スマートスピーカー発売のオンキヨーが志向するマルチAI戦略 音声アシスタントに加え、使用シーンのマルチ化も狙う


IoTやAIなどの次世代技術に対して積極的な展開を図っているオンキヨーは、媒体関係者向けのスマートスピーカーの体験会において、同社の事業戦略や販売戦略の解説も行った。同社の商品や技術を通して、消費者が音楽に触れる場所や機会を増やす。そのためのツールとしてのデバイスがスピーカーであり、音楽提供のドライバーとなるのがIoTやAIなどの技術なのだ。

AIの飛躍的な進化とともにスマートスピーカー市場も急拡大

オンキヨーブランドで発売のスマートスピーカーP3とG3の体験会当日、登壇したオンキヨー&パイオニアマーケティングジャパンAI/IoT事業推進室室長の宮崎武雄氏はAIの進化について、次のように語った。

「コンピューターがチェスの世界チャンピオンにはじめて勝利したのは1988年。将棋のトップ棋士を破ったのは2013年。手数で100桁も違う難しさをコンピューターが克服するのに25年もかかりました。しかし、さらに手数の多い囲碁の世界チャンピオンを破ったのは2016年で、この3年間でAIは急激に進化を遂げ、我々の生活を変えようとしています。その最も身近な例がスマートスピーカー」とAIの進化を説明した。

スマートスピーカー市場の急成長について解説するオンキヨー&パイオニアマーケティングジャパンAI/IoT事業推進室室長の宮崎武雄氏

このAIが急激に進化・発展する中、登場したのがスマートスピーカーだ。2015年にアメリカではじめてAIスピーカーが発売され、2017年には世界で1,800万台、2021年には1億台を突破し、今から5年後の2022年には1.6億台の市場になるとオンキヨーでは予測している。まさに爆発的な勢いで市場は急成長するという数値である。

急成長しているスマートスピーカー市場。オンキヨーの予測では2022年に全世界で1億6,000万台の規模になるとみている

なぜ、急激に市場が伸長しているかについて、宮崎氏は「ある調査で、65%のユーザーがスマートスピーカーのない生活は考えられないと回答しています。一度使うと手放せなくなり、どこにいても使いたいと思うユーザーの急増が市場拡大を支えています」と述べた。

さらに45%のユーザーがスマートスピーカーを追加購入したいと考えているとのこと。一家に1台ではなく、一家に複数台の所有も十分にあり得るし、実際に家族それぞれがパーソナルユースとしての使用も考えられる。この購入者の高い満足度と追加購入の意向が急成長の背景にあるようだ。

音楽の聴き方の変化で、リスニング時間は増加傾向に

では、なぜ、オンキヨーがスマートスピーカーに力を入れるのか。その理由としては音楽の提供手法と人々の聴き方が変わってきたことが挙げられる。音楽の提供方法が、レコードやCDなどのディスクからインターネットを経由する音楽配信に移行していること。聴き方も据え置きのオーディオシステムからデジタルプレーヤーやスマートフォンなどのモバイル機器に変わり、音楽を聴くという行為が非常に簡単になってきたのである。

音楽の操作もリモコンから画面、そして音声へと変わってきた
携帯からスマートフォンへの進化と同様、スピーカーも進化する

スマートスピーカーは音楽を聴くために特化したものではなく、検索やリマインダー、家電商品と連動するコントローラーとして活用するもので、音楽を聴くことはスマートスピーカーの機能の一つに過ぎないともいえるだろう。しかし、前述のように音楽を配信サービスで聴くスタイルが普及してきたことで、音楽との親和性が高くなったのだ。

「スマートスピーカーのユーザーは購入後、音楽を聴く時間が増えたとの調査結果があります。つまり、スマートスピーカーは音楽を聴く機会を増やすツールで、オンキヨーは多くの人がもっと簡単に素晴らしい音楽に触れる時間を増やしてほしいとの思いでスマートスピーカーの開発に着手しました」と宮崎氏はオンキヨーがスマートスピーカーに注力する理由を説明した。

オンキヨーでは今回発売の2モデルのみならず、パイオニアブランドで既発のLightningスマートヘッドホンRAYSではアップルのSiriに対応している。さらにプラットフォームに依存しない完全独立型AIのHoundfyを開発したアメリカ・SoundHound社とも提携し、グローバルでの商品化を進めていくという。

