2023年の家電量販企業の課題
2023年に入り家電量販企業では、以下のような大きな課題が出てきている。
- 成長するEC販売に対しての対応(新型コロナの影響で消費者の生活は変わり、ECでの購入が定着した)
- 減少する来店顧客に対しての対応(家電量販店の来店顧客は減少傾向にあり、売上を維持するためには集客策が求められている)
- 単価が上がった家電製品に対しての消費者の買い控えへの対応(2022年の下期より家電メーカーが納入価格を上げてきており、商品価格が上がったことにより消費者に買い控えの傾向が見られる)
- パートアルバイトの採用難による人出不足と顧客対応の遅れ(あらゆる業界でパートアルバイトの求人が増え、家電量販企業の人材採用が難しくなるとともに、家電量販企業も働き方改革等で残業等の削減を行っており、店舗においての人出不足等に直面している)
家電量販企業は上記の課題に対して取り組んでいるが、なかなか改善が進まない課題もある。特に家電量販店を悩ませているのは、「売り逃し」という課題である。具体的には以下のような点が挙げられる。
- 消費者は購入しようとする商品が納得する価格でないと購入しない(ECサイトの価格や競合店との価格に対応できていないと顧客は買わないので売り逃しが発生する。)
- 消費者は店頭に在庫がない場合は商品を購入しない(特に小型家電製品は店頭在庫がないと購入しない。店側が在庫補充をしっかりしていないと売り逃しとなる。)
- 消費者は商品を試したり実物を確認しないと購入しない(店舗において実際の商品を試したり、サイズや品質を確認できる展示商品がないと売り逃しとなる。)
- 消費者は販売員がいないと商品の説明等を受けることができないので購入しない(特に接客を求める50歳以上の消費者にはこの傾向が強く販売員の不在が売り逃しにつながる)
家電量販企業も上記の課題について取り組んでいるが、対処療法が多く仕組みとしての改善が見えにくい。
電子棚札の導入により価格対応で売り逃しを減少
まず、売り逃しの一つの要因である価格比較の課題であるが、YAMADA web.com店では、電子棚札を採用しており、競合店の価格やEC販売企業の売価を参考に価格を随時変更させている。
ヤマダデンキでは安心価格保証政策をとり、常時、競合する家電量販企業の価格を調べ最安価格に対応している。商品の下の棚についている電子棚札は、顧客のスマートフォンと連動することができ、顧客は調べたい商品の電子棚札にタッチするだけで、スマートフォンに競合店の価格が映し出され、最安価格を調べることができる。もちろん、ヤマダデンキの表示価格は一番安い競合企業の価格を参考にしてつけられている。電子棚札を利用することにより、表示価格は常に最新の価格に更新され、価格の高さによる売り逃しの減少に貢献している。
実際にヤマダデンキの販売員の声を聞いてみると、電子棚札の利用によっていろいろな店を回り価格を調べることは少なくなっているとのことで効果は出ているようだ。
商品購入カード発券機により売り逃しを減少
2つ目の売り逃し対策として取り組んでいるのが、店頭の在庫がない場合の対策である。YAMADA web.com店では、今回、店頭に商品購入カード発券機を導入している。カード発券機は39ヶ所にも及ぶ。
通常であれば顧客は欲しい商品があった場合、商品の展示商品の下に置いている在庫をレジまで持っていく。しかし、売り場の担当者が忙しくて倉庫から店頭に商品を出すのができない時は、棚下在庫がないため顧客は買わないで帰ることが多かった。
カード発券機の導入により、在庫がない場合は顧客は商品購入カードを発券して、それをレジに持っていくと、レジ担当者が倉庫担当者に連絡して商品を持ってきてくれる。
在庫の有無は、商品購入カード発券機で確認もできる。家電量販店では大型店の場合、1日に数千点の商品が売れる。当然、その商品を補充しなければならないが、どうしても補充が遅れることもある。このような場合、商品購入カード発券機を活用してもらうことで売り逃しを低減できる。
実際に発券機を使ってみたが、簡単に発券ができた。売り場担当者聞いてみると、発券枚数は教えてくれなかったが、調理機器やクリーナー、小物関連商品の売り場で発券する顧客が多く、オペレーションの効率化に役立っているという。
商品発券機はもちろん店頭在庫がない場合に有効であるが、販売員が少ない場合にも有効であるという。今までは、店頭在庫がないと販売員を呼んで在庫の確認を販売員に求めることが多かったが、この店では販売員を呼ぶことなく、カードを発券する顧客が増えたという。
販売員の不在対策により売り逃しを減少
販売員の不在による売り逃しも多い。カード発券機は販売員の不在にも有効であるが、販売員不在対策は、他にもいくつか行われている。
一つ目に販売員の呼び出しボタンである。売場にはいくつかの場所に販売員呼び出しボタンが設置されている。このボタンは冷蔵庫や洗濯機、エアコン、テレビといった大型商品の売り場ではなく、パソコンのサプライや照明といった場所に設置されており、顧客が販売員から商品説明を聞きたい時に呼べるようになっている。
これによって、サプライ系商品や電話機、家庭用FAX、調理機器等の売り逃しといったことも防ぐことができる。
また、販売員の説明がなくても商品の良さが伝わるように陳列やPOPに力を入れており、商品の選び方や商品の体験方法で工夫をしている。顧客が必要な情報は、販売員に聞く前に店頭である程度、わかるようにPOPを強化しているのが感じられた。
YAMADA web.com高崎問屋町の強み
EC販売が増加しているが、顧客はECで商品を購入する前に、やはり店頭で商品を確認する場合が多い。また、商品を確認する場合は品揃えが地域一番の店舗に行く傾向が強い。品揃えの少ない店舗に行って、確認したい商品が無いという時間の無駄を防ぐためである。
YAMADA web.com高崎問屋町は、商品のアイテム数を通常店舗より2倍に増やし、商品一品一品を顧客が手に触りやすい高さにおいて商品を体感できるよう工夫している。商品を実際に試して、触って良さが実感できると、顧客は購入に動くが、前述のようにYAMADA web.com店の価格はEC販売と連動しているので、結果としてECではなく店舗での購入に繋がるようになっている。
品揃えと商品体感のしやすさ、安心価格保証の3つの対策により、ショールーミング対策を行っている。売り逃しは店によっても異なるが、家電量販企業の売上の10%以上はあると業界では言われている。
2023年に入り消費者の行動は鈍く、家電量販企業は苦戦しているが、売り逃しをなくすだけで売上確保は可能である。売り逃しに取り組むYAMADA web.com高崎問屋町店の動向が注目される。