海外戦略の本気を感じさせる店舗 「YAMADABEST AEONMALL DELTAMS店」
立地はジャカルタの東南にある成長が期待できる新興エリアで、イオンが開発した「イオンモールデルタマス」に核店舗として出店している。イオンのモールは2核1本のモールでテナント数は約300店舗。トータル面積は20万平方メートルと巨大で駐車場は3,000台ある。インドネシアでは、ベスト電器がフランチャイズで店舗を展開していたが、フランチャイズ企業を買い取り2021年からYAMADABESTに屋号を変えて展開していた。
ヤマダベストデルタマス店の概要であるが、売り場面積は約1,500坪、商品はテレビ、冷蔵庫、洗濯機、調理家電、エアコン、パソコン、携帯電話、サプライとほとんど日本の品揃えと変わらず、さらに玩具、リフォーム関連商品も品揃えしている。
インドネシアの家電関係者から話を聞くと、このように売り場が大きく品揃えの充実した家電量販店はまだ国内にはないという。ちなみにインドネシアの人口は日本の二倍以上の2億7500万人、個人の月収は3万円前後と低く、家電市場は日本の6分の1程度と言われている。このような中で、ヤマダベストデルタマス店はヤマダHDの海外戦略の本気度が伝わってきたので紹介したい。
インドネシアNo.1の売り場面積
ヤマダベストデルタマス店の売り場面積は5,000㎡である。インドネシアの家電量販店の売り場面積は1500㎡前後が多く、ヤマダベストデルタマス店は標準的な売り場の3倍の面積がある。
インドネシアの家電市場は日本で言うところの地域家電店が圧倒的に強く、1世帯当たりの家電消費金額も少ないために大型の店舗は効率が悪い。ヤマダベストデルタマス店も、効率を考えたら1,500〜2,000㎡の売り場面積にした方が良いと考えられる。5,000㎡の売り場にした理由をヤマダベスト関係者に尋ねたが、現在の標準面積ではなく、5年先をイメージした店舗づくりを行いたかったとのことだ。
さらに、企業としての姿勢を示すために、インドネシアでナンバーワンの店舗を作りたかったという。この5,000㎡という売り場は、新しい店舗価値を生み出している。新しい店舗価値は、ショッピングモールの核店舗という価値である。筆者もいろいろなショッピングモールを見てきているが、家電量販店が核店舗となっているモールは少ない。このデルタマス地域において、ヤマダベストデルタマス店が核店舗として集客できるかは大きな試金石であり、これがうまくいくとインドネシアのモールからの出店依頼が増えるものと考えられる。
あえて現在の標準面積ではなく、5年後を見据えた店舗面積にしたところにヤマダHDの本気度が感じられる。
15,000アイテムの豊富な品揃え
インドネシアはメーカー系小売店が強い。インドネシア政府は地域経済保護の立場から伝統的な小売業を保護している。そのため、メーカーは伝統的小売店の声を気にして、量販企業への商品の導入にはあまり積極的でないと言われている。
丁度、1960年代にナショナル(現、パナソニック)がスーパーのダイエーに対して商品の供給を止めたのと同じような状況がインドネシアでも起こっているように感じられる。このような中で、商品を集めることは至難の業である。
ヤマダベストデルタマス店の品揃えは充実している。インドネシアの家電量販店の5〜8倍程度のアイテム数がある。このような品揃えができた理由を関係者に尋ねたところ狙いを二つ挙げてくれた。
一つは、1990年代からベスト電器のフランチャイズで進出しており、ベストブランドがあったためにメーカーもある程度協力してくれたことである。
もう一つは、日本でのヤマダデンキの実績である。ヤマダデンキの知名度はインドネシアの家電関係者の間でも高く、今回のヤマダベストデルタマス店の品揃えに対しては期待するメーカーもあったという。しかし、ベストとヤマダのブランドがあるとはいえ、インドネシアと日本では売れているメーカーが異なる。
インドネシアで知名度が高い家電メーカーは、サムスン、LG等の韓国メーカー、ハイアール、美的、ハイセンスといった中国メーカー、エレクトロラクス、ボッシュといったヨーロッパメーカーが入り乱れている。そのため、商談も大変だったはずである。15,000アイテムの品揃えを行ったところに、ヤマダベストデルタマス店の本気度が見える。
自社社員による店舗運営
アジアの国々で多いのはメーカーヘルパーに依存した店舗運営である。家電量販店の売り場はメーカーのブースごとに区切られており、そこにはメーカーの派遣店員がいて自社の商品を販売している。小売店としてはこちらの方が人件費を抑えられ、メーカーブースの賃料はメーカー負担なので安くつく。
ヤマダベストデルタマス店はメーカーヘルパーを置かない店舗である。社員は140名おり、それぞれの社員に担当売り場がある。ジャカルタにあるヤマダベスト系列店で2週間程度の実地訓練を受けてから売り場に配置されている。ヘルパーを置かず自社社員でオペレーションすることで、親切、丁寧な説明で顧客満足度を高めて顧客を固定化する戦略をとっている。
一般的にインドネシアの家電接客はどちらかと言うと受け身の接客が多く、呼ばれた時に対応するスタイルが多いという。また、接客マナーや説明もあまり良くないという。メーカーヘルパーが多く、自社メーカー以外の商品にはあまり関心がないためにヘルパーが派遣されていないメーカー商品についての接客は良くない。ヤマダベストデルタマス店は、あえてメーカーヘルパーを置かず自社社員で接客を行うところに、海外戦略の本気が見られる。
経営トップ自らの記者会見
今回、ヤマダベストデルタマス店のオープンに際して行われた記者会見では、ヤマダホールディングスの山田昇会長自らが会見を行った。
会見で山田会長は、「今回、ここインドネシアデルタマスに9号店を開店する運びとなりました。この店舗は売り場面積1,500坪に15,000アイテムを展示し、インドネシアでは最大級の店舗となっております。インドネシアの皆様の生活を豊かに便利にして選ぶ楽しさを体感していただきたいと考えております。具体的には家電から玩具商品までそろえ、市場に合わせたプライシングでリーズナブルな価格を実現してまいります。また、社員教育につきましてもマナーから商品知識教育まで徹底して行っており、当社の方針である『インドネシア一番の品揃えと価格、サービス』を提供するために日々努力を行っています。日本で展開するヤマダデンキ同様に体験、体感を通じて楽しくお買い物ができる店舗を作ります」とメディア及び家電関係者に説明した。
今回の記者会見には山田会長の他に現地の社長、店長が同席したが、記者会見参加者は130名以上となり、現地でも大きく取り上げられた。
店舗の内覧会も行われたが、内覧会にはヤマダHDの山田会長を始め上野副社長、小暮副社長も顔を見せ、ヤマダHDのトップスリーが顔を見せたところにヤマダベストデルタマス店への本気度が感じられた。
ところで、ヤマダデンキの今後のインドネシアの展開であるが、山田会長は2030年までインドネシアで30店舗の展開をしたいと述べた。
会見では、ヤマダベストデルタマス店の売上と2030年の売上目標に関する質問があったが、売上に関しては地域の家電関係者への影響を考えたのかトップを目指したいという言葉だけであった。とは言いながら、山田会長の口からは「インドネシアと共に発展していきたい」という言葉があり、成長するインドネシア市場への期待感が感じられた。
今後のヤマダホールディングスの海外展開から目が離せない店舗及び山田会長の会見であった。