家電量販店の第1四半期は前年同期の反動と新収益認識基準適用で5社中4社が減収に
家電量販企業の2022年3月期第1四半期(以下、1Q)連結決算が出揃った。昨年の1Qを振り返ると、4月に全国を対象とした初の緊急事態宣言が発出され、特別定額給付金の受付・支給も行われた。巣ごもり・テレワークの2つの需要が高まり、家電量販企業の売上は大きく伸長した。2022年3月期1Qは前年同期の好業績の反動と新たに収益認識基準が適用されたことで、3月決算の5社中4社が減収となった。
家電大型専門店の商品販売額は6月が前年同月8掛けにダウン
経済産業省の商業動態統計速報によると、家電大型専門店の2021年4~6月の商品販売額は前年同期比95.9%。4月は前年同月比114.5%、5月も同100.7%と伸長したが、6月は同80.1%と大きくダウンした。これは家電需要が減少したというよりも、前年同月の対比による反動減と捉えてもよいだろう。2022年6月は一昨年同期比で125.6%と伸長したからだ。
単純に前年同期との比較でも売上高は減少というのが全般的な傾向といえよう。さらに各企業の売上高にとってマイナスの影響が、今年度から適用された収益認識基準だ。これは商品の長期無料保証やポイント還元、携帯電話の割引を伴う料金プランなどに影響を及ぼす。会計処理によって実際の収入よりも会計上の売上高が減少してしまうという面がある。
ヤマダHDの売上総利益率は5社中最も高い30.8%
ヤマダホールディングス(以下、ヤマダHD)の1Q連結決算は以下のとおりとなった。
1Q連結での粗利益率は30.8%で、前年同期から0.1ポイントアップ。販管費も前年同期の94.4%と圧縮し、販管費比率は25.2%。前年同期から0.1ポイントのアップに抑えた。営業利益や経常利益はダウンしたが、減少幅は他社よりも小さい幅にとどめている。
ヤマダHDはホールディングス化に伴い、事業を5つのセグメントに分けている。主力のデンキ事業の売上高は、前年の需要増に対する反動減等により前年同期比85.1%だったが、住建事業は同216.2%と大幅に伸長し、金融事業は同106.5%、環境事業が同106.4%、その他事業も同124.2%とデンキ事業以外は売上増となった。
しかし、セグメント利益では環境事業が前年同期比154.9%と伸び、デンキ事業は同91.0%だったが、金融事業は広告宣伝費の先行投入により同13.9%と大きくダウン。住建事業とその他事業は赤字である。利益ベースでのセグメント間シナジーを発揮していくためには、これから先の展開が重要となりそうだ。
ケーズの営業利益率は前年同期比2.1ポイント減の6.3%
ケーズホールディングス(以下、ケーズHD)1Q連結決算は以下のとおりである。
ケーズHDの売上高は前年同期比96.1%だったが、前期も今期と同じ収益認識基準で比較すると同96.6%。大きな乖離ではなく、ポイント還元を導入せずに現金値引きを行っていることが、大きな差とはならなかったことの要因の一つと考えられる。
売上総利益は前年同期比91.1%だが、これも同じ収益認識基準で比較すると同93.9%。実質的な減少幅は決算上の数値よりも小さい。
売上総利益と逆のパターンが販管費である。決算での販管費は前年同期比98.5%で減少となっているが、新しい収益認識基準での比較では同102.7%と一転、増加。これは販管費の中に組み込んでいた商品保証引当金繰入額の計上方法が新しい基準に変わり、前期の販管費が約17億円減少したためだ。
エディオンの販管費比率は前年同期1.9ポイント増で28.9%に
エディオンは売上高が前年同期比94.2%の減収に対して、売上総利益額は同95.0%。売上総利益率は前年同期から0.3ポイントアップの30.4%となった。減収要因としては需要増の反動減と前年同期よりも店舗の休業が多かったことが挙げられる。
商品別売上高ではテレビが前年同期比91.3%、エアコンが同81.0%、冷蔵庫が同89.1%と前年を割ったものの、リフォームは同128.3%と増加した。
