パナソニックが満を持して完全ワイヤレスイヤホンを発表 ノイズキャンセリング・オンでも音質に影響なし


完全ワイヤレスイヤホンが急速に市場拡大している。検索すると、おすすめやノイズキャンセリング、コスパ、ランキングなどの関連ワードとともに示されたサイトでは、国内はもとより海外も含めた数多くのメーカーの製品を見ることができる。パナソニックでもワイヤレスイヤホンを市場投入しているが、左右一体型だった。そのパナソニックにとって初となる完全ワイヤレスイヤホンの新製品がこのほど発表された。

完全ワイヤレスイヤホンの市場は急成長

ヘッドホンは耳を覆うイヤーパッドが付いたオーバーヘッドホンタイプとカナルタイプに代表されるイヤーパッドがないインサイドホンの2タイプがある。パナソニックの調査によると、ヘッドホン市場はインサイドホンが成長しており、市場全体を底上げしているという。

インサイドホンは大別すると有線、ワイヤレス、完全ワイヤレスの3タイプがあり、有線よりもワイヤレスが拡大。特に完全ワイヤレスはこの数年間で急成長し、現状ではインサイドホンにおける完全ワイヤレスの構成比が急速に高まっている。

この完全ワイヤレスイヤホンの急成長は、その用途が拡大しているためだ。下のグラフはパナソニックが行ったアンケート調査の結果である。

パナソニックが2020年1月に行ったアンケート調査。n=1,078人

この調査によると、外出や移動しているときだけでなく、自宅でも完全ワイヤレスイヤホンを利用していることが分かる。つまり、従来のスピーカーから音を出して聴くという聴き方から、日常的にイヤホンで聴くという聴き方に変わっているのだ。

では、完全ワイヤレスイヤホンをどのような用途で使っているのか。上記のアンケート対象者に用途を尋ねた結果が、下の表だ。

パナソニックが2020年1月に行ったアンケート調査。n=1,078人

音楽や映像の音を楽しむという本来の用途が圧倒的に多いが、次に多いのが通話。さらに約1割は遮音のために完全ワイヤレスイヤホンを利用していると回答。これらの利用方法をみると、完全ワイヤレスイヤホンに求められるのは単に音質だけでなく、通話音質やノイズキャンセリング効果などの要素もあるといえるだろう。

音楽、通話、遮音の3つのコンセプトで、3モデルを同時発売

そこでパナソニックは完全ワイヤレスイヤホンに3つのコンセプトを設けて開発したという。その3つを頭文字で表わすと、「M」「N」「C」。「M」はMusicの略で、広がりと奥行きのある豊かな音体験。「N」はNoise cancelling。周囲の音の侵入を排することで、プライベートな空間を実現。「C」はCommunication。音の再生や通話における途切れにくさと高性能マイクで音楽も通話もストレスなく楽しめるというものだ。

このコンセプトに沿って4月中旬に発売となる新製品はEAH-AZ70W、RZ-S50W、RZ-S30Wの3モデル。EAH-AZ70Wは型番の頭が他の2モデルと異なっているが、これはTechnicsブランドでの発売になるためだ。Technicsブランドで既発のヘッドホンやイヤホンの型番はEAH-が頭に付いており、これを踏襲した型番となっている。

Technicsブランドとして発売するEAH-AZ70W

ドライバー、振動板、空気の流れと、音にこだわったEAH-AZ70W

EAH-AZ70Wの特長は、直径10mmの大口径ドライバーを搭載し、グラフェンコートPEEK振動板の採用で不要な振動を抑えて中高音域を豊かに再現。さらにドライバーの後部に空間を設けたアコースティックコントロールチャンバーの配置で、振動板がしっかりと鳴るようにしている。これらは、3つのコンセプトの「M」に当たるもので、AZ70Wは3モデルの中でも特に音にこだわったモデルだ。

EAH-AZ70Wはテクニクスの音響技術を採り入れ、音楽本来の躍動感と豊かな空間性を実現

ノイズキャンセリングは2方式を採用したハイブリッド仕様

「N」はどうだろうか。EAH-AZ70Wは「デュアルハイブリッドノイズキャンセリング」を搭載。これはフィードフォワード方式とフィードバック方式の両方式を採用して周囲の音を打ち消す方式である。

