消えた250億円はどこにいったのか?


新型コロナウイルスの感染拡大は産業だけでなく、人々の生活や行動様式にも大きな変化をもたらしている。特に感染防止対策として「3密」の回避は、人口密集地である大都市圏に立地する店舗に大きなダメージを与えている。47都道府県で最も多くの人口を抱える東では、広域集客型のターミナル型店舗が厳しい販売環境に置かれているのだ。

新型コロナウイルスの影響がターミナル型店舗を直撃

新型コロナウイルスによる新しい生活様式の変化は家電量販企業に大きな影響を与えている。家電量販企業の2020年度の月次情報や第1四半期の決算を見ると、好調だったのはヤマダ電機、エディオン、ケーズデンキ、上新電機で、苦戦したのはビックカメラ、ヨドバシカメラ、ノジマといった企業である。

新型コロナウイルスの影響で特に大きな影響を受けたのは、ターミナル型の家電量販企業だ。もともとターミナル型の家電量販企業は、月曜日から金曜日までのいわゆる平日の売上比率が郊外型家電量販企業と比べて高く、土曜、日曜の売上が天候等で左右されることの多い郊外型に比べて売上は安定していた。

しかし、新型コロナウイルスによる新しい生活様式の変化により、ターミナル型家電量販企業は大きな影響を受けている。その影響とは次のようなことだ。

乗降客減で平日の来店客数が大きく減少

もともとターミナル型の家電量販企業は、ターミナル駅の乗降客の多寡で売上が大きく左右される。都営地下鉄の乗降客数の推移をデータで見ると、新型コロナウイルスの影響前と比べて8月でも30%程度、乗降客が減少。平日の乗降客そのものも大きく減少しているのだ。

リモートやオンライン授業などにより首都圏の鉄道の利用者は減少している

また、ターミナル型家電量販企業の売上のピークとなる午後6~8時台の来店客も減少しているという。実際に店舗を視察して販売員から話を聞いてみると、午後7時以降の来店客が以前と比べて大きく減ったとの声が多く聞かれた。

イベント中止で繁華街を訪れる土日のお客も減少

ターミナル型の家電量販店の場合、平日と土日とでは客層が異なる。平日は通勤客が多く、会社の帰りに来店して買い物をする。土日は遠方からのお客が多く、繁華街に近接したターミナル駅で下車して買い物をする。

ターミナル駅の近くには映画館、博物館、野球場、コンサートホール等があり、イベント目的で不特定多数が遠方から訪れる。しかし、新型コロナウイルスの影響でイベントが取りやめになり、繁華街を訪れる人は大きく減少している。

繁華街のターミナル駅はさまざまなイベント目的で利用されるが、コロナ禍で人の往来が減少した

4月の土曜、日曜は主なターミナル駅の乗降客が70%程度減少したが、8月になっても以前の30%程度の減少状態が続いている。特に大きな影響として挙げられるのは、高所得の年配層が新型コロナウイルスの感染を恐れて繁華街へ行かなくなったことである。

東京都心部の5,000億円の売上はどうなるか

東京・山手線沿線のターミナルにある家電量販店は小型店も入れると30店舗以上あり、その総売上高は2019年度で年間5,000億円弱と推測される(株式会社クロス推定)。前年の2019年度第1四半期の総売上高を約1,250億円とすると、2020年4~6月までの第1四半期の売上は約20%のダウンで1,000億円程度だったと考えられる。

図は山手線の家電量販店立地

2020年度第1四半期の主要家電量販企業7社(ヤマダ電機、ビックカメラ、ケーズデンキ、ヨドバシカメラ、エディオン、ノジマ、上新電機)の総売上高は、前年比100%強である。第1四半期の家電需要全体は、前年と比べて減少していない。ということは、ターミナル型家電量販企業の売上は、生活者の購入行動の変化によって大きく影響を受けたと考えられるのだ。

それでは、ターミナル型家電量販企業の売上はどこに行ったのであろうか。考えられるのは、2つだ。外出を控え、インターネットで買い物をする向きは増加。第1四半期で家電製品のインターネット売上は約140%の伸長と推測されるため、一つは店舗からインターネットへのシフトである。

もう一つは、ターミナル型から郊外型の家電量販企業へのシフトだ。例えば秋葉原にはヨドバシカメラやビックカメラがあり、秋葉原へは京葉線やつくばエクスプレスを利用して訪れるお客が多い。秋葉原に行かなくなったお客は京葉線沿い、つくばエクスプレス沿いで買い物をする。

同様に、池袋にはヤマダ電機のLABIやビックカメラがある。池袋は埼玉の玄関口と言われているように西武池袋線や東武池袋線、JR埼京線を利用しているお客が多いため、これらの路線沿いの郊外店舗に売上がシフトするという構図である。

ただし、お客はターミナル型量販店のポイントカードを持っており、まずはポイントカードを保有している企業に行く。LABIの場合は、LABIから郊外のヤマダ電機に売上がシフト。ビックカメラの場合は、ビックから郊外のコジマにシフトするケースが多い。

ポイントの相互利用により、ターミナルのビックカメラのポイントは郊外のコジマでも使用可能

ヨドバシカメラの場合、郊外に店舗は少なく、顧客の多くはインターネットでの買い物にシフトするか、他の家電量販企業で購入するケースも想定される。このケースで恩恵を受けているのは、千葉でシェアの高いケーズデンキやヤマダ電機ではなかろうか。

ターミナル展開のヨドバシカメラは郊外店のネットワークがないため、ネットへの誘導がカギとなる
山手線添い家電量販企業の売上推移

売上はターミナル型から郊外型にシフト

冒頭に挙げた郊外型家電量販企業が好調な理由の一つとしては、記述してきたように顧客の消費行動の変化をつかみ、ターミナル型の売上がオンされていることだ。

先述のように2020年第1四半期における山手線沿いにあるターミナル型家電量販企業の売上は250億円程度減少したとみられる。そのうち約50億円はインターネットに、約200億円は郊外型家電量販企業に向かったと考えられる。

宅配ポストを利用して人と接触しなくてもよいネット通販はコロナ禍で需要が急増

もし、このような状況が1年間続くならば、山手線沿線のターミナル型家電量販店の年間売上5,000億円の20%にあたる約1,000億円が、郊外型の店舗やインターネットに移行することになる。

もちろん、ターミナル型の店舗も手をこまねいていたわけではなく、店舗改装やレイアウト変更、商品の入れ替え等も行い、店舗の魅力向上に努めていた。しかし、新型コロナウイルスによる生活様式の変化はあまりにも大きく、繁華街を訪れる人の減少や顧客の消費行動の変化に対応しきれない部分があることは否めない。

今後、ターミナル型家電量販企業は大胆な政策を打ち出さなければならず、ヨドバシカメラ、ビックカメラともトップの交代があったのも、このような状況が影響していると考えられるだろう。