上場家電量販企業の2019年3月期連結決算は、全社とも増収 営業利益額は前年比6.4%増のケーズHDが約327億円でトップ


上場家電量販企業の2019年3月期連結決算が発表された。現時点では決算短信の発表にとどまっているため、項目の詳細や内訳については有価証券報告書の発表まで待たなくてはいけない部分もあるが、決算短信と発表資料から見た各社の実績を横比較で見てみよう。なお、業績に関する実績値はすべて連結での値だが、文中では“連結”を省略して記している。

エディオンは生活家電の販売が売上高に貢献

3月を連結決算期とする上場家電量販企業は5社。ヤマダ電機とエディオン、ケーズホールディングス(以下、ケーズHD)、ノジマ、上新電機だ。5社の連結売上高は、全社とも前年に比べて増収決算となっている。

上場企業5社の2019年3月期連結売上高と利益額

前年比で売上高が最も伸長したのは、エディオン。4.7%の増収となった。その増収額は約323億5,000万円で、同社の倍以上の売上高のヤマダ電機よりも増収額は大きい。増収額の内訳は家電商品の販売が約80%を占め、住宅設備が約12%、その他が約8%。特に生活家電が増収額の半分を占め、売上高アップに大きく貢献した。

エディオンは増収額、増収率とも上場5社の中で最も伸長した

営業利益額ではヤマダ電機が前年比28.1%の減益となり、その他の4社は増益となった。伸長率は売上高と同じく、エディオンが同16.0%で、5社の中で最も伸長。しかし、営業利益額のトップはケーズHDで、約327億円。ケーズHDよりも売上高が大きいヤマダ電機とエディオンに対して、営業利益額では両社よりも高い利益を挙げていることが分かる。

経常利益額はヤマダ電機が減益で、その他の4社は増益。営業利益と同様の傾向だ。経常利益額の伸長率ではノジマが前年比17.3%増で、売上高がノジマより上位のエディオンよりも利益額は大きい。また、伸長率こそ5.1%と他社より低いが、経常利益額ではケーズHDが売上高トップのヤマダ電機を抜いている。

粗利益率が前年比1.6ポイント増のノジマ

上場企業5社の直近3期の粗利益率推移

次に粗利益率を見てみよう。全体的に粗利益率は増加傾向で推移している。しかし、2019年3月期はヤマダ電機とケーズHDの2社が前年よりもダウン。ヤマダ電機は2期連続で粗利益率が落ちている。前年より最も粗利益率がアップしたのはノジマで、1.6ポイント増の25.1%となった。5社の粗利益率は上新電機が最も低く、24.3%。最も高いのはエディオンの29.2%で、約5ポイントもの差が生じている。

ノジマの粗利益額は前年比9.0%増と伸長。粗利益率も1.6ポイント増となった

この粗利益率を四半期ごとで分解すると、次のようになる。

上場企業5社の粗利益率の四半期推移

各企業の四半期単位での粗利益率を前年同期と比べると、ヤマダ電機は1Q~3Qまでの期で粗利益率がダウン。逆に4Qは前年同期から2.2ポイントもの大幅アップとなった。

ケーズHDも2Q~3Qで粗利益率がダウンしたが、4Qでは29.9%と盛り返した。エディオンも3Qでは、やはり粗利益率が前年同期より0.1ポイントダウンとなった。

粗利益率の改善は、仕入れと販売の売買差益による利益確保をビジネスの根幹に置く流通業にとって需要な課題だ。しかし、それだけではない。収入に当たる粗利益額を向上させるとともに、支出となる販売管理費も同時に抑制しなければならず、この双方のバランスが最終的な営業利益につながっているのは自明の理だ。

ケーズHDは第4四半期の販売管理費を大幅に圧縮

上場企業5社の直近3期の販売管理費と販管費率の推移

リアル店舗を持つ流通業にとっては、集客のための広告宣伝費やキャンペーン、催事などの販売費、社員やパート・アルバイトの人件費、店舗の設備費などの販売管理費は基本的に増加基調で推移している。