フィードフォワード方式とは、イヤホンの外側に搭載したマイクから周囲のノイズを取り込み、そのノイズの波形と逆位相の波形の音をぶつけてノイズを打ち消す。一般的にはアクティブノイズキャンセリングとも呼ばれる手法だ。この方式に加えて、さらに耳に近い部分にもマイクを搭載し、同様の手法でノイズを打ち消すのがフィードバック方式という。

フィードフォワード方式はノイズと逆位相の音を作り出すのにデジタル制御を用いているが、フィードバック方式ではアナログ制御となっている。フィードフォワード方式が対応する周囲のノイズにはさまざまなパターンのノイズがあり、データ量が多い。その処理には演算が必要なため、デジタル制御とし、フィードバック方式は、より耳に近い部分での処理のためにスピードを重視し、アナログ制御としたと同社では説明する。

2つのノイズキャンセリング方式を採用し、イヤホンの外側と内側でノイズを除去する

Communication機能にも技術を持って対応

コンセプトの「C」に該当するのは、新開発のタッチセンサーアンテナとBluetoothの左右独立受信方式、ビームフォーミング技術、ラビリンス構造など。新開発のタッチセンサーアンテナは、再生や通話などの操作を行う本体のタッチセンサーにBluetoothアンテナを実装。基盤部分もアンテナ化し、アンテナの面積自体が大きくなると同時にセンサーとアンテナを一体化することで、本体のサイズはコンパクト化が実現できたという。

タッチセンサーにBluetoothアンテナを実装することで、アンテナの面積も拡大し、受信性能をアップ

Bluetoothの接続に関しては、左右のイヤホンが同時に受信する左右独立受信方式を採用。左右のどちらかで受信し、もう片側に送信するリレー伝送方式に比べて信号が途切れにくく、映像を視聴している際の映像と音声のズレを低減した。

独立した左右それぞれが信号を同時に受信。信号の切断や映像と音声のズレを低減

クリアな音声での通話を実現するのが、通話の音とそれ以外の音を区別してノイズを低減するビームフォーミング技術。また、風切音を低減するため、通話用のマイクに直接、風が当たりにくいよう、マイクと集音用の空気穴の間に壁を設けたのがラビリンス構造だ。通話専用のマイクは左右に1つずつあり、半導体の製造技術によって作られるMEMSマイクを採用。このMEMSマイクは、スマホの通話用マイクとしても活用されている非常にコンパクトかつ高性能のマイクだ。

マイクはノイズキャンセリング専用と通話専用が1つずつと兼用が1つ、計3つが配置されている

ドライバーが8mm径のS50Wと6mm径のS30W

RZ-S50Wは、コンセプトの「N」と「C」はEAH-AZ70Wと同様で、「M」が異なる。ドライバーは口径8mmで、振動板にはバイオセルロースを採用。締まりのある豊かな低音とクリアなボーカルを再現する。

口径8mmのドライバーを搭載したRZ-S50Wは、パナソニックブランドでの発売

RZ-S30Wは女性や若年層など、小さな耳にもフィットしやすいコンパクトモデル。小さくても外れにくい設計で、イヤーピースはLからXSまでの4サイズを同梱。ドライバーの口径は6mmで、エアーダクトを内側に設けることにより、コンパクトでも低音域をしっかりと再現するという。ノイズキャンセリング機能は非搭載だ。

RZ-S30Wは3色展開。装着してもアクセサリーの邪魔になりにくい形状に設計している

試聴して驚く音のクリアさと分離の良さ

発表会では各モデルの試聴も行われた。まずは、RZ-S30Wでファレル・ウィリアムスの「Happy」を再生。楽曲自体が非常にシンプルで、楽器隊も少ない。立体的な音作りではなく、割りと平面的な音作りをしている楽曲だ。一聴して分かったのは、そのクリアさ。ボーカルがしっかりと際立ち、音の立ち上がりもよい。テンポを作るバスドラムの低音域とハイハットのオープン・クローズもイヤホンとは思えないほどクリアな音だ。楽曲自体、バスドラムが前に出てベースは引っ込みがちだが、ベースラインを聞き取ることもできた。想像していた以上の音質に正直なところ、驚いた。

