげ、販売金額の維持に努める。

単価アップに関しては、マイクロソフトを中心に主要なPCメーカーが「モダンPC」を提唱している。モダンPCは高い性能を備え、ユーザーの創造性や生産性を高めるPCとされ、主に個人PCで訴求しているが、法人PCでも当てはまる仕様は少なくない。

マイクロソフトやPCメーカーは高性能なモダンPCを推す

例えば、狭額縁化による大画面化とフットプリント(接地面積)の縮小などは、個人PCも法人PCも上位モデルでは同じ傾向だ。従来の13.1型のフットプリントに14.0型の液晶画面が組み込まれたモデルなどが登場し、画面サイズを維持したまま省スペース化を実現している。店頭で旧モデルと横並びで展示すると、違いが際立って商品の魅力が増すはずだ。

法人PCのほうが個人PCより積極的に対応している例もある。生体認証などがそうだ。指紋認証や顔認証はいちいちパスワードを入力しなくて良く、セキュリティを向上しながら作業効率アップが図れる。NECの提供する、マスクを着けた顔でも識別可能な顔認証PCセキュリティソフトウェア「NeoFace Monitor」などが有名だ。

NECは生体認証のNeoFace Monitorを武器にする

セキュリティやサポートのより手厚い提供、周辺機器の用意、業務効率向上などの新しいサービスの提案も売上拡大につながる。

Dynabookは1月に自社の法人PCや周辺機器、マイクロソフトのグループウェア「MicrosoftTeams」などを組み合わせたソリューション「DynaTeams」を発表した。同社がハードウェアやソフトウェアのサポートをワンストップで提供することで、案件ごとに個別に問い合わせ先を探す必要がなくなり、社内コミュニケーションの効率化や会議時間の短縮、テレワークの支援などを進めるという。

DynabookはB2B向けに新たにDynaTeamsを開始する

これらのサービスは家電量販店の法人コーナーに直接売上をもたらすものではないが、売り場はメーカーにとっては重要なプロモーションの場の1つだ。

NECではおすすめの構成が記載されたカタログを法人コーナーに設置するなどして実売促進を図っており、前述の「NeoFace Monitor」によるセキュリティ強化策推進のための勉強会なども実施していると言う。

2020年度のPC市場は、文教向けやゲーミングなどの分野も注目されており、専門性の高いモデルは堅調な推移が期待されている。台数の伸び悩みが目に見えるだけに、売れる分野を取りこぼさず、いかに単価を上げていくか。付加サービスを提案するか。法人個人ともに売り場の底力が試される。

LTSCとは

Windows 10のLTSC(Long-Term Servicing Channelの略。長期サービスチャネル)は、工場や医療現場などミッションクリティカルな現場で使われるバージョン。更新頻度が高いOSは情報システム部門の負担が大きくなり、更新によって現場でトラブルが発生したときのリスクも大きくなるため、機能更新プログラムが適用されないLTSCが用いられる。