様々な制約の中で単価アップを実現するには?セットステレオの事例から学ぶ


単価アップが著しいセットステレオ

ここ数年セットステレオの平均単価が上昇傾向している。2019年度に20,000円前後だった平均単価が、2023年度には20,000円台の半ば近くにまでなっている(※家電Biz調べ)。円安や部材などの原価高騰を背景とした物価上昇はどの分野でも見られるが、4年で平均単価が2割近くも上昇した家電製品は珍しい。

背景には通常の物価上昇の要因以外に、特にコロナ以降音質にこだわりを持つお客様が増えている事、そしてそれに伴いハイレゾ音源対応機器の需要が更に向上した事、ハイエンド商品への関心が高まっている事などがあると考えられる。こうした市場背景を活用してオーディオ専門店やターミナル立地の家電量販店は既に高単価なセットステレオの販売数を向上させている。

しかし一方郊外型の中小規模店舗はこの追い風を活かせていないところが多い。本記事では敢えて対象を中小規模の家電量販店に絞り、高単価なセットステレオを拡販する具体策について考えてみたい。

ちなみに本記事で述べる「セットステレオ」とは本体とスピーカーが分離しているオーディオ機器で、一般的に「ミニコンポ」あるいは単に「コンポ」と呼ばれているものと定義する。従って本体とスピーカーが一体となっているCDラジカセや、他の再生機器と連携して使用するBTスピーカーなどは本記事の対象ではない。

中小規模の家電量販店が抱える問題点

郊外型の中小規模家電量販店が高単価なセットステレオを販売する際のネックとして、

• 定番や品揃えの問題、売り場が小さく専門性が出しにくい
• 売場環境の問題、セットステレオ売り場にスペースをとれない
• 商品知識を含めた人員体制の問題、セットステレオ商品が接客対応できない、

など実に様々な問題が存在する。そしてこうした問題は現場レベルでは解決不可能な事も多い。

例えば定番や品揃えは原則本部レベルで決定する事であり、店舗レベルでは特殊な事例を除いて対応は難しい。また売場環境の問題として、郊外型の大型店には防音完備の試聴ルームがある事が多いが、殆どの中小規模店にはこうした設備が無い。人員体制の問題で言えば、オーディオに詳しい人材がいない店舗の場合、育成にかなりの時間がかかるし、そもそもオーディオをセルフの売場と位置付けて、専任の担当者を配置していない店舗も多い。

こうした現状を受け入れた上で、中小規模の家電量販店はどの様な策を講じればセットステレオの単価アップという追い風を活かす事が出来るのだろうか?

店舗、売場の現状

まず最初に郊外型中規模家電量販店のオーディオ売場を2店舗視察してみた。
始めに訪れたA店は売場総面積が1500坪ほどの中堅クラスの店舗だ。売場は2フロアに分かれており、オーディオ売場はテレビ売場の近くにあった。一口にオーディオと言ってもCDラジカセやレコードプレーヤー、BTスピーカーなど展示機種は多彩だが、セットステレオのコーナーは横幅900mmの什器が8スパン、そして各スパンには2段で商品が展示されている。

展示数は色違いの機種も含めて全部で23機種、処分品もある為、やや窮屈な展示という印象だ。売価ゾーンは10,000円以下が3機種、10,000円台が8機種、20,000円台が2機種、30,000円台が3機種、40,000円台が4機種、50,000円台が2機種、そして60,000円台の機種が1機種でこちらはエンドに展示されていた。

売場担当者に聞いたところ、一番売れている機種はPanasonicのSC-PM270(表示売価18,000円)、次に売れているのがKENWOODのM-EB50(表示売価19,800円)、その他の機種はどんぐりの背比べだが、時々60,000円台の一番高い機種も売れるとの事だった。

次に視察したB店は先のA店とは別の家電量販企業の店舗で、売場総面積は約2,500坪、1フロアの売場構成となっている。セットステレオのコーナーはA店と同じくテレビ売場に近接しており、横幅900mmの什器が10スパン、各スパンに2段で展示というのはA店と一緒だ。

展示数は色違いも含めて18機種、比較的ゆったりとした展示という印象だ。価格ゾーンは10,000円台が8機種、20,000円台が3機種、30,000円台が2機種、40,000円台が2機種、50,000円台が3機種だった。売場担当者に聞くと一番売れているのはA店と同じくPanasonicのSC-PM270(表示売価18,000円)でこちらはエンドに展示されていた。次に売れているのがKENWOODのLCA-10(表示売価16,800円)。

この店舗もA店と同じく10,000円台の商品が売れ筋で、30,000円以上の商品はここ数ヶ月ほとんど売れていないとの事だった。A店、B店、どちらも売れ筋は10,000円台だった。しかし現在はセットステレオの平均単価が前述の通り20,000円台の半ば近くにまでなっており、しかも比較的高単価の商品も展示導入されているのでもったいないと感じる。

