「眠るコト」「目覚めるコト」のコト提案 パナソニックと東京西川のコラボで具現化
現代人の睡眠の質は昔よりも悪化。小学生の半数は睡眠不足
現在はパナソニックに吸収されているが、松下電工では1980年代から光と眠りについての研究を行ってきた。1990年代にはその研究結果を照明器具の商品に活用する取り組みを実践してきたという。
「もともと人は光とともに目覚めて、暗くなると就寝というサイクルで生活をしてきました。ところが、現代人は24時間営業のコンビニやスマートフォンの普及などで、この生活サイクルが夜型に変化。その影響で、小学生の半数が睡眠不足というのが現代の眠りの実情です」と話すのは、パナソニック アプライアンス社商品企画部の菊池真由美さん。社会環境の変化で、現代人の睡眠の「質」は従来よりも悪化していると指摘する。
良い眠りには3つの要素が大切
菊池さんによると、良い眠りには3つの重要な要素があるという。①規則正しい生活、②身体にあった寝具、③寝室の環境、の3つだ。このうち、③寝室の環境については、これまであまり認識されることがなかったのだが、最近の研究では寝具そのものよりも寝室環境の方が良い眠りには重要であることが分かった。例えて言うなら、床やござの上でも人は眠れるが、部屋の湿度が高いとなかなか眠りにつけないということである。
これらの研究結果を製品に落とし込んではいるが、眠りに関する製品は単に置いておけば売れるというものではない。どうやって眠りに対する環境改善の認知を促すかが課題だった。
一方、東京西川ではどうであったか。営業統括部総合企画室室長兼第3事業部の竹内雅彦執行役員部長は、「31年前から睡眠科学研究所を立ち上げ、眠りの研究をしてきました。その中で、睡眠を研究していけばいくほど、睡眠環境が大事だということが分かってきました。研究自体は、どちらかというと学術的な研究という色合いが強く、理想的な睡眠というものは分かっていましたが、それを具現化できませんでした」と話す。
竹内部長によると、睡眠関連市場は約1兆3,000億円という。同社が2016年に実施したアンケート調査では、睡眠に何かしらの不満を抱えている人は約7割。ところが、その眠りに関して、寝具専門店などでアドバイスを受けたことがある人は、たったの7%。つまり、睡眠に不満を持っている人の7%しか、睡眠改善のための情報が伝わっていないのだ。
眠りのプロがいる「ねむりの相談所」を全国7店に設置
現在、西川産業では全国7店舗に眠りのプロであるスリープマスターを配置した「ねむりの相談所」を設置している。ここでは、お客に専用の活動量計を貸し出し、1~2週間の計測後に再び来店してもらい、スリープマスターが計測データを見ながら、お客1人1人に適した睡眠環境のためのアドバイスを行い、寝具やサポートツールなどを提案するというものである。
このような取り組みを行っているが、眠りのための照明や香りなど、個々の提案は行えるが、良い睡眠のための部屋をトータルで提案するというところまでは難しい。
ここで、睡眠環境を整えるためのハードを持っているパナソニックとソフトや睡眠に悩む人に改善提案を行っている東京西川がコラボをすることで、睡眠環境に適した部屋を具現化し、具体的な形で消費者に提案できるのではないかという考えに達した。これが現在、進めているコラボの背景である。
日本橋西川に睡眠環境サポートルームを設置
パナソニックだけ、東京西川だけでは難しかったところをコラボによって共同で取り組み、日本橋西川の「睡眠環境サポートルーム」という形で睡眠環境のトータルリフォームを提案する場を作った。
「睡眠環境サポートルーム」を設置している日本橋西川は、日本橋交差点から近い距離にある。その立地からビジネスマンやOLの来店も多く、旅館業や住宅関連業者などの来店も多いという店舗だ。
寝具や個別の製品提案は、売り場や前述の「ねむりの相談所」でも実施しているが、「睡眠環境サポートルーム」は部屋全体を提案するという意味で、特にリフォームを検討している層に向けた提案となっている。
部屋は寝室を模してあり、パナソニックの照明とエアコン、ワイヤレススピーカーの実機が設置されている。操作はパナソニックのアプリのおやすみナビがインストールされたスマートフォンで行う。
体感できるショールームで寝室リフォームを提案
デモモードにすると、シーリングライトが朝は太陽光と同じ白っぽい色を発し、夜は温かみのあるオレンジ色の光になる。さらに時間が経つと消灯。朝になると徐々に明るくなり、窓がない部屋でも太陽光で目覚めるような効果が得られるという。
スマートフォンをベッドに置くことで身体の動きを感知し、暑い、寝苦しいということを検知。エアコンが室内の温度をコントロールしてくれる。設定しておけば就寝時は入眠しやすいように室温を下げ、就寝中も温度を見張り、朝は起床しやすい室温になる。
スピーカーもアプリと連動し、就寝時は眠りを誘うような音楽や効果音が流れ、就寝時はオフになる。起床時はまた、音楽や効果音が流れるという仕組みだ。
また、五感に訴える睡眠環境ということで、就寝時にリラックスできる香りや起床時の香りなどを出すこともできるという。
スマホで眠りのための寝室環境をコントロール
東京西川の竹内部長は「従来は就寝時に部屋を消灯して、音楽を消して、エアコンの設定をして、という具合にそれぞれの機器を設定しなくてはいけませんでした。しかし、パナソニックのおやすみナビではスマホ一つで3つの操作設定ができます。実際に体感していいただいたお客様の反響は非常に大きいものがあります」と話す。
パナソニックの菊池さんも「これまで店頭でトータルの眠りを提案しようとしても、なかなか難しいものがありました。おやすみナビは良い眠りを提案するためのアプリですが、体感という形での紹介が課題でした。でも、日本橋西川での展開では非常に多くのお客様が来店され、お客様に実感として伝えることができていると感じます」と東京西川とのコラボレーションに確かな手応えを感じている。
「コト」提案は単純に「モノ」✕「モノ」では成り立たない。消費者に気づきを与えることが大事だ。パナソニックでは、照明器具の訴求を従来の「寝室用」から「目覚め」というワードに変えてみたところ、これまで以上の商品の動きとなったという。
パナソニックの菊池さんは「コト提案になればなるほど、専門性が必要となってきます。売る技術よりもコンサルティングの能力を持つほうが、単価アップや購入点数アップにつながります」と話す。
東京西川の竹内部長も「見て、触って、体感して感じでもらうことで、コト提案のリアルな価値が伝わるのではないかと思います」と話し、双方とも展示をするだけのコト提案では消費者に気づきや納得を与えることは難しいと考えている。
「コト提案」には体感と専門知識が必要
睡眠や癒やしという形で、店頭での提案に取り組んでいる店舗は増えてきたが、そこにソリューション対応としての施策や体感・実演展示を盛り込んでいくことが重要だ。
「睡眠環境サポートルーム」はリフォームを考えているお客を主なターゲットとして捉えており、その根底にはお客の困りごとを解決することや情報提供がある。パナソニックの菊池さんは睡眠改善インストラクターの資格を持っているが、「資格の取得前と取得後では、お客様に話せる内容が大きく変わりました」と資格取得の効果について語る。
「コト」提案においては表層的な提案ではなく、提案の幅が広がった分だけ、より多くの専門的な知識が必要となるのではないだろうか。パナソニックと東京西川に見るコラボの形が、より多くの家電量販店の店頭でも実現されることを期待したい。
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