2016年からスタートしたA-PABによるBS試験放送が終了 12月開始の新4K8K衛星放送に向けて、さらなる周知広報活動に注力
試験放送用チャンネルは4K放送用3チャンネルに再編
本年12月1日からBS/110度CSで新4K8K衛星放送が開始となる。A-PABでは、2016年12月からNHKと時間帯を分けて、BS17チャンネルで4K8Kの試験放送を行ってきた。これは本放送開始に向けての技術検証と普及促進を目的としたもので、音声や画質などに関して、様々な実験と検証が同チャンネルでの放送を通して行われた。
試験放送は7月23日に終了。使用してきたBS17チャンネルは新4K8K衛星放送に向けて、4K放送3チャンネル用として再編されることになる。この再編で、新4K8K衛星放送でのBSの帯域再編は、すべて終了する。
A-PAB理事長の福田俊男氏は、「A-PABの試験放送は終了となりますが、実は終わりではなく、これが始まりと位置づけています。4K放送対応のチューナーや受信機では、具体的に発売日の日取りが出たメーカーもあり、いよいよ本番に向けて全体が動き出しています」と挨拶を述べた。
6月出荷の薄型テレビの4K化率は50%超
一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)の出荷統計では、2018年1~6月の薄型テレビの出荷台数は、累計で前年同期比99.8%と前年割れだったが、4K対応テレビは同129.7%。5~6月は同150%超となっている。1~6月累計での4K対応テレビの台数構成比は41.1%だが、直近の6月単月では51.1%。単月ではあるが、出荷台数の半数が4K対応テレビである。
しかし、これはJEITAの出荷ベースでの統計であり、販売においては、まだまだこのレベルまでは達していないものと思われる。福田氏も「2020年に4Kテレビの普及率50%という目標は、厳しいという認識は持っています。しかし、4Kチューナーやチューナー内蔵テレビが市場に出てくることで、本放送が始まれば加速度的に普及をしていくと考えています」と語った。
また、「コンテンツを通して、これまでの2Kよりも4Kの方が良いということが重要で、放送事業者やメーカーの努力が普及のキモになると考えます。パブリックビューイングでの経験を経て、自宅でも4K放送を視聴したい、より大画面で見たいという刺激も普及促進に役立つと考えます」(福田氏)。
4Kの普及には魅力あるコンテンツが重要
電波行政を担当する総務省の情報流通行政局長である山田真貴子氏は、「4K8K放送の魅力を伝えるために何よりも重要なことは、実際の映像を見ていただくこと」と延べ、その意味で試験放送は大いに役割を果たしたという。今後、さらに4Kの視聴環境を普及させるためには「魅力あるコンテンツの提供というものが重要」として、放送関係者に対して充実したコンテンツの提供を要望した。
また、総務省としては「関係団体、あるいは事業者の方と連携を取りながら周知広報への取り組み、、ケーブルテレビの光ケーブル化、電波漏洩対策の支援など、受信環境整備にしっかりと取り組んでいきたいと考えています」と、今後も一般消費者への周知活動や受信のための環境整備に尽力していくと述べた。
続いてA-PAB BS試験放送実施本部事務局長の重森万紀氏から1年半に及ぶ試験放送の概要が説明された。この1年半という期間で1日1時間、4K番組の場合はメインとサブの2チャンネル、8K番組放送は1チャンネルで行い、同じ番組を一つとした場合のタイトル数は合計で106タイトル、合計放送時間数はメインとサブの合計で1,135時間40分にも及んだことが発表された。
試験放送で得られた知見や検証結果を本放送に活用
試験放送の一つの目的である視聴体験は上記のとおり、1,000時間を超す放送を行い、さらに視聴機会の提供という点ではNHK放送センターを含む全国53カ所の各放送局やパブリックビューイング等を実施。パブリックビューイングでの視聴者は約45万人にも達したという。
試験放送のもう一つの目的である、実際の放送波を用いた実験と技術検証の成果としては、電波の伝送に関する検証やHDR技術の効果検証、民生用の4Kカメラの画質検証など、様々な成果が得られたという。また、受信機などの機能を技術検証するための事前検証用テストストリームは370本を作成。これを受信機器メーカー約50社へ配布し、メーカーの受信機開発に貢献したとのことである。
