【インタビュー】” コミュニケーションするスマート仏壇”「コハコ」の生みの親に聞く仏壇の新しいカタチと可能性


あらゆるモノがネットに繋がりスマート化するIoT時代。日本の伝統文化ともいえる仏壇にもスマート化の波が押し寄せている。11月26日~29日に開催されたエンディング産業展で注目を集めた展示の1つがスマート仏壇「コハコ」だ。プロジェクトの発起人であるBIRDMANの代表 築地ロイ良(つきじろいりょう)氏、宮坂雅春氏、オムニバス・ジャパンの菊池昌樹氏に、製品にかける思いと今後の展望を聞いた。(文中、敬称略)
BIRDMAN 代表 築地ロイ良氏(左)、オムニバス・ジャパン 菊池昌樹氏(右)
BIRDMAN 代表 築地ロイ良氏(左)、オムニバス・ジャパン 菊池昌樹氏(右)

仏壇の文化をなくしたくないという思いからスタート

— まずは仏壇の市場は、どれくらいですか。

築地:仏壇の市場規模は最盛期に3,000億円以上ありましたが、現在はほぼ半減しています。全国の世帯のうち60%が仏壇を持っていないという統計もありますし、仏壇離れが進行していて仏壇が売れなくなっているのは間違いありません。

仏壇の市場は20年でほぼ半減
仏壇の市場は20年でほぼ半減

だからこそ、仏壇が欲しいけれど、スペースの問題やマンション住まいで部屋に合わないといった理由で敬遠していた方々に「コハコ」をアピールできると考えています。地方では家が大きいので仏壇を置いている家庭も多いのですが、都心に近づくほど特にマンション住まいは、仏壇で悩んでいる方が多いです。実際に開発している我々も同じ悩みを抱えているのでよくわかります。

最近では「仏壇離れ」といった言葉も聞くようになりましたが、我々は仏壇の文化をなくしたくないと考えています。そのため、仏壇の”新しいカタチ”を考えはじめ、従来の仏壇にテクノロジーを掛け合わせたらどんなものができるのだろうと考えてきました。その思いが具現化したのが「コハコ」です。例えば、終活を考えている方が、自分で家族にメッセージを残せる。そういった終活があってもよいのではないかと思います。

宮坂:ここ2年くらいの間に、私も築地も自宅に仏壇を入れる機会があり、自分たちでも仏壇を色々と探しましたが、選択肢が想像以上に少なくて驚きました。仏壇にデジタルの要素が少し加われば、新しい選択肢ができて積極的に欲しいと思ってもらえるのではないかと考えました。そういう意味で、「コハコ」は、自分たちが欲しいと思ったプロダクトを形にするところから始めたものなのです。

— 「コハコ」の主なターゲットをどのように想定していますか。

菊池:「コハコ」には2つの側面があると思っています。1つ目が、故人を偲ぶための従来通りの仏壇。もう1つが終活としての側面で、例えば、生前に家族に向けてメッセージを用意しておいて自分が指定した日にメッセージを流すといった使い方です。後者の用途だと終活を始めている方がターゲットとなりますが、今はスマートフォンを使いこなすシニア層が多いので、すんなり「コハコ」を利用できると思います。

宮坂:マーケティングに関しては色々と議論していますが、地方で一軒家に住んでいて家の中には仏間があって菩提寺が近くにあって……という家庭よりも都心部在住で新しく仏壇を買う必要が出てきた方たち向けです。旧来型の仏壇に取って代わるものでも、これまでの仏壇を否定するものでもなく、全く新しい選択肢だと思っています。

昨年「コハコ」を発表したあとかなりの反響があり様々なメディアに取り上げてもらったのですが、その中でも手応えを感じたのは、仏壇を検討している女子大生から、発売はいつ頃になりそうかと問い合わせがあったときですね。それまで若年層がターゲットになるとは思っていませんでしたが、幅広い世代に受け入れられると感じました。

大切なのは手を合わせたいと思うかどうか

— 製品化するにあたってこだわったことはありますか。

菊池:仏壇としての耐用年数を長くしたいと考えて材質にこだわりました。一般的な家電に使われている樹脂系の素材は耐用年数が短めですが、10年以上使えるように、アルマイト加工したアルミニウムを採用しました。もう一つこだわった点として、御位牌と御本尊を格納式にしたことも挙げられます。下ろして格納できるし、いつでも引き上げて祀ることもできます。

