業態としての成熟性が増したヤマダTecc LIFE SELECT


家電量販店では、自社店舗をいくつかのスタイルに分けて運営している企業がある。その店舗スタイルが最も多いのがヤマダデンキだ。そのヤマダデンキでは2021年6月以降、新しいコンセプト店である「Tecc LIFE SELECT」を全国で展開している。既存店と何が違うのか、新コンセプト店5号店のTecc LIFE SELECT木更津請西本店から同社の取り組みを見てみよう。

ヤマダホールディングスは、これまでの「暮らしまるごと」戦略を一層強化するために基本コンセプトとして「たのしい。くらしをシアワセにする、ぜんぶ。」を掲げている。しかし、その具体的な姿は、なかなか顧客に示すことが難しかった。
ヤマダホールディングスの子会社であるヤマダデンキは、全国に約1,000店舗の直営店を持っているものの、すべての店舗をコンセプトに近い店にしていくには相当なコストがかかる。

経営戦略としては、売上実績のある店舗から改装を行い、よりコンセプトを明確に打ち出していくのが定石である。そこで、ヤマダホールディングスが取り組んでいるのがヤマダデンキの新コンセプト店であるTecc LIFE SELECTである。7月22日、千葉県木更津市に全国で5店舗目となるヤマダデンキTecc LIFE SELECTがオープンしたので視察してきた。ヤマダデンキは都市型店舗である自由が丘、高崎、千里中央といった店舗に、「暮らしまるごと」が提案できるLIFE SELECTの業態を導入してきた。しかし、2021年に入り、郊外の熊本、姫路、神戸、札幌、千葉木更津などの店舗にもTecc LIFE SELECTを展開してきている。

Tecc LIFE SELECTの特徴として主に以下の4点が挙げられる。
1.家電と家具、生活雑貨、玩具、リフォームが一緒に体感して楽しめる暮らしのワンストップショップ店舗
2.3,000坪以上の大きな売り場にさまざまな生活提案があり、商品体感もできる
3.通路を広く取り、顧客視点で見やすく買いやすい売り場の提供
4.家電専門店としての品そろえや顧客の高い要求に対応した接客、さらには高いレベルの配送設置等のサービスを提供している

千葉県木更津市は、人口約13万6千人(2021年7月現在)で、海側には日本最大規模のプレミアムアウトレットがあり、東京からも顧客を集めているエリアである。Tecc LIFE SELECT木更津請西本店は、木更津駅から車で20分ほどの山側の郊外にあり、周辺は戸建て住宅が多い地域だ。近隣型ショッピングセンターに立地しており、イオンのマックスバリューとともに核店舗の1つとなっている。同店は2フロア構成で売り場面積は約3,000坪。店舗自体は2009年のオープンで、今回は増床してのリニューアルオープンとなった。

フロア構成は、1階がベッド、ソファ、ダイニングテーブル、インテリア、キッチン用品、バス用品、照明機器、日用雑貨、リフォームなど。家電製品は照明機器くらいしかなく、1,000坪程度を占める家具やリビング商品をはじめ、雑貨関連商品を品揃えにしている。家電量販企業が家電以外の商品で1,000坪以上を展開するのは珍しいといえるだろう。

もちろん、ヨドバシカメラやビックカメラのような都市型店舗の場合、家電以外の商品で1,000坪以上展開しているが、郊外型店舗でこれだけ幅広い品揃えをしているのを見たのは、筆者は初めてである。
家電量販企業の郊外型店舗で家電以外の商品で1,000坪もの売り場を作るノウハウが出来てきたというのは、驚きである。

下層階が家具やインテリア、キッチン用品で、上層階が家電と玩具はTecc LIFE SELECT共通だが、ゾーニングは個々の店に合わせて異なっている

家具の中で特に力を入れているのは、電動家具である。ベッドの中でも特に電動ベッドは20台以上あり、力を入れているのを感じる。

電動ベッドはもちろん体験が可能。広い売り場スペースだからこそできる体感展示だ

高齢化により、電動ベッドは需要が期待されており、それに対応した形である。また、ヤマダデンキが従来から力を入れているソファの品揃えが充実しており、通路脇では、テレビや家具と合わせて生活シーン提案されている。

