Tecc LIFE SELECT仙台あすと長町店に見る 進化するヤマダホールディングスの戦略


2022年11月3日、宮城県仙台市にヤマダホールディングスの「Tecc LIFE SELECT仙台あすと長町店」がオープンした。それに先駆け11月1日には報道関係者向け発表会が行われた。
Tecc LIFE SELECT 仙台あすと長町店 店舗概略
Tecc LIFE SELECT 仙台あすと長町店 店舗概略

1.売上効率の向上が期待できる業態

あすと長町店は売り場面積が約4,500坪で年商目標は100億円である。一般的に郊外型家電量販店は売り場面積が1,000坪程度で、平均売上は年間15億円程度である。家電売上構成比の高いケーズホールディングスの場合、2022年3月期売上は約7,472億円で店舗数は533店舗。単純平均で1店舗当たりの売上は14億円程度となる。他の郊外型家電量販企業も似たような数値となっている。

年間売上を売場坪数で割ると年間1坪当たりの売上が算出されるが、一般的な家電量販店の場合は売場一坪当たりの売上は150万円程度である。あすと長町店の場合は、4,500坪で100億円の売上であるので、1坪当たりの年間売上は約222万円となり、通常店舗より坪当たり売上が約1.5倍と効率が良くなる。

2021年度のヤマダホールディングスの有価証券報告書によると、1㎡当たりの売上は58万3,000円とあり、1坪当たりでは約192万3,000円となる。あすと長町店はヤマダデンキの平均坪売上より、116%ほど坪売上が高くなる。一般的な郊外型店舗と比べて坪当たり効率の良い店舗といえるだろう。ただし、投資効率から見るとあすと長町店は自社物件のため初期投資がかさみ、賃借物件よりも効率が悪いと思われがちだが、立地の良さから周辺の地価は上昇しており、含み資産の向上につながるメリットもある。

家電量販企業各社は既存店舗の売上維持を課題としており、商品の入れ替えや業態変更による坪効率の改善が急務となっている。ヤマダホールディングは、ライフセレクト業態で積極的に出店や既存店舗の業態変更を行うことによって、売り場効率の改善が期待できる。

通常の郊外型店舗とあすと長町店の比較
通常の郊外型店舗とあすと長町店の比較

2.家電製品以外の売上成長領域の確保

家電市場の多くは買い替え需要に支えられている。テレビ、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、クリーナー、エアコン、パソコンといった商品は一般家庭の普及率の高い商品であり、需要は故障時や政府の政策に影響される。

テレビの販売台数を見た場合、一番売れたのは2010年の地上アナログ停波による地上デジタル放送の切り替わるタイミングだった。また、消費税が上がる時には家電製品の駆け込み需要が多いものの、駆け込み需要の後には長い需要低迷期が続く傾向が強い。買い替え需要という宿命がある以上、家電市場は大きく成長しないが、大きな落ち込みもない市場となっている。

家電量販企業が継続して成長していくためには、家電市場と関係の深い他の分野の開拓が緊急の課題となっている。具体的には、リフォームや玩具、生活関連商品、家具といったものが挙げられるだろう。あすと長町店は、家電の売場がおよそ半分の2,000~2500坪程度であり、残りは家電以外の商品で構成されている。

特にリフォームはヤマダホールディングの中でも好調の分野で、広い売り場面積をとっている。ヤマダホールディングスの2022年3月期の有価証券報告書では、家電以外の住建セグメント、環境セグメント、金融セグメントといったセグメントの伸びが家電セグメントを大きく上回っている。同社としては、LIFE SELECT業態を加速させ、家電以外の商品売上を伸ばし高い成長率を確保したいところである。

一般的な家電量販店とあすと長町の違い
一般的な家電量販店とあすと長町の違い
リフォームとベッドの売場
リフォームとベッドの売場

3.DX強化による店舗効率の向上

あすと長町店では、新たな効率への取り組みが行われている。特に目立つDXの取り組みは今後期待できる。ヤマダデンキは全店に電子棚札を導入しているが、あすと長町店でも導入されていた。一般的な家電量販店の場合、毎週、週末に向けて多くの商品の価格変更が行われるが、価格変更POPの出力、プライスの差し替えといった業務は膨大なものであった。電子棚札は、これらの作業を大きく軽減することが可能だ。さらに電子棚札は商品の在庫にも連動しており、販売員の在庫確認等にも役立つ。かつてのように倉庫に在庫を探しに行くようなことはなくなった。

さらに、あすと長町店ではスマートカートを導入し、セミセルフレジにチャレンジしている。これはショッピングカートに商品のバーコード読み取り機能を付け、顧客が事前に商品を読み取ればレジでの商品読み取りは不要となり、精算だけになるもの。それだけ、レジでの待ち時間が短縮できる。家電量販企業の場合、レジ業務が多忙を極める。ドラッグストアやスーパーマーケットなどと比べて、ポイントの発行、保証書の確認と発行、決済、商品の確認と説明などいろいろな業務を一度にこなさなければならない。

このような中で、セミセルフレジを推進していることは、従業員の作業量を軽減させるとともに、顧客への接客時間の増大に繋がる。結果として一人当たりの販売員売上の向上や顧客満足の向上につながる。家電量販企業でもDXは進んでいるが、あすと長町店ではさらに進化させている。