御位牌と御本尊は格納式
御位牌と御本尊は格納式

宮坂:ともするとデジタルフォトフレームのようにも見えてしまうので、仏壇として購入してもらえるよう、御位牌や御本尊といった仏壇の要件を大切にしました。

菊池:ディスプレイに表示される遺影がモニター然にならないようにしたのも工夫したポイントです。写真をクッキリした状態で表示すると家電っぽく見えて仏壇らしさが損なわれるので、写真にフィルターを加えて柔らかく見せ、デジタル感を和らげています。

ディスプレイに表示される遺影には特殊なフィルター加工を加えることでデジタルっぽさを和らげている
ディスプレイに表示される遺影には特殊なフィルター加工を加えることでデジタルっぽさを和らげている

築地:あとは、高齢者でも操作しやすいようにスマホアプリもUIにこだわって開発しました。画像のアップロードや名前の入力などはもちろん、何年後の○月○日にメッセージを流す設定もできます。メッセージを登録するときに、思わず泣いてしまいますよ。これからきっと、こういう終活が当たり前になる時代が来るのではないかと思います。

スマホアプリからは名前の入力や画像のアップロードなど様々な操作が可能
スマホアプリからは名前の入力や画像のアップロードなど様々な操作が可能

宮坂:呼びかけると故人の写真が表示されたり、ある日突然メッセージを受け取ったりすることで心にぐっとくるものがありますよね。そのように故人との結びつきがもっと広がることを重視しています。

菊池:我々は「コハコ」を”コミュニケーションする仏壇”と表現していますが、その背景にあるのはまさにこの点で、故人と時を越えてコミュニケーションできるのです。

築地:家の中のどこにでも違和感のないカタチで置けるのはもちろん、故人の命日も「コハコ」がプッシュ通知で教えてくれて、そういえば今日が命日だったと気づく。あくまで大切なのは故人に向けて手を合わせることなので、「コハコ」ではそこを重視しながら、新しい仏壇の考え方を伝えていきたいですね。

菊池:仏壇業界でもスゴいねと言ってくれる方もいれば、戸惑いを示す方もいます。伝統的な価値観を重視する方はもちろんそれで良いですし、一方で60%の家庭は仏壇を置いていないわけなので、コハコを一つの選択肢としてチョイスしてくれれば良いと考えています。大事なのは、故人に対して手を合わせたいと思うかどうかだけだと思います。

フィジカル、デジタル、テクノロジーのバランスが大事

— 「コハコ」のような仏壇はこれまで見たことがありません。 死に関わるプロダクトとして、デジタルを組み合わせることにネガティブな声はありませんでしたか。

菊池:タブレット型の仏壇は過去にあったようです。外観は今までの仏壇と同じですが、扉を開くと中にディスプレイがあって遺影と御位牌を写す仕組みです。「コハコ」のような従来型の仏壇とディスプレイの一体型は調べた限り存在しません。実は我々もある程度否定的な意見を覚悟して「コハコ」を世に出しましたが、批判の声は本当に少ないです。そこは我々も驚いています。

宮坂:去年と今年、エンディング産業展に出展しましたが、業界がシュリンクしているので皆が変わっていかなければいけないよねという反応で、エンディング業界からも受け入れられていると感じました。

築地:我々は本気で御仏壇に手を合わせたいという気持ちに応えたくて開発しています。決して話題になればそれで良いと思っているわけではないし、「コハコ」に対して変な目で見られていると感じることもありません。デジタルを強調しすぎると仏壇としてのありがたみが損なわれるので、フィジカルとデジタルのバランスを取ってテクノロジーも前面に押し出しすぎない、そのへんのバランス感覚が大事になってきますね。

—- 今後、実装したい機能はありますか。

築地:今後は、寺院との関わりも計画していて、自宅で法要を行える「リモート法要」の仕組みも取り入れようとしています。

菊池:ただし、気をつけたいのは、故人を忘れないでいたいという気持ちは大事ですが、忘れなきゃいけないという面もあります。人間の脳はよくできていて、必要なときに思い出して普段の生活では心の片隅に忘れてあげています。そのため、デジタル空間の中でいつまでも故人が生きているようにしてしまうとそれは逆に良くないと思います。適度に忘れつつ、大事なときにはちゃんと思い出してあげる。そのバランスを大事にしたいです。