電動ソファに座ってリラックスしながら大画面テレビを視聴する体感コーナーはテレビではなく、しっかりとソファが主役になっている

ベッドやソファ、ダイニング家具は、大塚家具の商品とヤマダデンキのオリジナル家具を組み合わせており、価格帯は比較的値ごろな価格帯から、高級ゾーンまで幅広く品揃えされている。

一般的に家具や生活雑貨は、ニトリが強いが、ニトリは低価格からボリュームゾーンに強く、ベターゾーンやプレステージゾーンには対応していない。ヤマダデンキはTecc LIFE SELECTに、大塚家具を入れ込んだことによって高級ゾーンの家具の販売が可能になった。特に、テレビで65インチ以上の有機ELテレビを見る客層や、エアコンで6.0kW以上のリビング用エアコンを購入する上得意客に対し家具の提案という新しい武器を持ったことになる。

1階の売り場の3分の1を占めているのが生活雑貨である。生活雑貨については、食器類、調理機器、バス用品、トイレ用品、寝具、季節商品と充実している。
メイン通路沿いは徹底して生活提案を行っており、価格中心のスーパーと比べても明らかに一線を画している。
什器は比較的高さを低めにし、見通しを良くして商品を選びやすくしている。

売り場は視認性がよく、通路もかなり広めにとっている。天井のLEDが店内を明るく照らし、清潔感のある売り場という印象を与える

インテリア生活雑貨の品揃えはメーカー商品や自社開発商品があるためにニトリ以上に品そろえがあり、価格帯は家具専門店と同様に巾広くなっている。新型コロナウイルス禍では商品の買い回りに慎重になっている顧客が増えており、一か所で家電から雑貨まで購入できるのであれば、とても便利である。全体的には、家電量販企業が弱かった30歳代、40歳代の主婦にとって魅力的な売り場ができている。

雑貨等の商品数が多くなると単価が低いので売上金額はなかなか上がらないことが多いと考えられるが、売り場にベッドや家具、リフォームといった商品を入れたことでフロア全体の販売効率をうまく上げるように考えられている。

専門知識や顧客ニーズの把握が必要な家具やリフォームコーナーには、専門の販売員が配置されており、接客が行なわれていた。また、このフロアはセルフサービスの売り場と接客の売り場が混在しているが、販売員の不在の時には、販売を呼ぶブザーをつけて対応するといった工夫もされていた。

電子棚札を活用したDXを採り入れながらも従来の販売員による商品説明というアナログ的手法にも対応

家電専門店としての品揃えの深さを実現した家電フロア

2階は家電製品と玩具のフロアとなっている。
家電製品売場の特徴としては、まず家電量販店として主力であるテレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、パソコンの売り場面積を十分に確保しているのが特徴的だ。最近、ショッピングモールに出店する600~800坪の家電量販店が増えているが、どうしても売り場や品揃えが窮屈になる。Tecc LIFE SLECTでは、既存のショッピングモール店舗に比べて品揃えを1.5倍から2倍に増やしている。さらに主力商品の売り場では、十分な接客スペースを用意して新型コロナウイルス対応で密にならない接客体制に努めていた。

品揃えの充実と体感に注力した売り場をつくり、購入機種を選ぶ楽しさというものを実現している

顧客はまず、商品を購入する場合、一番品揃えの良い店から訪問することが多く、品揃えの充実は業態としての魅力を感じさせた。
また、Tecc LIFE SELECTは、商品の体感に力を入れている。成長が続くインターネット販売への対応策として、家電量販企業が力を入れているのが商品の体感や素早い買い物に対応した在庫の充実である。Tecc LIFE SELECTでは、クリーナー、オーディオ、パソコン、テレビ、冷蔵庫、理美容機器といった売り場でも、それぞれの主力商品はほとんどが体感できるようになっていた。特に、クリーナーは比較体感に力を入れており、人気機種を比較しながら顧客の好みに合った商品を選べる展示になっている。

ヤマダデンキ独占販売モデルも含むロボット掃除機の体感コーナー。広いスペースのため、動くスピードなども実使用時に近い

体感と併せて強化しているのが、提案である。新型コロナウイルスの蔓延で、人々の生活が大きく変化している。家にいる時間が増えたことで、いわゆる「おうち時間」を楽しみたいと考えている人が多い。そのような顧客の変化を読み、Tecc LIFE SELECTでは、いろいろな提案を行っている。例えば、調理家電製品では、人気の電気圧力なべを使っての簡単調理を紹介している。

