EC販売にややブレーキを踏み、好決算を出した家電量販企業


コロナ禍で宅配や通販のニーズが急増してきた。家電販売においても各家電量販企業では戦略として自社サイトも含めたEC販売を強化している。確かに購入者の居住地や時間帯を問わず販売が可能なECは売上高の底上げになる。しかし、利益確保という観点からみると、EC販売の強化で利益率が低下するという一面もある。2020年上期決算から検証してみよう。

巣ごもり需要や定額給付金で上期決算は好調

2020年3月期上期の家電量販企業の決算が出そろった。全般的には新型コロナウイルスで4月に外出自粛等の影響を受けたものの、その後は需要が回復し、決算は概ね好調だったといえるだろう。

各家電量販企業の上期決算の報告では、
・巣ごもり需要等で調理家電やクリーナー、映像関連商品が大きく伸長
・自宅での勤務が増え、パソコン等の需要が増大
・政府からの特定定額給付金で高額な家電製品の販売が好調
・5月と8月は猛暑だったため、エアコン等の季節家電製品が好調に推移

―という説明が多く見られた。

テレワークの急増でパソコンの需要は上期、増加基調で推移した

一方、経費については、
・テレビ広告、チラシ広告の自粛によりコスト削減
・営業時間の縮小による人件費の削減
・営業時間の縮小による水道光熱費の削減
・家賃値下げ交渉により、家賃コストの低減

―などがあり、当初の計画よりも大幅なコストダウンが実現できた。

全体として売上はある程度確保され、コストが抑えられたことにより、決算は好業績となったということである。しかし、上期の家電量販企業の決算において、マスコミ等にあまり取り上げられていない事象がある。それは、売上総利益率の向上である。とくにヤマダデンキ、エディオン、ノジマは売上総利益率が30%を超えたのだ。

EC販売比率が高くなると売上総利益率は低下する

価格競争の厳しい家電業界において売上総利益率を30%台に上げていくことは至難の業であるが、今回、3社が30%を超えた。ケーズホールディングス(以下、ケーズ)の売上総利益率は29%で30%台ではないが、前年度から率はアップした。

一方、ビックカメラは27.2%、上新電機は23.3%となった。なぜ、売上総利益率に差が出たのであろう。そのヒントは、ECの販売比率にある。

ビックカメラは、8月決算のため、他の企業との比較ではあくまでも参考値として考えなければならないが、売上高に対するEC販売比率は15.3%まで上がっている。同様に上新電機も上期決算では、15.0%までEC販売比率がアップした。

アプリとの連動も積極的に推進しているビックカメラのEC販売比率は15%を超えた

一般的にマスコミの報道では、新型コロナウイルスの影響でEC販売が増加しており、店舗での商品購入を控える顧客に対応するためにはEC販売を強化すべきであるという論調が多く見られる。

しかし、今回の家電量販企業の上期の決算数値を見ていると、そのようなマスコミの分析は当てはまらないことが分かる。むしろ、EC販売比率の低い企業の方が売上総利益率も高い。また、売上伸長率ではEC販売比率の高低で大きな違いは見られない。

EC販売比率と売上伸長率は連動しない

それでは、EC販売比率と売上伸長率の関係を見てみよう。マスコミの論調であれば、ECの売上拡大に取り組んだ企業の方が時代対応をしており、売上成長率が高いはずである。なぜなら、急成長しているEC販売に素早く対応しているからだ。

売上伸長率とEC販売比率をプロットすると、2つのグループに分けられる

上記の表は、縦軸が売上伸長率、横軸がEC販売比率である。EC販売比率の非公開企業については株式会社クロスによる推定比率である。EC販構成比の高い上新電機とビックカメラ、EC販売比率の低いノジマ、エディオン、ヤマダホールディングス(以下、ヤマダ)、ケーズとの間には相関関係が見られない。

EC販売比率が高い上新電機の売上伸長率は100%を超えているが、EC販売比率が低いケーズやヤマダも売上伸長率は100%を超えている。ビックカメラのEC販売比率は高いが、来店客の減少が続く都市型店舗が多いこともあり、売上伸長率は前年を割っている。

上新電機の第2四半期のEC売上は約341億円で前年同期比22.6%増となり、EC販売比率は前年同期の12.8%から2.2ポイントアップした

EC販売は確かに急成長している分野だが、EC販売を急拡大しなくても、ヤマダやケーズのように成長する方法はほかにもあるということが分かる。マスコミの論調で多い『店舗販売は廃れていき、EC販売は成長する』という図式は、2020年の家電業界においては見られない。では、EC販売と売上総利益の関係はどうなのだろうか。

EC販売比率が高くなると売上総利益率に影響する

下のグラフは、縦軸に売上総利益率、横軸をEC販売比率として各企業をプロットしたものである。

売上総利益率とEC販売比率でも先述のグラフと同じように2つのグループになっていることが分かる

ここでは、ある程度の相関関係が見えてくる。つまり、EC販売が増加すればするほど、売上総利益率は低下するのだ。全体的な傾向としてEC販売比率が1%上がるごとに粗利率は0.5%程度下がる傾向にある。ヤマダ、ケーズ、ノジマ、エディオンは現在、EC販売比率が3%程度だが、上新電機やビックカメラのようにEC販売比率が15%程度まで拡大すると売上総利益率は5%程度低下することが、この図から予測される。

一般的にEC販売は同質競争となり、価格競争が厳しく粗利率の確保が難しい。ビックカメラ新社長の木村氏が、自社のプライベートブランドを拡大していく政策を推進する理由はここにある。同社は先述のようにEC販売比率が高く、EC売上が拡大すればするほど、粗利率が下がる傾向にあると推測されるからだ。

ビックカメラはさらなる成長のためにPB商品の販売構成比を高め、商品開発と販売の両面を推進する

ECはプラットフォーマーではなく自社サイトを強化か

株式会社クロスの調べでは、楽天、PayPay等に出店している家電量販企業の売上は8月以降大きく前年を下回ることが多くなった。経費のかかる楽天、PayPay、アマゾンの売上を抑え、自社サイトの売上拡大に力を入れているのだ。

ヤマダ、ケーズ、ノジマ、エディオンの2020年上期はEC販売に少しブレーキをかけ、業績を向上させたと捉えることができる。つまり、2020年上期は手数料のかかる楽天、PayPay、アマゾンなどのデジタルプラットフォーマーでの売り上げを取りにいかず、自社サイトで無理せずに販売してきたということだ。

ビックカメラ、上新電機も戦略の修正が見て取れる。上期の反省を生かし、店舗での販売力の強化に加えて、ECでは自社サイトでの売上拡大に努め、他社同様の売上総利益を確保していくだろう。

長期的にみると、家電製品においてはEC販売での売上が今後大きくアップすると予測されるが、2020年の家電量販企業はEC販売に少しブレーキをかけ売上総利益をしっかり確保した。2020年上期の家電量販企業の政策は好業績に表れており、この傾向はしばらく続くものと考えられる。