 

開発中のリモート法要サービス。アプリを通じて自宅から離れたお寺の読経を中継するという
開発中のリモート法要サービス。アプリを通じて自宅から離れたお寺の読経を中継するという

築地:開発にあたっては、寺院や仏具店からもアドバイスをもらいながら進めていて、将来はお香をあげられる機能等も含め、色々と実現したいと検討しています。

— どのような販路で「コハコ」を販売していこうと考えていますか。

菊池:現時点ではECを中心に自分たちで販売したいと思っています。仏壇という商品の特性上、身内に不幸があったり、終活に備えたり、目的がはっきりとした方しか購買意欲が湧かないので、量販店のような何でも売っている店舗に置く商品ではないのかなと考えています。とはいえ、体感するためのギャラリー展示できるスペースは必要です。大手の仏壇メーカーも都内にギャラリーを持っていて、仏壇の種類や材質などをギャラリーに確かめに行く顧客は多くいると聞いています。

築地:すでに仏壇業者からも引き合いはあります。仏壇業者からも仏壇として認めてもらえるとブランディングの面で有利なので、将来は店頭での販売も行うかもしれません。もちろんその他にも、「コハコ」を大量に取り扱ってもらえる話があれば様々な販路を検討したいですね。

— 販売価格はいくらぐらいになりそうですか。また、ビジネスモデルとしてはハードで利益を出していくというモデルでしょうか。

築地:仏壇の価格がだいたい30万円以上するので、「コハコ」の販売価格も30万円前後で想定しています。素材にこだわっているので、実は製造原価はかなり高めなんです。

ソフト面でも有料のサブスクも検討しています。例えば、ローカルにある写真などのデータをクラウドにバックアップするサービスなどです。ただし、それに加入しないとコハコを利用できないということにはせず、あくまでオプションとしてのサービスで基本的には無料でも使ってもらえるようにしたいと考えています。

菊池:今ある仏壇でよく売れているのは低価格のものですが、一方で富裕層は80万円以上のものを購入していて、平均としては33万円程度。開発コストと製造単価を考えると「コハコ」の販売価格もそれくらいになります。海外で大量発注して製造すれば原価は低く抑えられますが、Made In Japanなら安心という方も多いでしょうから生産は国内で行う予定です。

また、御本尊は各宗派に対応したものを用意するので別料金になると思います。御位牌への戒名彫りも戒名は全て違って一つずつ彫らないといけないのでオプションとして検討しています。

「人の祈り」にしっかりと応えていく

— 今後の展開や、「コハコ」を通して社会に貢献していきたいこと、実現していきたいことを教えてください。

菊池:今はプロトタイプができて量産化するための開発を続けています。コロナ禍のため、拙速を避けて来年発売を目標に進めています。

これまで仏壇が欲しかったけれどさまざまな理由で置けなかった方々の要望に応えていきたいですし、終活を準備している方が、遺族の方にちゃんと気持ちを届ける。そういった思いをはじめとした「人の祈り」にしっかりと応えていければ十分です。

築地:同じく、とにかく来年には発売したいですね。現在、投資や資金提供に協力してもらえる企業を募集しています。その辺りの話がうまくいけば、発売までたどり着けると思っています。「コハコ」は自分でも欲しい製品です。仏壇を置きたくても置けない方が多いので、そういった方々のためにも世の中にコハコを残していきたいです。

菊池:エンディング産業の分野では、特にテクノロジーを取り入れることで新たにできることがたくさんあると思っています。今は仏壇のみですが、ゆくゆくは新しいテクノロジーを組み合わせることで、エンディング業界のさまざまな分野に関わっていけるのではないかと期待しています。

宮坂:「コハコ」が製品化されて世の中に出ていくことは我々にとってもちろん重要です。ただし、それだけでなく、エンディング業界の中で「コハコ」がインスピレーションになっていろんな選択肢が生まれていく。そこまで影響を与えられると嬉しいですね。

 

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