実際に販売管理費は全社とも前年度より増加。ノジマは8.4%増、上新電機は6.5%増、エディオンは5.0%増である。

売上高に占める販売管理費を売上高販管費率(以下、販管費率)で表すと、ケーズHDを除く4社は前年度よりも販管費率がアップ。販管費率が最も高いのはエディオンで、26.7%。最も低いのはノジマの21.3%である。

2019年3月期の販売管理費と販管費率の四半期推移

ケーズHDの販管費率は23.4%で、前年から0.3ポイントのダウンとなっており、5社の中で唯一、前年度より販管費率がマイナスとなった。前述のとおり、基本的に販売管理費は増加基調にある中で、上の表でも分かるとおり、ケーズHDは4Qの販売管理費を前年同期比5.3%減と圧縮。これにより、同Qの販管費率も前年同期から1.7ポイントダウンとなった。

この4Qの販売管理費の削減では、広告宣伝費が前年同期比14.5%減。さらに販売管理費の約3割を占める人件費については、給料及び手当の同12%減を含む人件費全体を同9.9%減としたことで、4Qでの販売管理費圧縮を実現しているのだ。

4Qで販売管理費を大幅に圧縮したケーズHDは、通年での販管費率が0.3ポイントダウン

3Qの営業利益額は全社とも前年割れ

粗利益額から販売管理費を引いたものが営業利益額となり、売上高に占める営業利益額の割合は、売上高営業利益率(以下、営業利益率)となる。直近3期の営業利益率の推移を表したのが、下の表である。

上場企業5社の直近3期の営業利益率推移

2019年3月期で最も高い営業利益率はケーズHDの4.7%で、前年よりも0.2ポイントのアップ。粗利益率が5社の中で最も低い上新電機の営業利益率は2.7%で、前年から0.2ポイントアップ。粗利益率トップのエディオンは販管費率が5社中最も高いため、営業利益率は前年より0.2ポイントアップしたものの、2.5%で、上新電機の営業利益率よりも低い数値となっている。

粗利益率が24.3%と5社の中では最も低い上新電機だが、販管費率のコントロールで営業利益率はヤマダ電機やエディオンよりも高い

上場企業5社の営業利益額と売上高営業利益率の四半期推移

ヤマダ電機の営業利益率は1.7%で、2期連続でポイントがダウンした。四半期ごとで見ると、1Q~3Qの各Qで営業利益額が前年同期を割り、営業利益率もダウン。4Qについては前年の同Qが営業赤字となっていたため、指数としては表せないが、売上高や利益面では大きく改善された。

上期苦しんだヤマダ電機は下期になって利益面での改善が見られ、4Qの実績は前年から大きく伸長した

5社を四半期ごとで見ると、3Qの営業利益額は全社とも前年同期より減益となった。ヤマダ電機とケーズHDはともに営業利益額が前年同期比で18.8%ダウンし、エディオンは同3.1%、上新が同0.7%、ノジマも同0.3%減だった。その結果、3Qの営業利益率はノジマを除く4社が前年同期からポイントを落とした。売上高や粗利益などを見ても、2019年3月期の3Qは各社にとって非常に厳しい四半期だったことが分かる。

3Qの業績悪化は好調に推移した2018年3月期3Qの反動減か

前年度の2018年3月期決算における3Qの実績を見ると、ヤマダ電機を除いていずれも粗利益額は伸長した。営業利益額を見ると、最も低いエディオンでも前年同期比27.3%増で、ケーズHDとノジマは同30%台、上新電機にいたっては同150.4%と伸長した。これらの実績を踏まえると2019年3月期の3Qが厳しかった理由の一つとして、前年の3Qが好調に推移したことの反動ととらえることができそうだ。

2020年3月期の第1四半期も残すところ、あと1カ月となった。今年度、各社は中間期、通期とも増収増益との予想を発表している。10月に消費税の引き上げが予定されているため、例年よりも上期のウエートを重視して販売活動を推進していくという。高付加価値商品の販売や複数購入提案、非家電の取り扱い、ECの強化などとともに自店、自社のファン化の推進が一層求められるところだ。また、利益確保のために販売管理費をいかにコントロールするかも重要だ。業績予想で上方修正が発表されるような取り組みに期待したい。