ヘルシオホットクックのラインアップを並べ、調理の手間を軽減する“ほったらかし家電”として提案

また、冷蔵庫売り場では、実際に電源を入れて省エネや便利機能を提案している。

解凍の手間を省く“切れちゃう瞬冷凍”と、レンジとグリルを同時に加熱できるIHクッキングヒーターを並べ、“時短”を切り口として提案

このような提案は、家電売り場だけでなく、1階の雑貨売り場でも多く行われており、顧客は、さまざまな生活のアイデアに気づき、楽しめる店になっている。

ヤマダデンキの新しい成長分野への挑戦

最後にTecc LIFESELECTを取材した感じたことを3つ挙げてみよう。
一つは、郊外型家電量販企業としての業態の成熟化だ。ヤマダデンキの郊外型店舗はTecc LAND、ヤマダデンキ家電住まいる館(生活丸ごと提案ができる大型店)、ヤマダデンキTecc LIFE SELECTと業態を進化させてきた。家電住まいる館とTecc LIFE SELECTの違いは、家電住まいる館が1,000~2,000坪の既存店舗の業態開発であったのに対して、Tecc LIFE SELECTは、3,000坪の生活丸ごと提案店舗であり、家電の強さが発揮できる1,200坪以上の家電売り場を持ちながら、さらに1,000坪以上の生活雑貨や家具の売り場を持っていることである。しかも売り場はある程度標準化されている。

標準化できるようになった背景としては、大塚家具の子会社化で家具売り場が作りやすくなったことや、家電住まいる館を通して雑貨等の商品の品揃え力が向上したことにあると考えられる。一般的に郊外型家電量販店の適正売り場は800~1,200坪と言われているが、ヤマダデンキはTecc LIFE SELECT という3,000坪以上の業態を手に入れたことになる。

二つ目は、ヤマダデンキが新しい成長分野に挑戦していることを感じさせることである。顧客は家の中にいる時間が増え、生活雑貨等の需要が高まっている。2030年まで、住宅関連需要は増加すると予想されているが、ヤマダデンキは生活雑貨商品やリフォーム、家具といった分野での売上拡大の可能性がある。もちろんこの分野においては、ニトリやホームセンター、生活雑貨店もあり、競争は厳しい。だが、Tecc LIFE SELECTの売り場を見ていると、電動チェアや電動ベッド、テレビ台、テレビ周りの家具など家電量販企業として力が発揮できる商品分野が多い。また、もともと扇風機、除湿機、エアコン、暖房機器と季節商品の強い業態であるので、季節の雑貨やカーテン等の需要も取り込みやすい。

今後、家電製品を購入に来られた顧客に対して、雑貨も併せて購入するという習慣をつけていけるかが、業態成功のポイントになるであろう。

三つめに家電量販企業が抱える悩みである「顧客の高齢化」への対策がみられることである。家電量販企業を支えているのは40歳以上のファミリー層で、特に60歳以上の顧客が多い。一方で20〜30歳代の顧客の取り込みには苦戦している。しかし、今後は高齢化社会が進み、家電量販企業を支えている60歳上の顧客は減少が予測される。

Tecc LIFE SELECTを取材していると、全体的に通常の家電量販企業と比べて1組当たりの来店人数が多く、年代層も若くなっていた。特に子供連れの客層や女性の客層が多いと感じた。

30代のファミリー層は、ECで購入する割合が多く、店舗への来店は年々減少すると言われている。この層は子育て世代でもあり、室内の生活環境を良くすることにはお金をかける。Tecc LIFE SELECTは、生活環境を良くする生活雑貨等や家具の品揃えを増やすことで、若い年代層の取り組みも行っていると感じた。

家電量販店はこれまで郊外型の800~1,200坪スタイルの業態を展開してきたが、1店当たりの売り上げは過去10年間で大きく低下し、次の世代に向けての新しい業態開発の必要性が叫ばれていた。その点、Tecc LIFE SELECTは3,000坪以上の新しい業態の可能性を強く感じさせてくれる店舗である。