エディオンは従来から販管費比率が高く、1QではヤマダHDやケーズHD、上新電機が販管費を圧縮したが、エディオンは逆に前年同期比100.9%と増加。販管費比率は同1.9ポイント増の28.9%となっており、ヤマダHDよりも3.7ポイント、ケーズHDとは6.3ポイントもの差が生じている。ただし、1Q期間内に7店の出店と1店の移転があり、この影響で一時的に販管費が増加したと考えられる。
営業利益、経常利益とも前年同期比50%台と大きくダウンし、売上高がエディオンの約6割である上新電機よりも低い利益額となっている。販管費をいかにコントロールするかというエディオンにとっての課題は、この先も続きそうだ。
売上高が前年同期比130.2%と大きく伸長したノジマ
他社が減収となった中で唯一の増収がノジマ。同社は関東1都3県での店舗展開をメインとしており、昨年の1Qは緊急事態宣言の発出により、4月は全体の1/3に当たる店舗の閉鎖を余儀なくされたという。先述のとおり、各社とも前年の1Qは売上高が伸長したが、ノジマの前年1Qは一昨年同期比で82.0%と減収。つまり、ノジマにとっては前年同期のハードルが他社よりも低かったことが増収要因の一つといえよう。
ノジマもヤマダHDと同様に複数の異なる事業を展開している。デジタル家電専門店運営事業の売上高は前年同期比118.1%となり、キャリアショップ運営事業は同129.2%、インターネット事業は同173.6%、海外事業も同156.8%といずれの事業も売上高は前年プラスで推移した。
売上総利益は前年同期比127.2%と伸長したが、売上高の伸長率よりも小さく、その結果、売上総利益率は30.2%で同0.7ポイントのダウン。営業利益は同129.0%だったが、営業利益率は5.6%で前年同期から0.1ポイント下がっている。
経常利益および経常利益率の大きなダウンは、前年の1Qにスルガ銀行の投資利益を営業外収益に組み込んでいたことによるものだ。現在、スルガ銀行は持分法適用関連会社から外れており、この営業外収益を除いた前年同期の経常利益は66億6,700万円となる。すると今1Qの経常利益は前年同期比132.0%と一転、増益に転じる。
実質的な業績としては増収増益だったといえるだろう。
上新電機は前年同期比90.9%の減収ながら利益面は増益に
上新電機は売上高こそ前年同期を下回ったが、利益ベースでは前年を上回り、減収増益となった。
同社は売上原価を、売上高の前年同期比90.9%を下回る89.1%に抑え、売上総利益は同97.0%にとどめた。販管費は同96.5%と圧縮したため、営業利益は前年同期と同レベルを維持。営業外収益は前年同期比で1億4,000万円のプラスとなり、経常利益は同100.5%と伸長した。
商品別ではテレビやパソコン、生活家電などが軒並み減収となったが、携帯電話は前年同期比117.6%と伸長。音楽・映像ソフトも同113.3%となった。
店頭販売は前年同期比89.1%とダウンしたが、ECは同109.5%と伸長。1Qの売上高におけるEC比率は前年の15.8%から19.1%に拡大した。
同社ではインフラの整ったエリアでの店舗展開によるドミナント化を指向しており、出店していないエリアはECでカバーするという戦略で収益の拡大を図っている。その中でリアル店舗においてもデジタル販促を推進して経費の削減とともに販促の効率化を目指す考えである。
この1Qで各社に共通しているのが商品在庫の確保だ。世界的な半導体不足やトラブルによる商品供給の遅延、予想されていた猛暑など、在庫確保に注力する理由はさまざまだが、最終的な狙いは顧客の流出を防ぐこと。ECは重要な販売チャネルだが、お客それぞれのニーズに対応することは不可能だ。しかし、リアル店舗ならば接客を通してニーズの対応やソリューション提案ができる。
ただし、長時間接客をしていればよいというものではない。販売効率も念頭に置きながら、個々のお客のニーズをすくい上げていく必要がある。ECの需要が増加している今だからこそ、接客や展示、サービスなど、店舗に来店するメリットをお客に伝えていきたいところだ。