生活基盤産業として再評価される家電量販企業


新型コロナウイルスの感染拡大は、かつてないほどの混乱を巻き起こしている。外出自粛や3密回避の動きは大規模で集客力のある店舗を直撃。多くの小売り業の業績に多大な影響を与えている。しかし、家電量販企業の受けた影響は他業態ほど大きくない。在宅時間の増加は家電の価値を再発見し、需要の増加にもつながっている。

コロナウイルスの影響は大だが、他業態よりも小さい

新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済に対してかつてないほどの大きな影響を及ぼし、2020年度第1四半期(4~6月)のGDPは前期比-20%以上の落ち込みになると予想されている。当然のことながら、家電量販企業にも新型コロナウイルスは大きな影響を与えている。しかし、一方で家電量販企業が百貨店やファッション専門店、ショッピングセンターほどの影響を受けていないのも事実である。

また、株式会社Wizleapが5月中旬に行ったインターネット調査「家電量販店再開に関する意識調査」(出典:ほけんROOM マネー・ライフ調べ)では、調査対象者の93%が家電量販店の営業再開を歓迎。また、緊急事態宣言による自粛期間中に営業をしている家電量販企業に対しても消費者からの異論やクレーム等はほとんどなかった。

家電本来の需要と非家電商材の扱いが奏功

家電量販企業が取り扱っている商品群を見ると、ほとんどの商品が一般消費者の生活を支える商品ばかりであることが分かる。生活に必要で、ないと困る商品が非常に多くある。例えば、冷蔵庫や洗濯機、炊飯ジャー、レンジ、エアコン、テレビなどの商品は新生活需要でもピックアップされており、生活必需品といえよう。

また、在宅勤務等が増加したことにより、パソコンも必需品となっている。さらにここ数年、家電量販企業が力を入れているドラッグ関連商品、日用生活雑貨、食品等についても新型コロナウイルスをきっかけとして、利便性の点で顧客から高い評価を受けた。

パソコンおよびパソコン関連商材はテレワークによって需要が増加した

マスク等はドラッグストアに在庫がなかったものが、家電量販店にはあり、家電量販企業の力が再認識された。生活に必須というわけではないが、在宅時間の増加で余暇のニーズが高まった玩具は、今や家電量販企業が主力の販売ルートだ。

家電製品の持つ用途や機能と家電量販企業の取り組みが、結果として前述の百貨店やファッション専門店などよりも影響が少なくすんでいる証左であろう。

好調に見えるドラッグストアだが、4月売上高はマイナス

下のグラフは2020年4月の売り上げを表したもの。スーパーマーケットは前年同月比10.7%増、ホームセンターも同3.4%増となった。外出自粛や3密回避で買い物が制限され、スーパーマーケットやホームセンターでまとめ購入が増加、そのために買い物金額も増え、両業種の売り上げがアップしたと推測できる。

一方、マスクや除菌剤等の需要が急増し、好調と思われたドラックストアだが、これらの需要増の反面でインバウンド需要の低迷や外出自粛による化粧品売上の低迷なども起こっており、前年同月実績を下回っている。企業によって差異はあるが、2020年4月の売上高は傾向として前年同月比で5~10%程度落ち込んだようである。

エリアや立地、店舗規模が4月の売り上げに影響及ぼす

家電量販企業の4月売上高については、ケーズホールディングスが前年同月比1.5%減、エディオンが同11.7%減、ビックカメラは同37.9%減で、コジマは逆に同4.5%増と伸長した。

月次情報自体を開示していないが、ヤマダ電機は生活家電製品の売上構成が大きく、また、ここ数年はドラッグ関連商品、生活雑貨関連商品の品揃えを強化。メーカーによると、同社の状況はケーズホールディングスに近いようだ。

ケーズホールディングスとエディオンはコンビニやドラックストアと近い実績で、コジマはホームセンターを上回る実績といえる。これらの家電量販企業の取り扱い商品を見ると、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの生活家電製品や季節家電製品の構成比が高く、生活に必要な商材のため、新型コロナウイルスの影響をあまり受けることがなかったと考えられる。

減少幅が大きかったビックカメラは大都市圏のターミナル立地に出店しており、この立地を活かして不特定多数を集客していたが、立地の優位性が逆に外出自粛の影響を大きく受けてしまったといえるだろう。さらに顧客層や商品構成の面からは、インバウンドによる売上減とともに、携帯電話やカメラの売上減が外出自粛と重なり、苦戦する結果となった。

ビックカメラは人通りが多く、駅に隣接したターミナル立地が逆に作用し、売り上げは大きく減少した

家電の用途や対象は広く、新しい生活様式も追い風に

緊急事態宣言は解除されたが、新型コロナウイルスは今後も日本経済に大きな影響を及ぼすものと考えられる。だが、前述のとおり、家電量販企業への影響は他業態よりも小さい。家電量販企業のメイン商材は家電だ。ただ、商品によってその用途や使用シーンは異なり、多種多様なニーズに対応。家電とひとことでまとめる以上の幅と奥行きが家電にはあるのだ。

家電は生活必需品が多く、世帯保有率も高い。つまり、確実な買い替え需要が見込めるというわけだ。もちろん、需要が減少していく家電もある。しかし、新たな需要で伸長する家電もある。

このところ、アフターコロナでの新しい生活様式が話題となっている。ビフォーコロナとの大きな違いが在宅勤務、在宅作業による家にいる時間の増加。この新しい生活様式は、すでに家電業界にとって大きな追い風となっている。

在宅時間の増加でさらなる家電の需要拡大が期待できる

家にいる時間が長くなったため、調理家電やクリーナーの需要が増加。在宅ワークはパソコンやパソコン周辺機器の需要を押し上げ、特にWebカメラやヘッドセット等、特定の層が使用していた機器が一般にも普及してきた。通信を伴うテレワークは、ルーターの需要も拡大させている。

これから先の家庭内需要として期待されるのはSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)需要、ゲーム需要、eスポーツ需要、除菌需要、IT活用でのコミュニケーション需要などが挙げられる。

最近では郊外店舗での品揃えを強化してきたeスポーツの需要にも期待がかかる

また、1人10万円の特定給付金の支給では、支給額の多くが貯蓄やローン返済に回されるものの、家にいる時間を充実させるためにも使用されると考えられる。在宅時間を充実させる機器。それが家電だ。

その家電は、生活必需品から趣味嗜好品、ビジネスユースや法人などのニーズがある。この幅広いニーズに応える商材を扱っているのが家電量販企業だ。家電量販企業は今後、家電という商品を販売する小売り業から『生活を支える生活基盤産業』へと変わっていくだろう。