なぜ、スイッチャーのATEM Miniが話題になっているのか 簡単操作と多彩な機能で動画コンテンツをアップグレード


オーストラリアに本社を置くブラックマジックデザインは、映像や放送の世界でプロ向けの製品を提供してきたメーカーだ。同社が2019年11月に発売したATEM Miniは放送品質でありながらも価格を4万円以下に抑え、発売直後には在庫切れとなるほどの反響があった。この4月には上位モデルとなるATEM Mini Proを発売。動画配信が急速に普及拡大している現在、要注目の製品だ。

動画配信の普及拡大で配信周辺機材のニーズが急増

ブラックマジックデザインはプロ仕様のカメラや撮影後のポストプロダクション用機材・ソフト、カメラや音声を切り替えるスイッチャーなど、いわゆるプロ用の放送・編集機材を扱うメーカー。そのブラックマジックデザインが昨年11月に世界同時発売したのが、低価格のライブプロダクションスイッチャー「ATEM Mini」だ。

カメラやマイクを入力して、ボタン操作で画面を切り替えるスイッチャーの「ATEM Mini」

スイッチャーとは、接続した複数のカメラを切り替える機材のこと。テレビ番組などでは被写体を異なるアングルから何台ものカメラで撮影し、スイッチャーで切り替えて番組をつくっている。その用途から、これまでスイッチャーはまさにプロのための機材だった。

しかし、このところ世の中の流れが変わってきた。それがYouTubeやInstagram、TikTokに代表されるSNS動画配信サービスの普及拡大だ。放送局でなくても個人で動画コンテンツを作成し、不特定多数に視聴してもらうことが可能となった。また、新型コロナウイルスの感染拡大によってライブ配信ニーズも急速に高まっている。それはエンターテインメントの世界だけでなく、教育やビジネスの世界にまで波及している。

画面切り替えで視聴者を飽きさせないことが主流に

前述のとおり、「ATEM Mini」は画面切り替えのためのスイッチャー。なぜ、発売直後に品切れになるほどの反響を呼んだのか。

動画配信とひとことで言っても、そのコンテンツのつくりは大きく変わってきた。テロップ、BGM、効果音の挿入や不要なシーンを削除して編集し、視聴者が飽きないような見せ方が重視されるようになってきたのだ。

その工夫の一つに、複数台のカメラによる画面の切り替えがある。同じ被写体でも違うアングルから撮影し、それを編集すると、画面が切り替わることによって視聴者に飽きを感じさせないことができる。膨大な動画コンテンツが毎日配信されている状況下で、このスイッチャーによる画面切り替えは動画配信コンテンツにおいて他者との差別化とリピーター獲得のための手法といえるだろう。

かつては1台の固定カメラで動画を撮影していればよかったが、コンテンツの質が上がってきた今、複数のカメラで画面を切り替えて飽きさせない画面づくりが求められている

動画コンテンツにおいての、このような流れが「ATEM Mini」への反響につながったのは間違いない。さらに「ATEM Mini」はビギナーでも扱いやすい操作性とプロも満足できる機能性を備えながら、一般ユーザーが十分に購入可能な低価格という魅力も重なり、多くのユーザーの支持を集めたのだ。

HDMI端子で最大4台のカメラを接続し、マイク専用入力端子も搭載

「ATEM Mini」本体はタテ103.5mm×ヨコ237.5mm×高さ35mmと非常にコンパクト。入力端子は、4つのHDMIと2つの3.5mmステレオミニジャック。これにより、最大4台の動画撮影用カメラと2本のマイクを接続することができる。

話題のブラックマジックデザインのスイッチャー【ATEM Mini】

配置されたボタンはオンの状態だと赤く点灯するため、照度を落とした部屋での撮影でも操作しやすい

HDMIはディスプレイと接続してゲームの画面や会議などの資料を映し出すことも可能だ。出力端子はHDMIとUSB-Cが一つずつ。USBでPCと接続すると、PC側ではWebカメラとして認識するので、会議やセミナーなどでも利用できる。

「ATEM Mini」の背面。6つの入力端子と2つの出力端子、PC接続用のLAN端子が一つというシンプルな構造だ

フロントパネルには1~4のカメラ切り替えボタンがあり、メインとなる画面で使用するカメラを選択する。

HDMIの入力端子には動画撮影用のカメラだけでなく、スライド投影用のPCとの接続にも利用する

画面切り替え時のエフェクト機能も6種類を内蔵

本体には各種のエフェクト機能も搭載しており、カメラを切り替える際にフェードやワイプなど6種類から選ぶことができ、エフェクトの時間も4段階から選択が可能だ。

画面の中に小さな別の画面を挿入するピクチャー・イン・ピクチャーの機能も搭載。画面を上下左右に4分割し、どの位置に入れるかもボタンで選択できる。また、接続されたカメラやマイクからどの音声を使うかもボタンを押して選ぶだけでよい。

