消費者の不満点を解決した日立アプライアンスのオーブンレンジVW1 温度と重量の2つのセンサーが食材を測定して最適な火加減・温度を実現


日立アプライアンスは、過熱水蒸気タイプのオーブンレンジをヘルシーシェフの名称で展開している。他社にはないWスキャン機能を搭載し、簡単で、しかも美味しい調理を訴求。7月7日から発売を開始した新製品のMRO-VW1は2017年のTW1からの継続機種だが、前機種の購入者の不満点や要望を反映した商品となっている。

オーブンレンジの全体需要はマイナスだが、高級クラスは伸長予測

日立アプライアンスはこのほど、メディアの記者やライターを対象としたメディアセミナーを開催した。冒頭、オーブンレンジの需要に関する説明があり、同社では2018年度の台数需要を2017年度比98%と予測。オーブンレンジ全体を税別売価約7万円以下の準高級以下と同7~10万円未満の高級、同10万円以上のプレミアムという3つのクラスに分けると、準高級以下とプレミアムクラスは減少するが、高級クラスは前年度プラスで推移すると見ている。

3つのクラスの台数構成比は2017年度とほぼ変わらないが、高級クラスは10%くらいに伸長すると日立アプライアンスでは予測する

では、高級クラスのオーブンレンジを購入したお客は、どのような観点でこのクラスのモデルを購入したのだろうか。2017年度に他社も含めた高級クラスのモデルを購入した800名超にアンケートを行ったところ、購入時に期待した効果として上位に挙げられたのが、「調理の時間短縮」「レパートリーの幅が広がる」「調理の手間が省ける」という3つ。いずれも回答者の4割以上が挙げたものだ。

高級クラスのニーズは“調理時間は短く、でも美味しい料理が食べたい”

同社では、このアンケートの結果から、「調理にできるだけ時間はかけたくないが、作るのであれば美味しい料理を食べたいという意識の方が、高級クラスのオーブンレンジを購入していると思われます」と説明。実際に同アンケートでの上位4位は「より美味しい料理ができる」であり、5位は「「ヘルシーな料理ができる」というもの。時短や省力化と同時に、美味しさにもこだわる層が高級クラスの購入者というわけである。

高級クラスのオーブンレンジ購入者は、時短や手間の軽減とともに、料理の質にもこだわる傾向が見られる

これらは、レンジ売り場で高級クラスのモデルを見ているお客へのアプローチや商品説明の際にも活用できるポイントだ。単価アップやランクアップを図る際にも、この時短、省手間、調理メニュー数というポイントで提案をしていきたい。

また、同社が2017年モデルのMRO-TW1の購入者にアンケートをしたところ、購入後の不満・改良要望点として挙げられたのは、「取扱説明書を分かりやすく」「メニューの数を多く」「料理集を見て作るのが面倒」「解凍をもっと速く」などであった。

MRO-TW1のユーザーアンケートでは、取説の分かりやすさやメニュー数の追加などの要望が挙げられた

全回答者に占める割合では、最も多く挙げられた「取扱説明書を分かりやすく」でも15%なので、購入者の多くは特に不満を感じていないともいえる結果だが、それでも1割以上からの指摘を受けて、より購入後のユーザーが満足してもらえるような商品づくりに取り組んだという。

その結果、新商品であるMRO-VW1のコンセプトについては「時間や手間をかけずに美味しい料理が作れると同時に、いつも使う機器なのでお手入れも簡単という点も抑えた商品」。キャッチコピーは「がんばらなくても おいしい料理が作れる。」とした。

社会の変化から、オーブンレンジに対するニーズも変わってきた

独自技術のWスキャン調理でユーザーのニーズに対応

“時短、省手間、しかも美味しい”というテーマを解決する方法として同社では、「従来からWスキャンという独自の技術を持っているので、この技術を活用すれば、1人分でも4人分でも設定のし直しを必要とせずに調理が可能」と考えたという。さらに、スピードメニューの追加と解凍時間のスピードアップにも取り組んだ。

美味しさについては、プロの料理人が調理をする際の食品の温度変化をデータとして取り、それを加熱時のプログラムに応用することで対応。使いやすさについても、改良を加えたと同社では話す。