マルチAI対応で、どこにいても音楽が楽しめる環境を作る

音楽を聴く機会を増やすためのマルチAI戦略

このマルチAI戦略については、AIを通して音楽を聴く機会をできるだけ増やしたいとの考えから、特定のAI対応ではなく、マルチ対応をしているとのことである。さらに、今年の8月にはトヨタとフォードが主導して、スマートフォンアプリを車内で利用するためのオープンソースのスマートデバイスリンクを管理する「SDLコンソーシアム」にも加盟。室内や屋外だけでなく、車内でのAIの活用や音楽を楽しむことを推進していく考えだ。

続いて登壇したのは、オンキヨー&パイオニアマーケティングジャパン代表取締役社長の荒木健氏。「スマートスピーカーはアメリカで火が点き、日本においては、まさに立ち上がりの時期。当社は割と早くから技術的な部分にも着手をし、商品化にこぎつけることができました」と挨拶を述べた。

スマートスピーカーの販売戦略を語るオンキヨー&パイオニアマーケティングジャパン代表取締役社長の荒木健氏

マルチに対応するのは音声認識のAIだけでなく、「P3とG3は屋内の使用を想定していますが、RAYZやアプリはアウトドアでの使用を想定。屋内・屋外を問わず、あらゆる使用シーンに対応していこうと考えています」と、商品の方向性について言及した。

オンキヨー・パイオニアのネットワーク対応オーディオについて、すでに既発の商品ではスマートスピーカーと連動する準備ができているとのこと。対応機種は70機種以上、欧米やアジアなどグローバル全体では260アイテムがすでにスマートスピーカーとの接続が可能となっている。

お客の選択肢に合わせた商品の提供で、提案力やタッチポイントを強化
オンキヨー・パイオニア製品の70機種以上が、すでにスマートスピーカーと接続できる

使用シーンが広がるスマートスピーカーの可能性

オンキヨーが考える使用シーン、使用場所は多岐にわたる。手が空いていないということでいえば、料理教室やフィットネスクラブなどが想定できる。また、音楽以外の機能では受付や予約の管理など、B to Bとしての使用も考えられる。あるいは身体の不自由な人のサポート機器としても期待ができる。今後、進展していくであろう家電との連動を考えると、スマートスピーカーの使用シーンは限りなく広がっていく。

スマートスピーカーの持つ機能を活用することで、利用可能な場所・シーンは拡大する
人を支援するツールとしてや、多言語対応を活かして学習や翻訳用途としての利用も可能だ

音楽を聴くということで想定すると、まずは一家に1台ではなく、複数台を置いてもらうことと荒木氏はいう。例えば、音声で指示をするとスピーカーからは音楽が流れ、テレビがオンになり、照明の明滅やエアコンが動き出すというイメージだ。

将来的にはマイクやスピーカーを壁や天井に埋め込むことで、AIによるホームオートメーションが実現

バスルーム対応のオーディオシステムも発表

この生活シーンにおいての全方位対応では、同日にリリース発表となった加振器を活用したシーリングオーディオシステムについても言及。同社が開発した加振器「vibtone」とアンプ部をバスルームの天井裏に取り付けることで、バスルームの内壁を振動させて音を出すという。穴あけ加工などはいらず、脱衣所のコントロール部からBluetoothで音を飛ばすことで、入浴中も音楽を楽しめるシステムだ。

穴あけ工事が不要で、バスルームでも音楽が楽しめるという加振器を活用した提案

荒木氏いわく、「結構、いい音がします」。この新たなバスルームオーディオシステムは現在、大和ハウス工業や積水ハウスなどの大手住宅メーカーが住宅のオプションとして採用を検討しているとのことである。

P3はAmazonでの販売だが、G3は店頭での販売ということで、商談を行った家電量販店のバイヤーからは高い評価を得ているという。「スマートスピーカーの音質としてはダントツという声や、G3を中心としてスピーカーと家電が連動していくとの期待の声を多くもらっています」と荒木氏は述べる。

オンキヨーのスマートスピーカーは家電量販店のバイヤーからも高評価という

オンキヨーではAIそのもののテクノロジーや能力を活かして、今後の可能性がもっと広がることに期待しているという。

他企業とのコラボを推進。タイガーの炊飯器にもオンキヨーのスピーカー技術が搭載されている

いわゆる従来のオーディオメーカーという枠組みから、音楽の楽しさをAIという先端技術を活用して提供する企業へ変わろうとしているオンキヨー。荒木氏は「AIに対して先進的に取り組んでいる企業としてのブランド価値の向上と、ブランドとして商品の差別化を強力に図っていきます」と力強く語った。

スマートスピーカーP3を持つ荒木代表取締役社長(左)とG3を持つ宮崎武雄AI/IoT事業推進室室長(右)