画面の中に小さな画面を挿入するピクチャー・イン・ピクチャーの操作もボタンで選択

多彩な機能を搭載するソフトウェアも無償提供

「ATEM Mini」はポストプロダクション用ソフトのATEM Software Controlを無償で提供。このソフトはPCにインストールして使う。「ATEM Mini」よりも多くのエフェクトを搭載し、イコライザーやリミッター、ノイズゲートなどの音声機能や画面に挿入するグラフィックなどのストック機能もある。

ATEM Software Controlの拡張機能により、さらに詳細な設定や編集作業が可能となる

とにかく「ATEM Mini」は複雑な操作がいらず、すべてはボタンを押すだけという誰でも扱いやすい仕様になっている。ボタンの配列に慣れれば動画の配信者が自ら「ATEM Mini」を操作して画面を切り替えながら、動画コンテンツをライブ配信することも可能だ。

ライブ配信機能を強化した上位モデルの「ATEM Mini Pro」

同社では2020年4月に「ATEM Mini」の上位モデル「ATEM Mini Pro」を発売した。「ATEM Mini」との違いは3つの機能。以下で紹介しよう。

「ATEM Mini Pro」は、「ATEM Mini」よりも動画コンテンツの収録や配信、モニタリング機能が強化されている。両製品とも外寸は全く同じだ

1つ目は直接配信機能。高画質カメラやWebカムなどを使った動画配信では、コンテンツをアップする際にエンコードが必要となり、一般的にはエンコードソフトを利用する。「ATEM Mini Pro」には、このエンコード機能が搭載されているため、エンコードソフトのインストールが不要で、直接配信が可能である。

イーサネット接続で配信サービスを選び、高品質のライブ配信も可能

2つめの機能は、接続されたすべてのカメラの映像を一画面に映し出すマルチビュー機能。コンテンツのメイン画面とする映像を、画面を見ながら切り替えることができ、現在のオンエア状態やエフェクト類の画面も表示されるため、次に選ぶ画面やエフェクトなどが直感的に選べる。

マルチビュー機能は、すべての接続カメラの映像やステータス情報が接続したモニターに表示される機能

3つめの機能は撮影したコンテンツをUSB-C端子から外部のSSDやメディアにH.264で直接収録できることだ。出力画面は配信するコンテンツと同じ画面のため、さまざまな配信メディアに直接アップロードでき、アーカイブ等の利用も非常に便利になる。

ブラックマジックデザインでは、両製品の購入者を対象としオンラインセミナーも実施。7月17日と8月21日にウェビナー形式で開催予定だ。

動画配信需要の急増に対応することが急務

前述のとおり、動画コンテンツは現在進行系で普及拡大しており、動画配信サービスやセミナー、発表会でのライブ配信ニーズも急増している。

ライブ配信はリアルタイムでのコミュニケーションが可能で、プレゼンテーションやウェビナー、会議などで今後さらに普及が進むとみられる

家電量販店でもリモートワーク需要に対応してWebカメラやルーター、ヘッドセットなどの取り扱いを強化している。しかし、「ATEM Mini」のようなスイッチャーや動画配信用機材については、ほとんど扱われていないのが実情だ。

これまでプロユースと考えられていたスイッチャーも個人の動画配信ユーザーの拡大により、需要は間違いなく増加し、「ATEM Mini」のような個人ユーザーでも手が届く価格の製品もこれから続々と市場投入されていくと考えられる。

動画配信という流れが情報発信の手法として急速に需要が拡大していく中で、家電量販チャネルもこの流れを見据えた製品の取り扱いを強化すべきではないだろうか。

現時点ではまだ需要が立ち上がってきたところで、いきなり店頭展示をしても厳しいかもしれない。だが、ECは別だ。実際にリアル店舗よりもECの方が販売構成比は高いとブラックマジックデザインではみている。

動画配信はネット経由で行われるため、ECでの取り扱いはターゲット層への情報発信としても親和性が高いといえよう。新しい市場やニーズに対する量販各社の積極的な取り組みに期待したい。