鶏の照り焼きやローストビーフなど、プロの料理人の火加減を応用したオートメニューを多数追加した

日立アプライアンスの独自技術であるWスキャンとは、2種類のセンサーを活用して測定したデータから加熱のパワーや時間をコントロールする技術。天面の中央部奥に配置されたセンター赤外線センサーで食品の表面温度を測定し、庫内底面の3箇所に付けられている重量センサー(トリプル重量センサー)が食品の重さを測るというものである。

庫内全面の左右2箇所と中央奥に重量センサーを配置。角度的に見えないが、天面には赤外線センサーが内蔵されている

赤外線センサーは天面の中央部奥から、底面を120のエリアに分割してセンシングをする。食品を上からセンシングすることにより、マグカップに少量しか入っていない飲み物やとっくりなど、容器の縁が高かったり、容器が特殊な形状でも飲み物の表面温度を確実に測定できる。

しかし、表面温度だけ測定しても、実際に入れている食品の量が多いのか少ないのかまでは分からない。例えば、茶碗に盛られたご飯が大盛りなのか、少なめなのかは赤外線センサーでは測定できない。そこで、重量センサーの出番というわけである。

食品の容器の重さも含んではいるが、3箇所に配置した重量センサーによるセンシングでは、食品の大小や重いか軽いかを判断。センサーが底面の3箇所にあることで、どこに食品が置かれているかもある程度、検知できるという。

センター赤外線センサーは8眼センサーが15段階にスイングし、底面を120エリアに分割してセンシングをする

温度と重量センサーの組み合わせで加熱時間を決定

セミナー当日は、ラップをして冷凍したご飯と茶碗に盛られた常温のご飯を使っての実演が行われた。

Wスキャンによる冷凍ご飯の測定前と測定後の変化。実演では、ほんの数秒でセンシングをした

上は冷凍ご飯の測定前。重さ、温度、加熱時間は当然のことながら、何も表示されていない。冷凍ご飯を庫内に置いたところ、すぐに表面温度は-9℃、重さは108gと測定し、加熱時間は1分25秒と算出された。底面の青い部分は、冷凍ご飯が置かれている位置を表している。

茶碗に入れたご飯をWスキャンで測定。やはりすぐに測定結果が表示された

続いて、茶碗に盛られた常温のご飯を庫内に入れた。すると、表面温度は24℃、重さは茶碗を含めて258g、加熱時間は54秒と算出。冷凍ご飯は底面の温度よりも低かったため、青色の部分が表示されたが、常温のご飯は底面の温度とほぼ同じため、底面と同じ緑色で表示されている。

Wスキャンが測定するのは、庫内に食品を入れた時だけではない。加熱をしていると、食品表面の温度は上昇する。この温度変化もセンター赤外線センサーが測定しており、当初算出された加熱時間を補正するのだ。つまり、Wスキャンのセンター赤外線センサーは加熱前の測定だけでなく、加熱後の温度変化も見張っているのだ。接客時の説明では、このポイントもしっかりと伝えよう。

Wスキャン調理で3つの課題を解決

日立アプライアンスでは、このWスキャンの技術を活かした「Wスキャン調理」で次の3つの調理における課題を解決する。

「Wスキャン調理」によって、省手間と美味しさという、ともすれば二律背反になる両者を実現した

“時間や手間をかけない”という点でのポイントはオートメニュー。前機種の93から125にメニューを増やした。この中には、香川調理製菓専門学校の講師陣の火加減を加熱プログラムに組み込んだ「プロの火加減応用メニュー」が32、10分以内で仕上げる「スピードメニュー」が50、含まれている。この125メニュー以外のオートメニューとしては、あたためが9、解凍が7、下茹でが2。合計で143もの豊富なオートメニューが用意されている。

プロの火加減応用メニューで調理した料理。ボタン一つで調理したとは思えない絶妙な味と食感が感じられた

また、省手間という部分では、日によって調理する分量が異なっても、同じ手順で調理が可能。前述のとおり、Wスキャン温度と重量を測るので、その分量に合わせて火加減はお任せ。1~4人分であれば、人数設定が不要なのだ。他社商品は人数設定が必要だったり、基本レシピの分量以外は手動での設定が必要だったりするが、「Wスキャン調理は、使用する人の状況に合わせて調理ができます」と同社では胸を張る。

