ポータブルオーディオは伸び代が大きい市場
東芝エルイートレーディングの新製品発表会が3月12日、東京・表参道のhanami表参道で開催された。冒頭の挨拶で登壇した東芝エルイートレーディング代表取締役社長の松本健一郎氏は、「東芝は1992年に音響事業から一度撤退をしました。その後、2003年から東芝エルイートレーディングがポータブルに特化して、再度、音響事業に参入。CDラジオ、CDラジカセ、ラジオ、スピーカー類などを製造・販売しています」と同社の事業を説明。
同社が扱うポータブル音響機器は、ストリーミング再生やスマートフォンによる代替で需要は減少基調にある。しかし、松本氏は今後の需要動向について「良い音にこだわるシニア層の増加や2020年から始まる小学校の英語教育の義務化などで、伸び代が大きい、成長可能な分野」という認識を示した。
現時点ではシュリンクしている市場であるが、その中で同社はCDラジオとCDラジカセの国内市場において、約50%のシェアがあるという。また、最近では海外でも事業を展開しており、北米や欧州、中東、アジア圏でビジネスを拡大している。
続けて松本氏は、「2016年3月に世界初のハイレゾCDラジオ・AH1000を発売しました。そのときに東芝の音響製品のブランドであったAurexを復活させました。今回、このAH1000を改良したTY-AH1を4月下旬に発売します。現行ユーザーからいただいたアドバイスを製品に反映させました。さらにハイレゾ相当の高音質で昔のカセットテープが聴けるということで、世界初のハイレゾ対応CDラジカセのTY-AK1を3月に発売します」と述べた。
カセットテープを良い音で聴きたいというユーザーの声を反映
このAK1の開発の背景としては、カセットテープの音源が耳に心地よい音源として見直されており、お客からも昔録ったカセットテープをもう一度、良い音で聴きたいという要望が強かったためと松本氏は解説をした。
東芝エルイートレーディングの音響事業のコンセプトは、あくまでポータブル特化。「世界には非常に有名な総合音響メーカーがあります。当社は、あくまでポータブルにこだわり、徹底的に追求してポータブル音響の専業メーカーというポジションで製品を展開していきます」と自社のスタンスを解説した。
続いて登壇したラジカセの修理・販売を行うデザインアンダーグラウンドを主宰する家電蒐集家の松崎順一氏は、現在のカセットテープ文化について講演を行った。
アナログ音源のリバイバルが世界的なムーブメントに
松崎氏によると、デジタル音源が主流となっている中で、アナログのリバイバルという動きが起きているという。クラブのDJがターンテーブルでレコードを回していることもあり、これが世界的な広がりを見せている。このレコードからカセットテープの動きが始まっており、自分の音楽をカセットテープでリリースするアーティストも出始めてきた。
松崎氏は「ハイレゾはハイレゾの楽しみ方があり、テープはテープの楽しみ方があります。カセットテープは意外とレンジが広く、音に厚みや深み、デジタルでは表現できない空気感も感じられます。現代の音の作りは低音が中心ですが、カセットテープの音は中音域が豊かで、それが柔らかい音に通じていると思います」とカセットテープによる音の良さを説明した。
カセットテープが使われなくなってきたことで、再生するハードも安価な製品のものが増えたと松崎氏。カセットテープの音が悪いのは、テープ自体ではなく、それを再生するハードの問題と指摘する。安価なハードで再生するから、カセットテープの音は悪いという結論になる。だからこそ、「AK1が出てきたことで、カセットの音が良いと分かってもらえ、カセットテープの文化が広がっていくものと期待しています」と述べた。
ハイレゾ再生のハードルを超え、すべての音源をハイレゾに
続いて登壇した東芝エルイートレーディング オリジナル事業部長の渡辺利治氏は「カセットテープを再生できる機器を使っている方々に調査をした結果、9割以上がハイレゾに関心があることが分かりました。一方でハイレゾはネット経由で音源をダウンロードしなくてはいけないという手間や、データが重いのでダウンロードに時間がかかるなどのハードルがあります。であれば、様々な音源を手軽にハイレゾにしようというのが製品の狙いです」と説明した。
ハイレゾ対応ラジカセのTY-AK1の大きな特徴は、すべての音源をハイレゾ音質相当にアップコンバートすること。これはCDやMP3の圧縮音源(非ハイレゾ音源)に対して、圧縮する過程で失われたデータを補完することで、ハイレゾ音源相当のクオリティに変換する機能だ。
元の音源に対して、UpSampler機能で帯域を広げ、高音域をクリアに再現させるとともに、UpScaler機能で音の解像度をアップさせ、音の強弱を豊かに再現させる。通常の音楽CDはサンプリング周波数が44.1kHz、量子化ビット数は16bit。これをUpSamplerで88.2kHz、UpScalerで24bitにアップコンバート。さらに音声帯域も通常の音楽CDでは人の可聴範囲から22kHzとなっているが、これも40kHzへ拡張。これらのアップコンバートで、ハイレゾ相当の音質に変換しているのだ。
アナログ信号であるFMラジオやカセットテープの場合は、まず、サンプリング周波数を48kHz、量子化ビット数を16bitのデジタル信号に変換。さらにUpSamplerで48kHzから96kHzへアップし、UpScalerで16bitから24bitに変換する。そのうえで、音声帯域も15kHzから40kHzに拡張することで、ハイレゾ相当の音質を実現する仕組みだ。
