エアコンと戦わないダイニチの石油ファンヒーター 根強いニーズを背景に、即暖性と加湿効果を訴求


エアコンに押されて市場規模が縮小してきた石油暖房だが、ここ数年は世帯数減少と暖房エアコンの伸びにも関わらず、横ばいの傾向が続いている。エアコンにはない魅力が見直され、エアコンとの同時利用やエアコンを設置できない部屋への導入がじわり伸びている。

石油ファンヒーターの市場動向

石油ファンヒーター(以下、石油FH)の出荷台数は、2017年は231万台とここ数年では特に良い数字に落ち着いた。早い時期から寒波が来たことや、灯油価格が比較的安定していたことが好影響したが、前年と前々年が暖冬であまり良い数字にならなかった反動でもある。

石油機器の出荷台数はここ5年ほど、ほぼ横ばい傾向(ダイニチの発表会資料より、出典元は日本ガス石油機器工業会

年内に寒波が来れば、長く使おうという心理が働いて高付加価値のモデルが出やすくなる。一方、年が明けてから寒くなると春を待つ心理が強くなり、ボトムのモデルが動く。猛暑酷寒を望む家電業界の縮図がある。

石油FHは、ダイニチ工業が5割以上のシェアを占める。同社のこの冬の戦略や課題はどこにあるのだろうか。

石油FHは生き残る

ダイニチ工業は8月に、同社では初めてとなる都内での記者発表会を開催し、石油FHと加湿器の新製品をお披露目した。
吉井久夫代表取締役社長は、「石油FHの市場は、かつて13社がひしめく市場でしたが、大手メーカーほど手を離して現在は4社に集約されました。それでも、年間約200万台をコンスタントに出荷する市場です。ニッチ市場になりましたが、そこでトップを維持していくには、同業他社との競争だけではなく、他の商品から石油FHというカテゴリーのシェアが奪われないように考える必要があります」と述べた。他の商品とは、もちろん、暖房エアコンのことだ。

石油ファンヒーターとエアコンは、同じ暖房器具でも応えられるニーズが違う。この気付きが市場を根強く支えている

発表会ではWエコプラスの省エネ機能を備えたハイグレードモデルのSGXタイプと、業務用10kWモデルと同等の出力を持ち、家庭用石油ファンヒーターでNo.1の暖房能力を誇るFZタイプを紹介した。SGXタイプでは、操作パネルに23.4°の傾斜を付けて表示を大きくし、従来モデルよりも見やすく操作しやすいデザインを採用。従来からの35秒のスピード着火、消火時のニオイを約40%低減する特許取得の消臭システム、給油の手間が減らせる業界No1のタンク容量と合わせて優位性をアピールした。
また、3枚の動くフラップと2枚の固定ルーバの合計5枚の羽を採用し、温風がより遠くまで届くよう工夫している。
吉井社長は「石油FHは、まだ新機能を盛り込んだ商品開発ができており、エアコンに撲滅されるジャンルではなくエアコンと棲み分けるジャンルになっています。発表会を開催したのは、そのことをしっかり伝えたかったからです」と述べた。

石油FHには、部屋全体を素早く暖め、灯油1Lの燃焼で1Lの水が発生する加湿効果があることなど、エアコンにない魅力を訴求していく考えだ。

ダイニチの新製品「FW-3718SGX」
業務用石油ストーブの10kWモデルと同等の出力を持つダイニチの「FZ-101」