2021年のパソコン売り場を占う「注力するのは15インチ台のモダンPC」 マイクロソフト Windowsデバイス戦略本部 本部長 星 竜太郎氏インタビュー
テレワークや在宅学習はPC市場の追い風
―2020年のPC市場をどのように総括していますか。
星「2020年を振り返ると、春先に昨年10月の消費増税の反動があり、1月にはWindows 7のサポート終了があってその影響が特需となりました。そのあと新型コロナの世界的な流行が来て製造・流通・販売の現場が混乱しましたが、結果から言うと、コロナ禍はPC市場にとっては需要増につながりました。テレワークや在宅学習が増え、家庭のパソコンのリプレースが進んだからです。2021年もコロナ禍の影響は継続すると考えています。
当社では以前からPCメーカー各社と共に「モダンPC」を推進しています。モダンPCとは最新機能を搭載したノートパソコンの総称で、厳密なスペック等の定義はありませんが、軽量・薄型で高速に動作するフラグシップマシンのイメージです。
モダンPCの推進に当たっては、『スゴイぞ、モダンPC』キャンペーンを継続的に実施しています。今年も11月13日からスタートしています。これは幅広いユーザーにモダンPCを使ってもらって、Officeも含めたより良いWindows環境を体験してもらおうという趣旨のものです。
また、お客様からは直接見えないクラウド環境も、モダンPCならもっと快適になるとアピールしてきました。2020年はPCの買い替え需要に併せて、モダンPCの価値を上手く訴求できたと思います。
社会情勢を見ると、内閣が変わってデジタル庁を立ち上げ、国としてデジタル化に本腰を入れると表明しています。PC業界にとってはこれも追い風です。これまでパソコンはどちらかというとコモディティ化の流れが強かったのですが、パソコンの使い方が見直されつつあり、パソコンなら何でも良いではなく、ちゃんとやりたいことができるパソコンを用意しましょうという流れになってきています。この傾向は2021年も続くと考えます」
2021年は15インチ台のモダンPCを促進
―2021年のPC市場をどのように展望しますか。
星「モダンPCの話に戻りますが、これまでモダンPCの主流は13インチ台や10インチ台のモバイルノートでした。これはモバイルほど高性能を必要とするためで、実際に市場で販売されるモバイルノートの9割近くがモダンPCとなっています。
それを踏まえ、2021年はモバイルに加えて、15インチ台の据え置きで使うモダンPCを促進したいです。これまで、自宅などで据え置きにして使うパソコンは、外に持ち出さないこともあってモダンPCでなければならないという必然性が高くありませんでした。しかし、オンライン会議や遠隔学習のニーズが高まれば、それらはある程度の性能を必要とするのでモダンPCが求められるようになります。
オンライン会議で顔を見ながら通話したり、ホワイトボードを共有したり、ペンでメモを取るといったことは、ビジネスに限らず、学習やプライベートなど様々なシーンで利用するようになります。遠隔地に住む実家のおじいちゃんやおばあちゃんとコミュニケーションするにも、これらのツールは大変便利ですし、画面は大きいほうが良いでしょう。動画やアニメをストリーミングで観る場合も、大画面のほうが魅力です。15インチ台を軸足に置きながらモダンPCを訴求していく素地は、整っていると思います」
豊かな生活を実現するのがモダンPC
―新型コロナの影響でオンライン販売が伸びているイメージがありますが、店頭と比べるとどうでしょうか。
星「オンラインの数字も伸びていますが、店頭も伸びています。オンライン販売と一口に言っても量販店のECサイトもオンラインです。それを店頭に含めると、販売比率はまだ8割くらいが量販店だと思います。
昨年対比だけでなく、一昨年対比なども見比べてみると、やはり『リモート需要』の影響が大きいです。リモート需要には大きく2つあって、1つはリモートワークで、もう1つはリモート学習(遠隔学習)です。これらは都市部だから、もしくは郊外だからといった地域差はあまりなく、通常以上に売れていると感じています。
―仕事や勉強の道具は、新型コロナの流行に関わらずいずれ揃えないといけません。会社や学校に行く機会が少なくなる分、自宅で不自由することのない性能の高いPCを選ぼうというマインドになっている印象があります。店頭ではニューノーマルにフィットしたPC選びを提案する必要性が増していると言えるのでしょうか。
星「そうですね。たとえば、当社が掲げている企業ミッションに、『Empower every person and every organization on the planet to achieve more.(地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする)』があります。
こういう状況下だからこそ、どういったシナリオならパソコンを通じて、お客様にエンパワー(力を与えること)ができるか、意識しながらやっていきたいと思っています。
パソコンを使って生活が豊かになるとか、楽しい時間を過ごせるとか、伝えたいことを相手の顔を見ながら伝えられるといった具体的なメリットを打ち出し、それを叶えるのがモダンPCであり、家庭学習用のPCなのだと、消費者に気が付いてもらう取り組みを進める必要があると考えます」
生活に沿ったシナリオの提案で消費者に気付いてもらう
―店頭ではどのように提案していけば良いのでしょうか。
星「難しいところですが、基本的にはお客様のニーズを聞きながらの提案だと思います。我々も意識しなくても、お客様から『こんな感じで使いたい』と言われたときの、『こんな感じ』の幅が、以前よりもずっと大きく広がっています。『ネットの動画コンテンツが見たい』『おじいちゃんとテレビ通話したい』なといったニーズがどんどん出てくると思います。