現時点で4Kチューナー内蔵テレビは、東芝映像ソリューションのみだ。売り場でも、新4K8K衛星放送に対するお客からの問い合わせは、わずかという状況。12月に向けて4Kチューナー内蔵テレビの市場投入や単体4Kチューナーの投入が本格化していくと思われるが、そのためにも一般消費者に対する周知活動が非常に重要であることは、言うまでもない。
店頭配布用の「番組ガイド」を11月頃に計画
A-PABとしてもさらなる周知広報活動として、様々な施策に取り組む考えだ。そのうちのいくつかを紹介しよう。
■BS放送で新しいスポットCMの放映
4K8K推進キャラクターの深田恭子さん出演のスポットCMをリメイクして、15秒と5秒の2タイプを作成。BS認定事業者の放送で8月から放送する計画で、1日に15秒スポットを3回、5秒スポットを5回放映する計画が具体化されてきた。
■店頭配布用「番組ガイド」を作成
12月から始まる各放送局のイチオシ番組やタイムテーブルなどを記載した小冊子の「番組ガイド」を作成し、11月くらいから全国の家電店で配布を計画。また、各放送局の番組宣伝用素材を集めた動画の「新4K8K衛星放送番組ガイド」を作成し、やはり全国の店頭で上映してもらう計画という。
■PR活動として各種展示会への出展を推進
10月16日~19日に開催されるCEATECにJEITAとの共同展示で、4Kチューナー内蔵テレビを展示。11月14日~16日開催のInterBEEにも出展予定。
■公共スペースを利用した体験デモの実施
全国のNHKや各地域の総務省総合通信局などと協力して、展示ブースや体験デモを計画。
■地上波やBSの情報番組でPR
地上波やBSの情報番組に推進キャラクターの深田恭子さん出演で、新4K8K衛星放送の魅力をアピールする計画で、現在は具体的な検討段階にあるという。
分かりにくい右旋左旋での分け方を見直す可能性も
記者会見では質疑応答が行われ、右旋左旋という分け方についてA-PAB専務理事の土屋円氏は、「右旋左旋といっても一般の方に受け入れてもらえないのは明らか」と述べ、他の分け方を考えたいとの意向を表明。右旋で受信可能なチャンネル群と左旋のチャンネル群に分ける方法などを検討していくと話した。
右旋左旋とは、らせん状に回転する電波で、その回転方向によって右回りなら右旋、左回りなら左旋と呼んでいる。一般の消費者にとっては電波の種類や回転する方向などは視聴とは無関係のもので、確かに分かりにくい。ならば、右旋の電波で送られてくるキー局の6チャンネルと左旋の有料2チャンネル、2つのショッピングチャンネルの計4チャンネルを新たな分類とすれば、確かに分かりやすい。土屋氏は「一番大事なのは、我々が説明しやすいかどうかよりも、販売員の方々が説明しやすいかどうかが非常に大事」と語った。
大きなビジネスチャンスの新4K8K衛星放送
家電流通としては、新4K8K衛星放送による高精細映像と高音質での視聴が、大画面テレビやテレビ関連商材の販売増につながると期待できる。現状での一般消費者の新4K8K衛星放送に対する認知はまだまだ低い。だからこそ、店頭からお客に対する情報発信が必要だ。視聴するためには、どのような機器を買い増し、あるいは買い替えないといけないのか、お客にしっかりと説明ができるだけの知識を持っておきたい。
また、新4K8K衛星放送では受信したBS左旋波の中間周波数帯が、Wi-Fiの周波数帯と近いことから、電波の漏洩が家庭内の通信環境に影響を与える懸念もある。この電波漏洩対策として助成金制度もスタートしている。この助成金制度については、A-PABのホームページで公開しており、ぜひ一読していただきたい。
アナログ波が停波となった地上デジタル放送への移行時と異なり、新4K8K衛星放送がスタートしても現在視聴できるBSの2K放送は、そのまま継続される。その点で、どれだけの視聴者が新4K8K衛星放送に対応しようとするのかは定かでないところはある。
しかし、薄型テレビの技術進歩は著しく、そのスペックや機能を最大限活かすためにも、お客には新たに始まる4K放送の視聴をオススメしたい。それは購入後の顧客満足にとってもプラスの効果となる。テレビの接客の際は、必ず新4K8K衛星放送について触れるようにしよう。