ヤマダ電機のホールディングス化の背景にあるもの


株式会社ヤマダ電機は2020年3月16日に、2020年10月1日から会社分割により株式会社ヤマダホールディングスという名前のホールディングカンパニーと株式会社ヤマダ電機という事業会社に分割することを発表した。

ヤマダ電機のプレスリリースでは、ホールディングカンパニー設立の目的として以下のようにある。読み取れるのは、企業自らが変化していくための攻めのホールディングス体制への移行ということだ。

めまぐるしく環境が変化し、不透明感が増すなかで、これまでの概念にとらわれない、将来を見据えた革新的な経営がさらに求められていると認識しています。当社グループは、こうした激しい変化に対応するうえで最も重要なのは、「企業自らが変化していくこと」と考えています。そのため、近年は、「既存ビジネスの強化」に加えて「新市場の開拓」を目標に掲げ、家電をコアに生活インフラとしての「暮らしまるごと」をコンセプトに、家電から快適住空間までトータルコーディネート提案する「住まいる館」を中心とした構造改革を推進し、各種事業価値の向上に取り組んでいます。これらの改革をさらに推進し、企業価値の向上と、持続可能な社会づくりに貢献するためには、持株会社体制に移行することが最適と判断しました。

引用:会社分割による持株会社体制への移行に伴う分割準備会社設立の決議、吸収分割契約書承認の決議及び定款 一部 変更 商号変更 の決議に関するお知らせ

ヤマダ電機の改革の手応え

世界経済は2020年に入ってから新型コロナウイルスの感染拡大の影響で大きく落ち込んでいる。日本においても経済への影響は計り知れず、特に影響が大きいのは流通業と旅行、宿泊等の観光サービス業である。家電量販企業でも2020年2月頃から来店客数や売上に影響が出ている。また、メーカーのサプライチェーンが滞っている影響もあり、3月の繁忙時期に品切れ商品が多数出ており、客数減、在庫減というダブルの影響が出ている。

このような状況下において、ヤマダ電機がホールディングス体制への移行を発表したのはいくつかの理由があると考えられる。一つに、ここ数年続けてきた経営改革の手応えだ。ヤマダ電機の2018年度と2019年度の四半期ごとの営業利益を比較すると、2019年度は前年を大きく上回っている。特に注目したいのは、直近の第3四半期である。第2四半期は消費増税前の駆け込み等で需要が大きく拡大したため前年より業績が良いのは理解できる。しかし、第3四半期は増税後の買い控えで業績が低迷する企業が多くあった。このような環境の中でも、ヤマダ電機は着実に営業利益を積み上げている。

実際にヤマダ電機と取引をしているメーカー担当者から聞き取りをしてみても、2020年の2月の売上は前年を維持しており、3月に入ってから新型コロナウイルスの影響は受けているものの、他の家電量販企業と比べて業績が良いとのこと。

ヤマダ電機の経営改革の成果は、粗利益率で最も顕著に表れている。四半期ごとの粗利益率は前年に比べて大きく向上している。経済状況が厳しい時は競争も厳しくなり、粗利益率は低下する傾向が強いが実際には粗利益率が向上している。

改革の柱となっているのは、家電住まいる館の業態としての手応えである。家電住まいる館はすでに全国で100店舗を超えており、一般のヤマダ電機の店舗(テックランド)よりも大型店が多いため売り上げ規模も大きいといわれている。ヤマダ電機は家電住まいる館のみの売上は公表していないので、取引がある家電メーカーの営業担当者に家電住まいる館の聞き取りを行ってみたが、「住まいる館は家電以外に生活雑貨等があり、2月や3月は新型コロナウイルスの感染拡大によりマスクや洗剤等を求める顧客が多く来店しているようだ。他の家電量販企業と比べても集客力があるので業績は好調だと思う」と語っている。また、「2月、3月は都心部の店舗が新型コロナウイルスの影響を大きく受けているのに対して、家電住まいる館のような郊外型の店舗は影響が少ないように感じる」とも述べている。2020年の2月、3月は家電量販業界の中でもヤマダ電機は比較的好調を維持しており、今まで行ってきた改革の手応えを感じていることだろう。

家電以外事業の手応え

ヤマダ電機に対して否定的な声が多いのは、家電以外の事業の業績である。ヤマダ電機には住宅事業のヤマダホームズ、リフォームのハウステック、家具の大塚家具といった企業があり、これらの関連企業の業績が本業の足を引っ張っているという意見である。

住宅事業やリフォーム事業、家具事業等は競争が厳しく、しかも、それぞれの分野においてのナンバーワン企業ではないために、業績回復に時間がかかっていた。しかし、決算短信で住宅設備機器事業の売上推移を見ていると2020年の4~12月で売上伸長率は104.5%、売上総利益率で110.7%と大きく改善しており、着実に売上、利益を伸ばしている。前年の2018年度も好調に推移しており、この2年間は言われているほど事業は苦戦していない。

ヤマダホームズは住宅の販売会社であるが、ヤマダホームズの新築着工件数が増加すると、ヤマダ電機の家電製品の販売はもちろん、ハウステックの住宅設備機器や大塚家具の製品の売上にも貢献することになる。ビジネスモデルとしては、住宅の着工件数の増加に伴い、ヤマダ電機が家電以外の事業として行っている住宅設備機器、家具、保険、金融といったすべての事業が好転していく。決算短信で四半期ごとの住宅設備事業の業績を見ると、ヤマダ電機は、今まで課題であった住宅事業等を成長基調に乗せてきたと考えても良いだろう。