1~4人分であれば、人数や分量の設定をすることなく、おまかせ調理が可能

アンテナ制御と出力アップで解凍スピードが向上

スピードアップと食品・食材全体のムラのない解凍を両立させるのは容易ではない。解凍スピードをアップしようとすれば、温度ムラが生じやすく、温度ムラを抑えようとすればスピードアップが難しい。この課題に対して、同社のWスキャンは分量に合わせて加熱をするため、もともとムラが出にくいという特長がある。Wスキャン自体は2017年モデルのTW1も搭載していたが、VW1では回転アンテナによるマイクロ波の制御で、さらなる解凍スピードのアップが可能になったと同社ではいう。

冷凍ものの解凍では主にレンジ機能が用いられる。食材にマイクロ波を照射することで、食材の水分子を振動させて加熱し、解凍する。構造的には回転アンテナが回転することで、マイクロ波を庫内全体に分散させる。「TW1は回転が一定速で、これだとマイクロ波が本体のドア部に集中しがちになることが分かりました。そこで、回転アンテナのスピードを2段階に変えることで、マイクロ波が庫内全体にムラなく分散するようになりました」と同社では説明をする。さらに、レンジの出力を10Wアップしたことで、解凍スピードがアップした。

底面中央の回転アンテナの回転速度を調整することで、マイクロ波が庫内にまんべんなく分散される

レンジ機能で最もよく使うのが、食品のあたため。前述のとおり、VW1はWスキャン方式で温度と重量を計測する。例えば惣菜やおかずなどをラップしてあたためようとした場合、温度センサーのみだとラップの表面温度を計測してしまい、ラップの下の食品の温度がうまく測れないということがある。「赤外線センサーで表面温度がうまく計測できなかった場合でも、重量センサーで補正できます」と同社では、あたためにおけるWスキャン方式のメリットを説明する。

吸気口の変更によりVW1は本体左右の空きスペースが不要

ある程度の容量になると、どうしても設置スペースの確保が必要となる。TW1購入者のアンケートでも回答者の約11%が、「壁にもっとピッタリ置きたい」と要望している。前機種のTW1は設置の際、本体に左右4.5cmずつのスペースが必要で、48.7cmの本体と合わせて57.7cmのスペースが必要だった。幅60cmの食器棚はあくまで外寸が60cm。つまり、TW1は幅60cmの食器棚に収納できなかった。

これは、TW1がセンサーを冷却するために本体左右から吸気をするという構造になっていたからである。そこで、VW1では吸気を底面から行う構造に変更。本体前方の底面から空気を取り入れて、本体の中に引き込むという経路変更を行った。この吸気構造の変更によって本体の高さはTW1よりも1cm高くなったが、左右のスペースは不要となり、60cm幅の食器棚にもピッタリと収納することができるという。

前面の給水タンク下部の底面に設置されたスカート部から空気を取り込んで本体を冷却する
吸気経路の仕様変更により、60cm幅の食器棚でも収納が可能となった

高級クラスだからこそ商品説明には注力を

冒頭のグラフで分かるように、オーブンレンジの需要では約83%が準高級以下のクラスである。社会や消費者の指向性の変化から、オーブンレンジに求められる機能は、対応メニューの幅や美味しさとともに、時短や省手間、使い勝手というユーザーサポートの部分まで広がっている。

VW1は高級クラスに該当する商品なので、お客にしっかりとメリットを理解してもらうことが購入につながる。高級クラスだからこそ調理の手間がいらず、火加減はお任せというポイントを接客の際にはアピールしたい。なぜ、お任せが可能なのか、なぜ美味しく調理ができるのかという点については、Wスキャン調理の仕組みを説明しよう。

VW1のTW1からの改良点は理にかなった変更が多く、お客に説明しやすいポイントが多数ある。新商品の特徴を説明するのは当然だが、前機種から改良された点は、どのような理由での改良なのか、どのような変更を加えたことでどうなったのか、という点も忘れずに説明しよう。