そうしたとき重要なのが、デバイス単体のスペック訴求だけではなく、お客様のニーズを顕在化するシナリオに沿った提案であり、シナリオを取り巻く環境の整備になります。n『おじいちゃんとテレビ通話したい』というニーズには、『カメラ付きのPCが良いですよ』と提案できますし、『血色を良く見せたほうが良いので卓上用のLEDリングライトも一緒にいかがですか』といった提案もできます。アクセサリーとしてそういった商材が売り場にあれば提案しやすいですよね。
アプリやサービスの知識も欲しいところです。お客様に『PCで映画やドラマを見たい』と言われた時に、動画配信サービスの知識がある程度頭に入っていれば、『それならNETFLIXがいいですよ』とか『Amazon Prime Videoが向いていますね』など、具体的にアドバイスできます」
―具体的なアドバイスがあると、顧客の「欲しい」と思う気持ちをぐっと後押しできますね。
星「一番そういうことをしなければいけないのは、実は家庭用の学習パソコンだと考えています。子どもにとっては、初めてさわるPCになるケースも多く、それが熱かったり冷たかったりすると、それだけであまりさわりたくないネガティブなものと思われてしまいます。
最初にふれるPCが快適に動き、子ども達のやってみたいことができることがとても大切なのです。たとえば外に持っていって、トンボの写真を撮りたいとか、YouTuberの物真似をしたいといった時に、カメラが付いていないとがっかりするわけです。なので、持ち歩くならカメラがあるだけではなく本体が軽いほうが良いし、Surfaceのようにキーボードが外れたほうが取り回しやすいなど、伝えられるシナリオの材料は色々あります。
15インチサイズでも、塾の授業を自宅にいてオンライン会議で受けるのであれば、『画面サイズが大きいほうが見やすくて勉強しやすいですよ』などと言えます。子ども達が、エンパワーされることは何かを基点にして、じゃあどんなデバイスが良いかと考えてシナリオにしていく必要があります。
スペックを語るにしても『その目的ならメモリは4GBじゃ足りないですね、8GBは欲しいですね』『それをやるなら、CPUはCore i5くらいじゃないと使いづらいですよ』などと説明すれば、スペックに明るくない保護者にも、子どもがPCを使っている姿を想像しながら聞いてもらえるはずです」
日本の子ども達に力を与えるPCの提案
―貴社のこの冬のラインアップは、いずれも家庭学習用PCにも対応できるスペックになっているとアナウンスされていましたが、その中でも家庭学習用PC向けに注目してほしいモデルはどれになりますか?
星「当社のデバイスでは『Surface Go 2』です。ただ、『スゴイぞ、モダンPC』キャンペーンは、当社だけで実施しているものではなく、OEMメーカー各社と一緒に実施しています。今年は『スゴイぞ、モダンPC』という傘の下、2つ訴求していきます。1つは従来と同じタイプのモダンPC訴求です。もう1つは家庭学習向けのPCをモダンPCとして訴求します。トンマナは併せて、2つの目的でリーフレットなども用意して展開しています。各社からヒーローPCと呼ぶモダンPCをエントリーしてもらい、『家庭学習だけ用』ではなく、『家庭学習にも用』というスタンスで訴求していく形です。
当社はOSのWindowsや、Officeなどのアプリケーションを展開していますが、かなり前から事業を進めるときは当社だけで考えるのではなく、パートナー企業と一緒に進めていくエコシステムの考えを強く持っています。モダンPCについても同様であり、今後も業界全体で取り組む方向性で進めていきたいと思っています」
―学習用PCもユーザーのニーズに沿ったシナリオで展開していくことになると思いますが、具体的にはどのようなシナリオが考えられるでしょうか。
星「先程もお伝えしたとおり、スペックが高いとか、画面が大きい小さいといった訴求の仕方ではなく、『仕事が捗りますよ、なぜなら処理速度に優れているからですよ』とか、『スマホと連携できるから、帰宅してもパソコンでいろいろなものができますよ』といったシナリオになると思います。
学習用に関しては、購入する保護者は自分が子どもに教える立場になるのがほとんどですから、『Windowsパソコンであればすぐ教えられますよ』とか、『多彩なラインアップから選べますよ』、あるいは『普通のパソコンとして使うだけでなく、ひっくり返してペンでいろんなものを書けますよ』といったシナリオも考えられます。
学習用と言っても、小学校から高校までひとつのモデルで提案するのは無理があります。小学校は色々なことをやるのである程度スペックがほしい。特にクラスのみんなのPCができることは、自分の子どものPCでもできないと。
高校生になると専門分野でやりたいことも出てくるし、動画編集や音楽をやりたい子ども出てきますよね。子どもによって使い方が変わってくるので、子どもに合わせたPCが求められる傾向が強くなります。子どもの使うPCだから『低スペックでいいや、安いものでいいや』ということにはならないと思います」
―いまやエントリーのPCでも、一昔前のPCと比べると性能は良いですから、ユーザーが「今までと同じ使い方で良い」と考えていると、安いので良いやになってしまいますね。やっぱり、新しい使い方をどんどん提案していかないといけませんね。
星「そうですね。それも当社だけで悩んで提案していくのではなく、OEMメーカーさんや、一番ノウハウや知識もある量販店の皆さんと一緒に、ヒアリングを重ねながら、アドバイスをいただきながら進めていきたいです。
お客様のニーズに沿った提案ができるよう、インプットしていくためにも、当社でもトレーニングなども実施しています。モダンPCについても、トレーニングを用意していて受講していただいているところも多いのですが、引き続き受講していただいて、接客のときのヒントにしていただければと思います」
―本日はありがとうございます。
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