現行の定番、品揃えの範囲内で単価アップをするには売れ筋を高い機種に変えるしかない。売れ筋を現状の10,000円台から20,000円台へ、30,000円台へと高単価の機種に変えていけば、セットステレオの売上はもちろん、オーディオ全体の売上にも大きく貢献する。しかしそれには先に述べた売場環境の問題、商品知識を含めた人員体制の問題など様々なネックがある。これらを店舗レベルで解決可能な方法で一つ一つ潰し込んでいかなければならない。

オーディオの売り場、(写真は原稿の文章とは関係ありません)
オーディオの売り場、(写真は原稿の文章とは関係ありません)

売場環境の問題に対して

売場環境の問題で真っ先に挙げられるのは試聴環境だろう。中小規模の店舗はオーディオ専門店やレールサイドの超大型店の様な試聴ルームといった設備を持っていない。そしてご存知の通り店内はBGMやお客様の会話などで非常に賑やかだ。こうした環境ノイズの中で、お客様にじっくりとご試聴いただいて、音の良さを体感してもらうというのは中々ハードルが高い。しかし音質の良さはお客様がワンランク上の機種を購入される上での大きな決め手となる。まずはこの環境ノイズの問題を可能な限りクリアしなければならない。

A店、B店共、セットステレオのコーナーはテレビ売場に近接していた。同じ黒物家電という括りで、こうした売場配置となっている店舗は多い。こうした売場配置の場合、近くに展示されているテレビからの音量が環境ノイズの一つとなってしまう。セットステレオコーナーの近くに展示しているテレビは販売に影響が無い範囲内で音量を絞る、或いは消音にする、といった工夫をするだけでも環境ノイズの低減に繋がる。

店内BGMもお客様がセットステレオを試聴する場面では環境ノイズの一つとなる。大半の店舗において店内のPAシステムのボリュームは一括管理されているが、まれにコーナーごと、或いはフロアごとにボリューム調整可能なシステムを採用している店舗もある。自店のシステムがコーナーごとにボリューム調整可能な場合は、これを活用しない手はない。ちなみにボリューム調整一括管理のPAシステムだとしてもアッテネーター(減衰器)を取り付ける事で部分的なボリューム調整が可能となる。アッテネーターは設置個所の配線状況や機種にもよるが、安ければ本体価格と工事費込みで数万円から取り付け可能な場合もある。諸事情がクリア出来るのであれば単価アップへの先行投資として検討の余地もあるのではないか?

什器も高音質を訴求する際の弊害となる場合がある。家電量販店の什器は金属製で振動し易い性質のものが多い。この場合スピーカーの振動が接地面を通して什器に伝わり、反動が大きくなって、結果ノイズとなる場合がある。什器の棚板を振動の少ない吸収材の様なものにすれば良いのだが、勝手に什器を加工する訳にはいかない。以前はセットステレオの展示台に木製の板を使用した販促物を用意しているメーカーもあったが、最近ではメーカーもそこまで販促物にお金をかけない。

何か良い方法は無いだろうか?これに対してはスピーカーの下にインシュレーターを設置してノイズを低減するという方法がある。これはスピーカーと接地面との間にインシュレーターを挟む事で振動を遮断し、反動を低減する仕組みだ。インシュレーターは現在でも色々な種類が発売されており、価格も1,000円程度のものから、数万円のものまで様々だ。

しかしちょっと待って欲しい。昔、オーディオブーム全盛の時代にインシュレーターの代わりに10円玉をスピーカーの接地面の四隅に置くという方法が流行った事がある。筆者もオーディオマニアの端くれだった若かりし頃、自分のオーディオセットで面白半分に試してみた。その時は様々な好条件が重なったのかも知れないが、確かに反動ノイズが低減してびっくりした記憶がある。この方法は棚板の素材やセットステレオの機種、展示されている空間の条件などによって得られる効果はピンキリであり、確実な保証は出来ないが、スピーカーの片側の四隅で40円、左右で80円という100円でおつりが来る投資なので、試してみる価値はあるかと思う。

お客様の中には複数の機種の音を聞き比べしたい、という方もいらっしゃるだろう。そうしたお客様には環境ノイズの影響を極力排除した形で聞き比べしていただいた方がご納得いただけるし、CS向上にも繋がる。聞き比べ希望のお客様に対して一つの方法として、ヘッドホンを使用するという手段はどうだろうか?最近のヘッドホンはワイヤレスでもワイヤードでも非常にレベルが高い機種が発売されている。

