プロジェクター市場に旋風を巻き起こすpopIn Aladdin
popIn 程 涛(テイ・トウ) 社長 独占インタビュー


世界初となるプロジェクター搭載LEDシーリングライト「popIn Aladdin (ポップインアラジン)」の売れ行きが好調だ。注目したいのは、ホームプロジェクター市場でシェアを伸ばしているだけでなく、同製品が市場規模そのものを拡大していること。快進撃の背景と今後の販促施策について代表取締役社長の程 涛(テイ・トウ) 氏に話を聞いた。

楽天市場の人気商品ランキングで1位に

2019年3月21日に放映された人気のトークバラエティ番組「アメトーーク!」の家電芸人コーナーで、天井に取り付けて使うLEDシーリングライト、プロジェクター、Bluetoothスピーカーの3in1製品「popIn Aladdin」がトリに選ばれた。

「アメトーーク!で一番うれしかったのは、他のテレビ番組ではなかなか触れられない、Wi-Fi経由でYouTubeやNETFLIXが観られる点にきちんと触れてくれたことでした」そう語るのは、popInの程 涛代表取締役だ。popIn Aladdinは、2月には楽天市場のお買い物マラソンの目玉商品にも取り上げられ、2時間限定の販売ながら楽天市場全体の人気商品ランキングで1位を獲得するなど、いまEC上で最も勢いのある家電製品の1つとなっている。

驚いたのは、この楽天の目玉商品での販売は話が急に決まったため、広告や宣伝がほとんどできず、過去に興味を持ってメーリングリストに登録してくれたユーザーにリマインドしただけだったということ。興味を持っていた人の背中をちょっと押しただけで、予想の3倍もの結果が出せたと言う。

popIn Aladdinのウェブサイト(https://aladdin.popin.cc/)。popIn AladdinはYouTubeやNETFLIXなどが見られるほか、独自のコンテンツも豊富に備える
popIn Aladdinのウェブサイト(https://aladdin.popin.cc/)。popIn AladdinはYouTubeやNETFLIXなどが見られるほか、独自のコンテンツも豊富に備える
楽天で2時間限定で最安値の販売をした時に、人気商品ランキングのリアルタイムランキングで1位を獲得した。その日はデイリーのランキングでも総合6位を獲得している
楽天で2時間限定で最安値の販売をした時に、人気商品ランキングのリアルタイムランキングで1位を獲得した。その日はデイリーのランキングでも総合6位を獲得している

ホームプロジェクター市場で成功している2つの理由

popIn Aladdinは、2017年にクラウドファンディングのプロジェクトとして登場し、2018年3月に7,436万円という、Makuake史上で当時歴代4位にあたる多額の支援金を集めた。その後、7月に予定していた出荷を9月末に延期するトラブルもあったが、11月からは家電量販店の店頭やECサイトでの販売も開始し、年末商戦以降急速に販売数を伸ばすようになった。2018年内でクラウドファンディングと合わせて約1万台を販売したという。

popIn Aladdinのプロジェクトはクラウドファンディングで、1,676人の支援者から、目標金額の7.5倍に当たる74,882,200円もの支援を集めた。
popIn Aladdinのプロジェクトはクラウドファンディングで、1,676人の支援者から、目標金額の7.5倍に当たる74,882,200円もの支援を集めた。

popIn Aladdinがホームプロジェクター市場で躍進している理由はどこにあるのだろうか。程社長は大きく2つあると言い、以下のように述べる。

「まず1つは、正しい製品を作れば市場はあるということです。正しい製品とは、3in1の利便性をユーザーに欲しいと思わせる形にして提案することであり、手に入れたときに高い満足感が得られる製品に仕上げることです。
2つめの理由は、市場で大画面のニーズが高まっていることです。テレビの大画面化は全世界的な流れですが、国内では地デジ化以降特に顕著になっています。しかし、80インチや100インチのテレビが欲しくても、まだまだ高価で、設置や搬入のスペースが取れない世帯も少なくありません」

天井設置で場所を取らないpopIn Aladdinは、市場のニーズに応えられる、現代人にマッチした仕様になっている。この分析から、程社長は「正しい製品にできれば、必ず売れる」と判断した。

「ホームプロジェクター市場は、国内では3万台と言われています。その中で、popIn Aladdinはこの一年間だけで1万台を販売しました。私はこの市場は現在の倍の6万台まで広げられると考えています。その中で、当社は3.5万台のシェアを目指したい」(程社長)

トラブルを乗り越えたのは良いパートナーに恵まれたから

決して順風満帆にきた訳ではない。むしろ、popInは元々ハードウェアメーカーではなかったため、あらゆる場面で試行錯誤があったという。何もかもが初めての取り組みとなる中、程社長が心掛けたのは、「良いパートナーを選ぶこと」だった。

国内では安曇野に工場を持つVAIOと、最終組立工程と出荷前検査のパートナーシップを締結。海外生産に不安のある日本のユーザーに安心感を与えた。

中国ではホームプロジェクターの大手メーカー、XGIMIの高性能プロジェクターを採用した。XGIMIのプロジェクター技術は専用のスクリーンが不要で、真正面への投影が難しい壁面でも台形補正で正面から映し出しているかのように表示できる。

popIn Aladdinのプロジェクターのパーツは、中国の大手プロジェクターメーカーXGIMIから供給されている。
popIn Aladdinのプロジェクターのパーツは、中国の大手プロジェクターメーカーXGIMIから供給されている。