メディアで度々取り上げられている大塚家具については、ヤマダ電機の大型店舗のLABI店舗での取り扱いが本格化している。2020年の2月には、LABI 1総本店池袋、LABI品川大井町、LABI1なんば、LABI LIFE SELECT千里などの店舗でも取り扱いを始めた。

また、3月には大塚家具の本社がある有明ショールームでも家電製品の取り扱いを始めている。大塚家具の取扱店舗が増えれば大塚家具の売上も向上し、大塚家具で家電製品の取り扱いが増加するとヤマダ電機としても家電の売上向上に寄与していく。ヤマダ電機と大塚家具との相互乗り入れが本格化していくことで、今後の大塚家具の業績も改善が予測される。

LABI1日本総本店池袋でメディアの取材に応じるヤマダ電機の三嶋恒夫代表取締役社長(左)と大塚家具の大塚久美子代表取締役社長(右)

もともと大塚家具が不振であったのは、不採算店舗をスクラップして経費削減に取り組んだ結果、売上が大きく落ち込み、そのためにさらなる経費削減をしなければならないという負のスパイラルに陥ったからだとみられる。流通業の場合は、家賃、人件費といった経費は固定費が多く、店舗を縮小しても固定費は大きく削減されないことが多い。しかし、ヤマダ電機は規模のメリットを生かして大塚家具の販売先を増やすとともに、大塚家具の商品のアイテム数も増やすという拡大均衡政策を行っている。これもヤマダ電機という基盤があればできることである。ヤマダ電機はこの1年で大塚家具についてもある程度の黒字化の目途をつけようと改革を行っているようだ。

持ち株会社とは

ホールディングカンパニーは一般的に「事業持ち株会社」と「純粋持ち株会社」に分類される。事業持ち株会社とは、事業を行いながら持ち株会社の機能を有する会社のことである。純粋持ち株会社とは、事業は行わず、純粋に持ち株だけの会社である。その違いを簡単にまとめたのが、下の表である。

ヤマダ電機の発表では、当面は事業持ち株会社として活動を行うようであるが、将来的には純粋持ち株会社も考えているようである。

他のホールディングカンパニーの場合、ホールディングカンパニーが、企業全体の投資戦略やカバナンスを行い、事業会社が業務の遂行を行う。この場合、事業会社の業績をホールディングカンパニーが評価を行うので責任が明確になりやすい。

一般的な企業の場合は、企業の保有と執行が一緒のためにどうしても評価が甘くなりやすい。ホールディングカンパニーに移行することで、将来に向けての投資や事業の再編がやりやすくなる。ヤマダ電機は、時代の変化に対応するための持ち株会社と言っているが、評価はヤマダホールディングスの活動待ちである。

ヤマダホールディングスの評価

改革や子会社の業績についてもある程度、手ごたえが感じられるヤマダ電機であるが、課題もある。

一つは、拡大するEC販売に対しての取り組みである。ヤマダ電機は家電製品の販売では圧倒的な業界No.1企業であるが、インターネット販売ではヨドバシカメラやビックカメラといった企業に後塵を拝している。また、新型コロナウイルスにより外出を控える消費者が多い現在では、店舗販売は特に影響を受けやすい。

ヤマダ電機もECには注力しているが、2020年3月期時点でのEC売上は年間500億円前後で、ヨドバシカメラやビックカメラの半分程度とみられる。ヤマダ電機としては店舗を持つ強みを生かしたネット販売に力を入れており、ビックカメラやヨドバシカメラを追随したいところである。

また、住宅設備機器事業が成長基調にあるとはいえ、事業そのものは住宅業界、リフォーム業界で、売上、利益ランキングともまだ下位である。大塚家具にしても、ライバルのニトリやイケアに大きく差をつけられている。各業界でトップ3に入らないと業績的には厳しいといわれており、トップ3に入るためには投資や再編等が不可欠である。

新型コロナウイルスの影響は、消費者行動にも大きな影響を与えている。消費者は家にいる時間が増え、商品への消費から時間の消費にお金を使うようになってきている。家電業界としても、モノの販売から、サービスの販売といったところに注力すべきだろう。

さらに、IoTや5Gといった技術革新が、企業の在り方や消費者の消費行動、ライフスタイルを大きく変えようとしている。家電量販企業が展開している店舗は、郊外においては1,000坪から2,000坪程度、都市部においては3,000~5,000坪前後が多く、大多数の店舗は20年以上前に作られてから大きな変化はない。今後、この業態が10年、20年と続くかというと疑問である。

ヤマダ電機の一つの答えが、「家電住まいる館」であるが、この業態も毎年変化させないとどんどん陳腐化していくだろう。ヤマダホールディングスの目的は、企業の存続のための変革を行うことだとしている。ここ数年、続けてきた改革を、さらにバージョンアップするための持ち株会社であると考えたい。

ヤマダホールディングスの評価は、今後の業績を見なければならないが、ホールディングスの活動は投資戦略や提携戦略、事業の再編戦略といったところに出やすい。今後、ヤマダ電機が持ち株会社化によって、どのような戦略、行動をとるかを注視したい。

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