複数のセットステレオの音質を環境ノイズを排除して同じ条件でお客様に聞き比べていただく為に、ヘッドホンを用意しておく事も一つの策だ。但し留意すべきは衛生面である。特にコロナ以降はお客様も衛生面に敏感だ。聞き比べ用にヘッドホンを活用する際には、除菌ティッシュを用意してお客様に安心感を持っていただく事も重要である。

オーディオの売り場、(写真は原稿の文章とは関係ありません)
オーディオの売り場、(写真は原稿の文章とは関係ありません)

人員体制の問題に対して

さてここまで売場環境の問題、特に環境ノイズへの対策を中心に、現場レベルで対応可能な課題解決策を検討して来たが、もう一つ大きな課題として商品知識を含めた売場の人員体制の問題がある。オーディオに詳しい、或いはオーディオ好きな従業員がいる場合は幸いだが、そうした人材がいない場合、どうしたら良いか?メーカーの協力を得て集中勉強会を行う、ロールプレイングを実施するなどの方法が考えられるが、どうしても時間がかかるし、最近ではメーカーも人員が削減されて活動範囲や業務内容が限られている。

この問題に対する一つの策としてオンラインの勉強会が考えられる。最近では動画配信サイトでオーディオの基礎知識を楽しく身に付けられるコンテンツも充実しているし、メーカーによっては自社製品の勉強会をYouTube上などで限定公開している。こうしたインフラは労働時間の範囲内では積極的に活用すべきだ。

人員体制に対するもう一つの解決策としてPOPの充実が挙げられる。デジタルサイネージが導入されている店舗はこれも活用出来る。最近のセットステレオはハイレゾの説明、スマホとの連携やWMA/MP3再生、USBメモリーを使用した録音再生、といった様に、専門的な説明が必要となる機能が満載だ。こうした中から問合せが多そうな事項をあらかじめ説明POPの形で店頭に掲出しておく、非常に当り前の方法だが、現在の高機能/高性能化したオーディオ機器に対しては有効な手段だ。

セットステレオを購入しようとしているお客様の目的は音楽を楽しむ事だ。その音楽を楽しむ方法を更に広げられる情報に対してはお客様も敏感である。説明POPはそうしたお客様のニーズに応えられる的確なツールと言える。特にオーディオはこうした専門的な説明が求められる商品でありながら、セルフの売場という扱いで専任担当を配置していない店舗も多いので、こうした配慮はCS面から見ても重要だ。

最近のお客様の消費行動の一つにWebルーミングという行動がある。これは「インターネットで調べてリアル店舗で購入する」という消費行動で、ショールーミングの逆の行動だ。ミニコンポを購入されるお客様の中にはWebルーミングで、事前にインターネットを見て、ある程度の情報を調べてから来店される方もいる。そうしたお客様が ‟事前に調べていなかったけれど、店頭で実物を見て興味をそそられる商品を見つけた”という場合に備えて、店頭でQRコードのPOPなどを設置して、商品アピールのページや商品レビューなどに手軽にアクセス出来る様にして製品情報を更に充実させる事で、興味を引いた商品の情報をすぐに調べられる様、手助けするのも効果的だ。

販売する側の意識が重要

以上、中小規模の家電量販店で単価アップの波に乗って、高単価なセットステレオを拡販する方法について売場環境の問題と人員体制の問題の両面から、店舗レベルで実行可能な対応策を検討して来た。

郊外型の家電量販店は、多くが広い駐車場を完備していてアクセスが良く、家族連れのお客様にも利用しやすい環境であるという強みを持っている。こうした強みを活かして広範な顧客層に高単価なセットステレオで音楽を楽しむ素晴らしさを啓蒙して行けば、必ずや単価アップと拡販に繋がる。

最後になるが、やはり単価アップには販売をする側の意識が重要だ。筆者が視察した2店舗の内、A店では売場で一番高額な60,000円台の商品をエンドできちんと展示訴求しており、時々ではあるものの売れているとの事だった。一方B店では一番の売れ筋である18,000円の商品をエンドに展示しており、30,000円台以上の機種はここ数ヶ月、ほとんど売れていないとの事だった。別にここでエンド展示の対象や効果について云々するつもりはない。「エンドに一番高額な商品を展示する」「エンドに一番の売れ筋商品を展示する」どちらも一理ある展示方法だ。しかし辛辣な言い方だが、お客様から一番目立つ位置に、売れ筋とは言え安価な機種を展示しているB店には、高単価なセットステレオを販売する事に対する自信の無さが感じられてしまった。一方でA店はお客様が一番最初に目を止める位置に売場で一番高額な機種を展示訴求する事で、最近のセットステレオの素晴らしさをアピールしている様に見えた。セットステレオ単価アップの波に乗るチャンスと言える今の様な時では、A店の様な意志を持った展示方法が正解だと感じた。