また、先述した出荷延期のトラブルは、中国の工場に最終出荷品の実物を確認に行き、3D画像などで見ていた印象とまるで違うものになっていたからだった。プロジェクターとシーリングを別々に取り付ける機構になっており、取り付けの際にはネジも必要で、とても寝室への設置を提案できる製品ではなかったという。

「見た瞬間は頭が真っ白になりました。これじゃ無理です。売れません。改良してくださいと言って、その場で交渉しました」と程社長は回想する。苦渋の決断ではあったが、出荷を延期して作り直すことで、本体の高さは25cmから16.9cmに抑え、取り付けはネジ止め不要とする現在の形をどうにか実現できた。このトラブルで当初予定しなかった2,000万円を超える出費が発生したものの、「もし、ここで改良していなかったら、アメトーーク!にはとても取り上げてもらえなかったと思います」と苦笑する。

最終完成品(左)と再調整を決断したときの完成品(右)
最終完成品(左)と再調整を決断したときの完成品(右)

接客による成約率が高い半面、接客の必要性の高さが課題

開発については、次期バージョンの研究も進めている。投入時期は未定だが、本体をより薄くして全体的にスペックアップしていく方向で検討しているという。

BtoBや海外展開も視野に入れており、BtoBでは都内ホテルに導入実績が作れたほか、今後は民泊や賃貸、学校などにも広げていきたい考えだ。海外に関しては、今年5月から台湾で販売を開始する予定となっている。
BtoCの購入層の中心は、イノベーダーやアーリーアダプターであり、彼らは自分で情報を探してくれるのでECでの購入が多い。だが、今後は情報に受け身な人たちや、自分の目で見て確かめてからでなければ手を出さない層にも訴求していかなければならない。

「popIn Aladdinは、類似品がない説明型商品なので店頭では接客が大変重要になります。興味は引く製品なので、店頭で10分ほど観察していると誰かしらが足を止めています。販売員がいないとなかなか売れない半面、説明できる販売員さえいれば、成約率はとても高いのです。販売員が説明しやすくなるツールや、販売員がいなくてもある程度情報が提供できる仕組みが必要と考えています」と程社長。

例えば、製品紹介の動画を流したり、スマホでQRコードを読み込むことで詳しい情報を提供したりといった仕掛けが考えられるが、QRコードを大きく掲示するだけでもユーザーは足を止めるようになる。紹介したい機能ごとにQRコードも分けて掲示する、ARのアプリを使って疑似体験できるようにするなど、できる工夫は少なくないはずだ。

取扱店舗は3月末時点で53店舗。今後も増えていく見込みで、同社では販促のための準備も早急に進めていく考えだ。なお、店舗によっては、同社の什器だけでなく独自のものを準備して展示している例もある。こうした見せ方は1つひとつが同社にとっても大いに参考になると述べる。

ビックカメラ有楽町店の展示の様子
ビックカメラ有楽町店の展示の様子。物珍しさから顧客も多く立ち止まっている。
パートナー企業の提案でコストが抑えられる紙製の什器を準備できた。順次展開中だ
パートナー企業の提案でコストが抑えられる紙製の什器を準備できた。順次展開中だ

popIn Aladdinはテレビ売り場の変化の切っ掛けになるか

現在、popIn Aladdinの取扱店舗を見に行くと、店舗によってテレビ売り場に置かれていたり、照明売り場に置かれていたりする。

程社長は「どこがベストなロケーションかは、店舗のほうがよく理解しているはずなので、そこに口を挟むつもりはありません。ただ、一般の消費者にとっては未だ物珍しいアイテムなはずなので、できればテレビ売り場に展示して店頭の賑やかしに活用してほしいです」と言う。

4Kや8Kのテレビと並ぶと不利に見えるが、元々画質でテレビと勝負する商品ではなく、テレビと競合はしないとの考えだ。むしろ、popIn Aladdinではレコーダー経由で、録画したテレビ番組を映し出せるため、popIn Aladdinの購入層にレコーダーの提案ができる。

「長い目で見れば、テレビはこれからどんどん姿を変えていき、popIn Aladdinのような商品も増えてくると予想しています。テレビ売り場もそれに対応して変化していくことでしょう。そうした時代を見据えて、お手伝いできることがあればと考えています」と程社長。

popIn Aladdinのような今までになかった新しい商品を、店舗でどのように見せていくか、売っていくか。popIn Aladdinがテレビ売り場の変化の切っ掛けとなるのを期待したい。

程社長(左)と、シニアセールスマネージャー ローレンスたけし 氏(右)。意思決定は大変迅速で、取材中に得たインスピレーションからもすぐに指示が飛ぶほどだ。
程社長(左)と、シニアセールスマネージャー ローレンスたけし 氏(右)。意思決定は大変迅速で、取材中に得たインスピレーションからもすぐに指示が飛ぶほどだ。

■聞き手から

ホームプロジェクターは、導入に専門知識が必要で設置工事も伴うため、これまで一般世帯にはなかなか普及しなかった。popIn Aladdinの登場により、子育て中の母親や若年層が「プロジェクター最高」などとSNSに楽しげに投稿している様子を見ると隔世の感を禁じ得ない。IT企業のpopInは、従来の家電メーカーにはない独創的な商品開発で、プロジェクターの普及を推し進めて市場を活性化させている。家電の市場は減少傾向が続くが、消費者が求める魅力的な商品を投入すれば市場はまだまだ伸びていくと実感した。