このアップコンバートは、本体に付いているアップコンバートスイッチを押すだけで変換される。アップコンバート再生時は、ランプが点灯するので、ひと目で分かる仕組みだ。
カセットテープはクロムやメタルにも対応
TY-AK1で使用可能なメディアはカセットテープ、AM・ワイドFMのラジオ、外部入力のアナログ音源とCD、SD、USBのデジタル音源に対応。このうち、カセットテープについてはノーマルとクロム、メタルのいずれも再生が可能である。かつて再生機器がテープのタイプを自動認識するために、メタルテープの上部には識別用の穴が開いていた。この穴を塞げば再生が可能で、録音はノーマルのみだ。
液晶表示部はカセットテープの場合、テープカウンターとなり、それ以外は曲名やラジオ局名が表示される。上部にはLEDレベルメーカーが搭載され、再生に合わせてリアルタイムでメーターが点滅する。
また、カラオケにも対応しており、マイクボリュームやエコー、ボーカルダウン機能でカラオケが楽しめる。このカラオケについては、MP3でデジタルメディアに録音が可能となっており、カセットテープの音源をデジタルのアーカイブとして保存することもできる。
TY-AH1は基本機能がAK1と同じで、違いはカセット対応がなく、NFC対応のBluetooth入力とPC接続であること。PCと接続して、外部スピーカーとしての使用も可能である。
店頭視聴用にUSBとカセットテープを用意
渡辺氏は販売施策についても説明。「キービジュアルでは、ラジカセということでカセットテープ対応がひと目で分かるビジュアルを使っていきます。専用カタログも用意し、ホームページでもAurexの専用のサイトで製品の詳細が分かるようにします。店頭ツールにおいては、単品展示台と集合展示台を用意し、視聴用音源についてはハイレゾ音源のUSBとカセットテープを店頭用に配布します」と述べた。
ポータブルオーディオという市場が右肩上りの市場ではないことから、「ポータブルオーディオのトップメーカーとして、少しでも単価アップに貢献し、マーケットを広げて新規のお客様を開拓していきたいと考えています」と渡辺氏は結んだ。
良い音にこだわり、新開発ツィータを搭載
最後に登壇した東芝グループでハードウェアやソフトウェアの開発、設計を行う東芝デベロップメントエンジニアリング プリンシパルエンジニアの桑原光孝氏は新製品の高音質技術について解説。「ハイレゾ対応製品であるためには、ハードウェアの性能として40kHzの再生が可能であることが条件。これをクリアするためにツィータは20mmのシルクドームツィータを採用しています。前機種のAH1000でも新規開発した20mmのツィータを使用していますが、今回採用のものはさらに新しく開発したものです」と述べた。
良い音を再生するためには高音域だけでなく、低音域もしっかり再生させないといけない。ウーファには高性能64mmウーファを採用し、ツィータと合わせた2wayシステム構造とした。左右独立のボックス構造を設け、バスレフ型のエンクロージャーを採用したことで、ローエンドに延びた音の再生が可能となっているという。
スピーカーの能力を活かすためには、クオリティの高いパワーのあるアンプが必要。通常のラジカセでは2~5W程度だが、新製品は20W+20Wのハイパワーアンプを搭載している。
デジタル信号に独自のフィルターと倍音生成回路を採用
前述のとおり、新製品の大きな特徴は音源のアップコンバート機能である。この機能について桑原氏は、「アナログの入力ソースをアップサンプリングとビット拡張でデジタルに変換しますが、そこで生成された信号の中から多機能のフィルターと倍音生成回路を使って、CD等ではカットされている20kHz以上の帯域を補完します。通常のリアルハイレゾの音源の周波数解析や聴感上の評価などを織り交ぜて、40kHz帯までの帯域をなだらかに下降させていくのがナチュラルで、音の厚みも損なわずにハイレゾの特性を感じ取っていただける特性と考えました」と再生帯域のチューニングについて説明した。
実演デモでは、アップコンバートすることによってボーカルに厚みや立体感が増したほか、スネアドラムの響きやシンバル系の音にキレが感じられた。あくまで印象であるが、中音域は深みが加えられ、低・高音域は音の輪郭がハッキリしてシャープな音になったというイメージだ。
ラジカセ売り場のエンドでお客へのアピールを
Aurexシリーズ第2弾として発表されたAk1とAH1。製品の完成度もさることながら、販売においても注力をしていく方針だ。
前述の渡辺氏は、「前機種のAH1000ではラジカセ売り場のエンドに置いて、目立つような形で販売をしていただきました。これは、ラジカセの売り場でしっかりと説明をすることでの単価アップが狙いで、AK1も基本的には、その路線を踏襲したいと考えています」と話す。
カセットテープとハイレゾという組み合わせは斬新で、カセットテープに馴染みのあるミドル世代以上は当然ながら、若い世代にも新しい音楽の楽しみ方を提示することができるものだ。だからこそ、従来のラジカセユーザーだけでない幅広い層へのアピールが必要である。
店頭展示では、製品とともにカセットテープも隣に並べ、エンド付近のお客の目にとまるような演出を試みたい。
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