店頭のサーモカメラは正しく運用できているか?サーモカメラの普及拡大に向けコンソーシアム設立
普及が進む非接触で体温を計測できるサーモカメラ
新型コロナウイルスのパンデミックが始まって一年以上が過ぎた。外出時のマスク着用が徹底されるようになり、手洗いやうがいの習慣も、かつてなく励行されている。
家電量販店だけでなく、百貨店やホームセンター、ドラッグストアなど、大型の商業施設では出入り口に消毒用アルコールを設置しない店舗はまず見掛けない。そして、入店者の体温を非接触で自動計測する、サーモセンサーを備えたサーモカメラ(サーモグラフィーカメラ)のある店舗も増えており、病院や保健所などの公共施設や、一般のオフィスビルでも出入り口に設置しているところを見掛けるようになった。
昨今のサーモカメラはだいたい1秒程度で皮膚の表面温度を検知し、フレーム内に複数人が入っても同時に検温できるものも増えている。AIを搭載し、顔認証機能と組み合わせることで、オフィスなどの入館証の携帯を不要にする運用も進んでいる。AIは体温測定の精度向上にも活用されており、サーモカメラの性能に大きく関わりつつある。
店員が手に持って額や手首に当ててチェックするガンタイプの赤外線放射温度計も普及してきているが、ガンタイプに対してスタンド型のモニターを備えた非接触のサーモカメラは、来店客がモニターの前に立つと自動で体温を計測するため店員の手が少なくて済むのがメリットだ。来店客にとっても店員に見張られているかのような圧迫感がなく、日頃の検温が省力化できる。
だが、サーモカメラによる検温が急速に普及する一方で、時折、正しい検温が行われているのか疑問に感じるサーモカメラも見掛ける。
たとえば店内入り口から少しでも外に設置しようとして、直射日光の当たる場所に配置されていた場合、自分の体温が表示されても「これは正しく計測できていないのではないだろうか」と感じてしまう。「流行りに乗って設置しただけ」では、誤計測の表示になり、何の問題もない来店客を萎縮させたり、入店を遠慮したい高熱の持ち主が気付かぬうちに入ってきたりする本末転倒の結果を生じかねない。
サーモカメラコンソーシアムは、こうした問題に対応するべく、サーモカメラの性能基準や使用ガイドラインを策定し、正しい導入と適切な運用を啓蒙する目的で発足した。
幹事会社はサーモカメラを開発販売する日本コンピュータビジョン(JCV)、アイリスオーヤマ、ダイワ通信の三社で、今後は国内メーカーや第三者有識者の参画を呼び掛けていくという。
運用知識の習得が普及に追いついていない
日本コンピュータビジョンの本島氏は、「一般的なカメラであれば、レンズが曇っていれば気が付いて拭く人でも、サーモカメラのレンズが曇っていても拭くべきだと気が付かない人が多い」と述べ、利用拡大に対して導入者の取り扱いに対する知識の習得が遅れていると指摘する。
「設置環境や測定方法に反した使用方法により、精度低下や誤測定が多くなると、サーモカメラ機器への信頼性が損なわれ、健全な市場の成長が促せなくなる。お客にとってもカメラに自分の顔が映り、体温が晒されることに不安を感じるケースもある。サーモカメラの業界団体を作って、サーモカメラ機器の信頼性向上のためにガイドラインを作るべきだと考えた」(本島氏)
コンソーシアムでは今後、各種ガイドラインの策定、顧客への情報発信、認定機器の信頼性や認知向上、Webサイト上での情報発信、イベントや展示会への出展、セミナーでの講演、機器評価環境の整備、第三者評価機関との連携、メーカー賛同会社の参加促進、省庁・関係業界団体と連携した啓蒙活動、ガイドラインの標準規格化、設置業者向けトレーニングの実施などを進めていく予定だ。
スマホとの連動でサーモカメラはますます進化する
サーモカメラには様々なタイプがあり、通販などを通じて海外からも製品が輸入販売されている。専門機関や工場などに導入される高精度なカメラとの線引きもしっかりできておらず、市場規模はよく分からないのが実情だと言う。
ダイワ通信の前田氏は「メーカー間の競争を今後より技術的なものにしていくためにもルール作りが必要だ」と語る。
たとえば、サーモカメラのセンサーとAIが進化していけば、スマホアプリと連動することが十分に考えられる。いつどの店舗で検温し、何度と計測されたか、個人のスマートフォンで記録されれば消費者にとっては便利だし、その場合はどのメーカーのサーモカメラで検温しても同じアプリで記録できたほうが明らかに使い勝手が良い。オフィスや学校にも導入されるようになれば尚更だ。
消費者が自分の訪れた店舗で、新型コロナの感染の症例が出たかどうか簡単にチェックできる仕組みなども、技術的には可能な段階。実現すれば海外に向けて競争力のある製品の提案も可能だろう。しかし、こうした展望を夢物語で終わらせないためには、コンソーシアムによるルール作りと取り扱いメーカー各社の賛同が重要になる。
アイリスオーヤマの本所氏は「コンソーシアム設立の話が出たのは、つい2カ月ほど前のこと。業界団体が必要だという思いが一致していたので話はすんなり進んだ。サーモカメラを取り扱うメーカーは、国内だけでも未だ何社もある。メーカーだけでなくアカデミアや有識者にも参加してほしい。早く10社、20社と参画企業が増えることを願っている」と述べた。
来店客が戸惑わない運用のために
先述の通り、家電量販店の店頭でもサーモカメラを設置する店舗が増えている。
設置に当たって直射日光や逆光を避け、適切な室内温度や照明にして事前にテストするといった指示や、高熱の来店客が来たときの対処方法などについて知らされていると思う。コンソーシアムのガイドライン策定が進み、Webサイトでの情報発信が充実していけば、運用はよりスムーズになるだろう。
店舗でサーモカメラを運用する上で、もっとも重要なことは来店客が戸惑わないようにすることだ。来店客の買い物が少しでも快適になるよう、コンソーシアムへの参画企業が増え、ガイドライン作りを始めとした活動が滞りなく進捗することを期待したい。
■関連リンク
サーモカメラコンソーシアム
アイリスオーヤマ(ニュースリリース)