PCデポがデジタルソリューション車両型店舗を夏から稼動 移動型店舗でデジタルデバイドを解消し「待つ」から「行く」へ


社会のDXは急速に進んでおり、通信、ハード、ソフトとあらゆる面でIoT化やスマート化への移行がみられる。しかし、技術の進歩が著しいためにデジタルを活用できる層とできない層が生じている。つまり、デジタルデバイドという問題だ。この問題を解消するとともにビジネスの拡大を目指し、PCデポが新しい取り組みに乗り出した。それが業界初となるデジタルソリューション車両型店舗だ。

会員制サービスでお客の困りごと解決を成長につなげる

ピーシーデポコーポレーション(以下、PCデポ)は1994年に創業。当初はPC量販店としてスタートしたが、2006年からお客の困りごとを解決する会員制の定額サービスを開始した。

同社の野島隆久代表取締役社長執行役員は「購入後に分からないこと、困ったことがあったときに毎回、費用を払うのはお客様にとってたいへんなこと。そこで、月額で会費をいただいて何でも聞ける月額制保守サービスをスタートしました」と定額サービスを開始した理由について語る。

サブスクリプションという言葉がない頃に定額制サービスを導入したPCデポ代表取締役社長の野島隆久氏

2013年には店舗スタイル自体がソリューション提供型のスマートライフ店を出店。2018年からは少人数のチームが500~800世帯を担当するデジタルライフプランナー制度を導入している。

「時代は量から質へと変わってきました。単に商品を売るより、お客様のニーズに応え、長くお付き合いをいただく。その結果、サービスの売り上げは右肩上がりで成長してきました」(野島氏)

専任制のデジタル担当は、お客の家族や親族、友人など、お客と関わりのある人も担当することで担当世帯を拡大させていく

デジタルデバイド解決で社会のミッションを自社のミッションに

DXや5G、GIGAスクール構想など、社会は急速にデジタル化が進行している。行政や企業、学校では専門のデジタル担当者がいるが、同社によると家庭の4軒に3軒はデジタル担当者がいないため、これらの家庭はデジタル社会に取り残される可能性があるという。このデジタルデバイドを解消するのは、社会全体の課題でもある。

社会のデジタル化によって、デジタルデバイドの解消が社会的な課題となっている

これまで定額制のソリューションサービスでお客とのつながりを強化し、デジタルライフプランナー制度という形でお客の困りごとに対応してきた同社がデジタルデバイド解消手段として新たに展開する施策。それがデジタルソリューション車両型店舗である。

デジタルソリューション車両型店舗とは、移動が可能な店舗の機能を有した車両のこと

店舗でのソリューション対応を車両でも実現

店舗でお客を待つのではなく、こちらから行くことでお客の利便性とソリューションを提供するという考えだ。「車両は2つのタイプを考えています。一つは牽引型のもので、ソリューション対応のあらゆる機材を装備します。言ってみれば、店舗の機能が丸ごと1台に凝縮されたようなものです。もう一つのタイプは一体型でバンのような形状です」と野島氏は解説する。

車両は牽引型と一体型の2つのタイプを想定

店舗と同じといってもソリューション対応のためのもので、その場で販売する商品は積まない。必要であればECを活用するという。では、この車両でどのようなことができるのか。PCの修理や使い方相談はもちろん、Wi-FI搭載でオンライン授業やテレワークができ、スマホ決済の設定や使い方、携帯電話料金の節約相談などにも対応する。「お客様からライブコマースとは何かを聞かれたら、その場でお見せすることもできます」(野島氏)

フル装備の牽引型は、ソリューションのためにさまざまな機能を搭載。対応する人員は3名ほどを予定している

2021年に5台程度を導入し、特定のエリアを巡回

2021年夏に初号機を導入し、年内に5台程度で展開していく。車両は各地域を定期的に巡回するとともに、イベント等への派遣も想定している。車両を利用できるのは定額サービスの会員だ。お客の自宅周辺に行くことで、その地域の認知度は高くなる。店舗で待っていては難しい会員の獲得も行くことで解決できるというわけだ。

車内だけで対応するのではなく、テーブルや椅子を出して車外でも対応。イベント等への出店も想定している

同社が展開している店舗は物販がメインのPCデポとソリューション対応型のPCデポ スマートライフ店、修理専門店のパソコンクリニックの3タイプで全国135店体制。デジタルソリューション車両型店舗は同社の4タイプ目の店舗という位置づけで、これによる店舗の再編や出店抑制をするという考えはない。

出店抑制とは真逆で、車両による展開はさらに出店を加速するという面があるという。仮に月に1回、車両が行く地域があるとする。デジタルで困っていることを解決してくれる車が来たという情報は、地域のコミュニティを通して広まっていく。すると会員が増える。会員が増えれば、それだけ対応する時間が必要で、月に1回が週に1回になる。週に1回でも対応しきれないとなれば、地域のニーズに応えるために出店する。つまり、車両が地域のニーズをしっかりとつかむことで出店へとつながっていく図式だ。

車両でお客のニーズに対応し、そのニーズの増加に合わせて該当地区での出店も検討

会員の増加で定期的な売上と利益率アップを図る

車両が行く地域での競合について野島氏は「他社は商品を販売するのがメインですが、当社は商品が使えないというお困りごとに対応するのがメイン。他社と同じことをしていないので、車両が行く地域で競合が激化するわけではありません。逆に、競合はないと考えています」と述べる。

車両を導入することで、会員の増加が期待できる。月額というサブスクリプションビジネスのため、定期的な売上増が見込める。しかもソリューションサービスなので利益率は高い。「車両の稼動は業績に対するインパクトがあると考えています」と野島氏は期待する。

2021年3月期第2四半期累計連結業績における粗利益率は47.3%と高く、ソリューションビジネスの展開拡大で利益率の向上が可能と話す野島氏

ソリューションサービスを顧客の獲得と固定化に活かす

困りごと解決というソリューションビジネスで利益を確保し、お客のところへ行くという手法は、地域家電店を彷彿とさせる。修理や工事で利益を確保し、お客宅へ訪問することで顧客化を進めてきたのが地域家電店だからだ。

しかし、同社と地域家電店とは決定的な違いがある。それは社会のデジタル化が進んでいる中でのデジタル対応力だ。同社は「全てのお宅にデジタル担当を」とのミッションで販売、修理、ネット接続等をサポートできる人材の育成に取り組んできた。だからこそ売上高に占めるソリューションサービス売上高が58.0%(2021年3月期第2四半期累計実績)と高いレベルにあるのだ。

ソリューションサービスの売上高は2017年3月期に連結売上高の50%を占めた。2020年3月期は62.6%となったが、2021年3月期は新型コロナウイルスなどの影響で構成比は若干の減少が予想される

店舗を構えれば、確かにお客は集まる。しかし、ロードサイド店舗にとって商圏を拡大し、来店客数を増やすのは容易ではない。来店客すべてが固定客となるわけでもない。このように考えると、同社の新しい取り組みは地域密着を図り、固定客を拡大させていくという意味で期待できる。

デジタルソリューション車両型店舗の稼動は2021年夏。どのような効果を発揮するのか、スタートが待たれるところだ。