幅約17mmのS30Wはリング形のオーナメントを施し、女性向けのデザイン。だが、デザイン重視ではなく、クリアで分離のよい音も魅力だ

次にRZ-S50Wを試聴。カフェで聴くというシチュエーションで、カフェの中の環境音を流し、S50Wのノイズキャンセリングを試してみた。ノイズキャンセリングはオフと、周囲の音を取り込んだアンビエント、そしてノイズキャンセリング・オンの3パターンの選択が可能だ。

アンビエントはマイクを使って集音するため、自然な音ではないが、電車の中のアナウンスを聞き取るには十分だ。ノイズキャンセリングをオンにすると、明らかにノイズが減り、楽曲しか聴こえてこない状態になった。S30Wと比べて、若干音が太く感じたのは、ドライバーの口径によるものかもしれない。

S30Wよりもドライバーの口径が大きいS50Wは、音の広がりが感じられ、ノイズキャンセルの効果も非常に高い

飛行機のエンジン音も遮断するノイズキャンセリング

最後に試聴したのは、EAH-AZ70W。この試聴では飛行機の中にいるシチュエーションを再現。機内で聞こえる飛行機のエンジン音が流れる中での試聴となった。楽曲はアデルの「Hello」。ピアノとボーカルのみの静かなメロディ部とサビのダイナミズムが印象的な楽曲で、飛行機の中で静かな音楽を聴くという意味ではうってつけといえる。

アンビエントではS50Wで感じたように、マイクの集音で低音域のエンジン音は、カフェの中の環境音よりもかえって気になった。エンジン音のような一定の周波数帯の音は、アンビエントモードだと合わないような印象を持った。

しかし、ノイズキャンセリングをオンにすると、エンジン音がピタッと止まり、聞こえるのは「Hello」だけになった。ここまでノイズキャンセリングの効果があると思っていなかったが、見事なまでに裏切られた。「happy」の再生時も感じたのだが、ノイズキャンセリングをオンにしても、楽曲の音質には全く影響を与えない。音楽はそのままの音質で、ノイズだけが除去されるため、音楽に集中できることは言うまでもない。

低音域から高音域まで豊かな音を再現するAZ70W

AZ70Wは音にこだわったというだけあって、繊細なピアノの音もアデルの低音からファルセットまでの広い音域もクリアでファットな音となって再生。オーバーヘッドホンで聴くかのような音の立体感と艶やかさが、耳にぴったりと収まるイヤホンで聴けるのだ。オーバーヘッドホンに比べてドライバーが小さいイヤホンは、どうしても音の迫力や立体感が損なわれてしまう。しかし、AZ70Wはこれらに対応し、音楽を楽しむというイヤホンの本来の用途に確実に応えたモデルといえよう。

イヤホン本体にtechnicsのロゴが入ったAZ70Wは、イヤホンというスペースが限られた空間にも関わらず、オーバーヘッドホンのような音像を再現する

タッチセンサーによる操作方法は共通仕様。体験会のため、通話や音声アシスタントとの連動はできなかったが、タッチをすると、その回数だけ信号音が鳴り、一時停止やボリュームのアップダウンができる。はじめは3回タッチしたつもりが、2回とカウントされたり、1回と認識されたりもしたが、これは初見ゆえのこと。試聴終了までには誤作動もなくなった。軽いタッチで動作し、反応もよい。売り場でお客に体感してもらう際は、装着する前に操作を示しておくとよいだろう。

完全ワイヤレスイヤホンでは、後発となったパナソニックが満を持して発表した3モデルは、改めてパナソニックの技術の高さを示し、期待に応えた製品といえよう。

完全ワイヤレスイヤホンをショーケースに収納している店舗は増えてきた。体感するには販売員に声をかけないといけないが、ブース内に販売員が不在という場面も散見される。今回、パナソニックが発表した3モデルは、いずれもお客に体感してもらえば、その高い品質が分かる。そのためにも、売り場での体感を積極的に勧めたい。『体験できます』とうたっても、肝心の販売員が不在では無意味だ。それは、そのまま販売機会ロスにもつながる。改めて自店のワイヤレスイヤホン売り場を見直してみよう。

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