新型コロナウイルス不況に強かった家電量販企業


新型コロナウイルスが全世界規模で猛威を奮っている。比較的穏やかに推移していた日本も、東京を中心に感染者が急激に増加しつつある。ほぼすべての業界が影響を受けており、流通業も例外ではない。ただし、3月中旬時点での家電量販業界を見ると、影響は比較的小さい。その背景を紐解く。

健闘する家電量販企業

マスコミが連日のように、新型コロナウイルスの影響で流通企業や飲食企業が大きな影響を受けていると報じている。

実際に、デパート、コンビニ、ホームセンターの2月の月次情報(既存店ベース)を見るとおおむね以下のとおりだ。

2020年2月の月次売上状況(既存店ベース)
2020年2月の月次売上状況(既存店ベース)

デパートはインバウンドの売り上げ減と新型コロナウイルスによる来店客減で、売上を大きく落としている。

逆にコンビニやホームセンターは、新型コロナウイルス対策のためのマスク、手洗い用品、除菌用品等のまとめ購入で売上を伸ばしている。

では、家電量販企業はどうだろう。

2020年2月の月次売上状況(前年比)
2020年2月の月次売上状況(前年比)

全店ベースだが、2月の月次情報を見るとビックカメラを除いてケーズデンキもエディオンも好調だ。

もちろん、今年は閏年なので2月は前年よりも営業日数が1日多く、祭日や土曜日も多いという背景はあるものの、それはデパートも同じこと。家電量販企業は新型コロナウイルスの影響を思ったより受けておらず、むしろ健闘している方だと言えるだろう。

コンビニやホームセンターでは、新型コロナウイルスの対策商品を沢山扱っている。家電量販企業の一部の店舗でも、マスクやティッシュペーパー等の生活必需商品は販売しているが、経営全体に影響を与えるような大きな売上ではない。

あとはau PAYも2月の家電量販企業にとっては追い風となり、特にパソコンやゲーム関連の需要を押し上げた。とはいえ、au PAYの金額は、家電量販企業にある程度の恩恵は与えたものの、これも日用品同様で好影響は限定的であり、経営全体に影響する規模ではなかった。

それでは、なぜ、家電量販企業は新型コロナウイルスに対して強い業界だったのだろうか。

家電は安定した買い替え需要に支えられた

家電量販企業で月次情報を出しているのは、ビックカメラ、コジマ、エディオン、ケーズデンキの4社である。

発表している商品部門が企業によって異なるので、比較的近いケーズデンキとコジマの商品別の2月の売上動向を見比べてみよう。面白いことが分かる。

主要家電製品の2020年2月の売上状況(前年比)
主要家電製品の2020年2月の売上状況(前年比)

2月の商品別の売上を見ていると、多くの商品で前年対比100%を維持している。両社とも昨年を割っているのは、エアコンくらいだ。

テレビとパソコンは前年比を大きく上回った。パソコンはWindows 7のサポート終了による買い替え需要が引き続いて好調で、au PAYの後押しも受けた。

テレビはちょうど買い替え時期に来ており、昨年からずっと好調。冷蔵庫や洗濯機、調理家電、理美容家電も堅実な売上を示している。

家電製品の多くは、生活必需品である。冷蔵庫が壊れると普通の家庭ならばとても困るはずで、やはり家電量販店に出掛ける。洗濯機やテレビも同じである。

つまり、生活必需品と言われる商品は、新型コロナウイルス等の影響はある程度あっても、売上は大きく落ちていないのだ。

家電量販店の店長に話を聞くと、「来店客数は時間帯によっては落ちているが、売上はあまり落ちてはいない。むしろ、この時期に来店する顧客は、購入目的が強いので売上に結びつきやすい」と言う。

デパートはどちらかと言えば、生活必需品より嗜好品を販売している。嗜好品の販売は景気の影響を受けやすい。一方生活必需品は、あまり景気の影響を受けにくい。

そのことは、コンビニやホームセンター等の売上が、2月も良かったことでも分かる。コンビニやホームセンター、ドラッグストア等では、トイレットペーパーやティッシュペーパーといった生活必需品が売上の対前年比に大きく貢献している。

2月末以降、都内のドラッグストアのトイレットペーパー売り場は連日品切れが続いている
2月末以降、都内のドラッグストアのトイレットペーパー売り場は連日品切れが続いている

メーカーのサプライチェーンの影響

新型コロナウイルスの影響が大きくなった3月の数値はどうだろう。

郊外型の家電量販企業は売り上げの落ち込み等はあるものの、思ったより売上は落ちていないようだ。ただし、都市部の家電量販企業は売上を落としていると見られる。

都市部の家電量販企業は新型コロナウイルスの影響以上に、インバウンド減の影響が大きい。なにしろ、2月の訪日顧客は-58.3%という数字である。都市部の家電量販企業はカメラ、時計、理美容機器、化粧品とインバウンド需要の売上が大きく、訪日外国人の減少は売上に直接響く。

新型コロナウイルスの流行で訪日客が激減し、インバウンドコーナーは非常に大きな影響を受けた
新型コロナウイルスの流行で訪日客が激減し、インバウンドコーナーは非常に大きな影響を受けた

加えて都市部の家電量販企業は携帯電話(スマートフォン)の売上も大きく、昨年から携帯電話の需要減の影響を受けていた。そこに新型コロナウイルスによる外出自粛等があり、さらに影響を受けている状態だ。

郊外型、都市型、いずれの家電量販企業も、新型コロナウイルスによる外出自粛の影響は5~10%程度と考えられる。売上により大きな影響を与えているのは、来店客数の低下ではなく、メーカーのサプライチェーンが崩れ、商品の欠品が多く出ていることであり、新製品の発売日が延びていることだ。

3月は納入商品の減少による売り逃しが心配される。一部の商品は3月の前半に注文しても、5月納品というように1か月以上も待たなければならない。

テレビの報道で毎日、新型コロナウイルスの影響で流通企業や飲食店が困っているとかしましいが、ここまで見てきたように家電量販企業は頑張って善戦している。

新型コロナウイルスによって状況が変化しているのは売上だけではない。たとえば近年、郊外型家電量販企業は商品回転率が落ちており、在庫が少し多い状況にあった。3月はメーカーの供給が遅れているために、現在持っている商品の在庫を販売することになり、在庫は少なくなり効率化が推進されている。家電量販企業には、転んでもただでは起きない逞しさがある。

ただしこれも継続可能な対策にはならない。心配なのはサプライチェーンが毀損しているメーカーが少なくないことだ。3月は多くの家電メーカーの決算月である。3月に納品できなければ、売上は立たない。決算に深刻な影響が出るところもあるだろう。家電量販企業もメーカーの商品供給が速やかに行われないと販売は厳しくなっていく。サプライチェーンがこのまま回復しないと、5月以降にさらなる売り逃しの発生が予測される。