ただし、課題もある。ユニクロで導入されているような精算まですべて自動で行うためには、商品一品一品にRFIDタグをつけていく必要がある。このような仕組みや規格化は、業界団体が行うことと思う。メーカーが統一したRFIDタグを商品に付けることが出来れば、レジでの清算や在庫管理が行いやすくなる。
メーカーによってRFIDタグの搭載が行われると、レジでの清算のセルフ化が一気に進むだろう。

家電製品は1商品当たりの単価が高いので、コスト的にRFIDタグの普及が進む環境が揃ってきている。仙台でも震災時から景気が回復し、人手不足状況にあると聞いているが、少ない人員でもオペレーションができるDXの取り組みが企業の業績に大きく反映する時代が来ると考える。

あすと長町店に導入されたスマートカート
あすと長町店に導入されたスマートカート

4.郊外立地の掘り起こし

新型コロナウイルスの流行は人々の生活を大きく変えた。生活とともに大きく変わったのが消費行動である。例えば、都心部のターミナル家電量販店では、平日の午後7時以降の来店客が新型コロナの影響で大きく減少した。新型コロナが収束し始めても以前のような集客は回復してきていない。

理由は、会社帰り人たちが、早く帰るという習慣ができたからである。このことは、都市部において飲食店の苦戦が続いていることからも解る。居酒屋チェーンや飲食店チェーンは、都市部からの撤退を余儀なくされている。一方、顧客の生活行動の変化で、恩恵を受けているところもある。家電業界の場合は、都市の郊外型店舗である。というのも、平日にターミナル店舗で購入していた顧客が、土日の郊外型店舗での購入にチェンジしたためだ。

あすと長町店は、仙台の郊外とターミナルのちょうど中間に位置する。あすと長町店の立地からすると、顧客の来店手段は車客が中心になるものと考えられる。しかし、同店の周辺エリアは新築マンションの多い人口急増地域である。家電量販企業は今まで、だいたい5つの立地で業態を展開している。

・大都市ターミナル型大型店舗
・中核都市市街地大型店舗
・中核都市郊外型大型店舗
・郊外型標準店舗
・小商圏、中商圏対応小型店舗

しかし、あすと長町店の立地を考えると、これら5つの立地いずれにも当てはまらない。大都市の郊外型店舗であるが、売り場はターミナル型に近く、客層として平日は周辺の住民、土日は広域商圏からの集客が見込めるからだ。あすと長町店のすぐ近くに外資系のIKEAがあるが、IKEAは広域商圏を考え、あすと長町店と商圏設定が似ている。このような立地は、大都市近郊にまだいくつかあり、あすと長町店のような立地を見つけられると今後の成長に結びつく。

あすと長町店の資料から
あすと長町店の資料から

5.新しい客層と消費金額の高い顧客層の開拓

あすと長町店のある仙台市太白区は人口23万人の区である。5歳刻みの人口を見た場合、一番多いのは45歳から49歳までの人口である。この世帯は65歳の定年まで収入も高く家電量販企業の中心顧客となる。しかし、注目したいのは高齢化が進む全国の地域と異なり、20歳代や30歳代の人口も多いことである。郊外型を展開する企業は、地方での高齢化の影響を受け売上確保が難しくなっている。しかし、あすと長町店の立地は、家電量販企業が課題としている、

・20歳代、30歳代の顧客の需要獲得
・女性顧客の需要獲得
のいずれにもにあった立地といえるだろう。

20歳代の顧客はインターネットでの商品購入が増加しているといわれているが、あすと長町店では、インターネット購入に対応して24時間受け取りの出来るロッカーや、接客を嫌がる顧客のために、接客不要でレジで商品と取り換えができる商品購入発券機等で対応している。電子棚札はヤマダデンキの携帯アプリと連動しており、商品の価格を調べてそのままネット注文まで行える。インターネットでの購入客層に対しての対策があすと長町店では着々と進んでいる。女性顧客については、特に同店が力を入れているのは、子供を連れた女性客である。近くには大型の公園があり、子供を連れた女性客の買い物がしやすいように広めの通路をとっている。また、玩具や自転車といった商品にも力を入れている。

一般的に夫婦で家電製品を購入する場合は、テレビやパソコンといった商品は男性が、冷蔵庫や洗濯機、クリーナーといった商品を購入する場合は、女性が購入決定権を持つといわれている。テレビやパソコンの売上が伸び悩む中で、冷蔵庫、洗濯機、調理家電、理美容機器の売上向上のためには、女性顧客のファン化が重要であり、あすと長町店は女性顧客が来やすい売り場づくりに努めている。とりわけ女性の関心が高い理美容機器や健康機器、調理機器、子供の知育玩具といった商品の体感スペースを拡大している。売り場づくりを見ても女性客や20歳代、30歳代の顧客を意識したものになっている。今まであまり来店していなかった女性顧客や20歳代、30歳代の顧客を取り組むことで、ファン化を行い継続的な売上確保を狙っている。

太白区人口構成グラフ ※仙台市ホームページデータより
太白区人口構成グラフ ※仙台市ホームページデータより

ヤマダホールディングスのTecc LIFE SELECTあすと長町店の戦略的意義をいくつか紹介したが、その成果は店舗がオープンし業績推移を見てみないとわからない。

しかし、ヤマダホールディングスが久しぶりに行った報道発表会および内覧会は代表取締役の山田会長自らが、説明を行い意欲的なものだった。ヤマダホールディングスの意欲はあすと長町店の売り場にも表れている。今後のあすと長町店の推移を見守りたい。