ケーススタディで学ぶ 外国の家電メーカーが日本市場に入る6つのポイント


中国やヨーロッパ、アメリカの家電メーカーが日本市場に参入するケースが増加している。理由としてはダイソンやレイコップ、エレクトロラックスといった海外メーカーが日本市場である程度のシェアを確保し、存在感を増していることがある。とくにダイソンは広告のうまさや商品デザインの良さ、さらには日本市場における地道な営業活動でクリーナー市場において安定的シェアを確保した。
海外の家電メーカーの商品力が向上しているのも見逃せない。

一昔前の海外メーカーの商品は比較的低価格帯の商品が多く、国内の家電メーカーと比べて品質の面で不安があった。しかし、現在は海外メーカーの品質やデザインは格段に向上しており、日本市場で十分国内メーカーと戦えるようになってきている。さらにインターネット等を通して情報の国際的な垣根がなくなってきており、越境EC等を通じて良い商品があれば、購入する顧客もどんどん増加している。
海外メーカーの日本参入の垣根はある程度低くなっているものの、日本市場に参入していくためには、注意しなければならないことがたくさんある。そこで、今回はその注意点といくつかのケースを紹介しよう。

初年度の目標販売台数を明確にする

日本市場に入る場合は、初年度の販売台数をどれくらいにするのかが最も重要であるなぜならば、販売台数によって選択する販売チャネル(販売ルート)が決まってくるからである。例えば、初年度の販売台数目標を10万台程度とするなら、家電量販チャネルと組まないと達成は難しい。日本の家電製品の70%以上は家電量販店チャネルが販売しているからだ。

初年度1万台程度の販売目標であれば、家電量販チャネルではなく、テレビショッピングやインターネット通販等との組み合わせでも達成できる。また、3万台程度の販売目標であれば、場合によっては家電量販店等の独占販売のような形でも販売できる。販売台数はシェアにも連動する。

日本に参入する家電メーカーは、まずどれくらいのシェアを取りたいのかという数値を明確にしなければならない。シェアが明確になり販売台数が決まってくれば、そのためのマーケティングコストも具体化されてきて、そのコストで本当にシェアが確保することが可能なのか検討できる。

■ケーススタディ
海外の総合家電メーカーA社は、海外ではある程度の知名度やシェアを持っており、グローバル戦略の一環として日本市場に参入を図った。日本の現地法人は日本市場の経験者を採用して体制を強化した。最初からA社は日本の現地法人に対して高いシェアを要求し、広告や販売促進等もグローバル戦略との統一性を求め、日本市場を考えたマーケティング戦略は少なかった。日本の現地法人は日本市場に合ったマーケティングをしないと高いシェアの獲得は難しいと訴えたが、ほとんど聞き入れられず、結果として目標シェアを達成することはできなかった。

目標シェア達成までの期間を明確にする

海外メーカーは日本の現地法人にスピードを要求する。とくに中国の企業は意思決定のスピードが速く、即断即決で市場参入を図る。しかし、日本市場に参入していくためには、ある程度の市場調査や組織作りの時間が必要である。

参入に失敗する場合は、総じて市場調査が甘かったり、参入のためのプロジェクトチームがうまく機能していなかったりすることが多い。一般的に日本市場に入る場合は、だいたい市場調査、準備に3ヶ月程度、参入商品の決定等に3~6ヶ月程度、商談や広告等に3ヶ月程度かかる。トータルで9ヶ月から1年程度見ておけばよいだろう。

プロジェクトチームとしては、商品企画担当や調査担当、販促担当、営業担当等で8~10名程度必要である。もちろん、短期で参入を図る場合もある。日本市場をよく知るパートナー企業と合弁化を図れば可能である。経営戦略で重要なことは、事前準備をしっかりと取ることであり、その準備が出来ないと戦略は失敗することが多い。

自社完結で参入するか、パートナー企業を選ぶか

■ケーススタディ
理美容機器メーカーB社は、日本市場参入の際に自社単独ではなく販売は商社をパートナーとした。理由は市場参入でのコストをなるべく抑えたかったためであり、営業担当人員の確保が短期間では難しいと考えたからだ。結果としてB社は本部人員を商品企画と営業企画担当の少数精鋭としたことによって、コストは抑えながら販売数量はある程度確保して、高い収益を上げた。

日本市場に参入する場合は、いくつかの方法がある。1つは、自社ですべてを行う方法である。商品の企画、販売計画、商談、販促企画、物流等を自社で行うことになるが、とても多くのコストがかかる。コストはかかるが自社完結型であるので、意思決定のスピードが速く、責任の所在も明確である。

一方、商品の企画、製造は行うが、販売等はパートナー企業に任せる場合がある。日本には、家電製品の商社がたくさんある。これら商社は多くの販売チャネルを持っており、パートナーと組むことによって素早く商談や営業活動が出来る。一般的に販売数量の少ないうちはパートナー企業と組んだ方が良い。理由はコストが抑えられるからである。しかし、ある程度の販売数量を見込む場合は、自社完結型の方が、意思決定が速やかに現場まで徹底できるので良いと考える。

日本の商慣習等に注意

海外メーカーが日本市場において困惑するのは日本独自の商慣習である。
例えば、家電量販企業が要求するリベートである。海外であれば、リベートは数量をベースとして構築されている。しかし、日本においては家電量販企業によっていろいろなリベートがあり、販売戦略と複雑に絡み合っている。また、日本では長年の商慣習からメーカーの流通業に対しての営業支援プログラムの種類が多い。人材支援であれば、商品説明をするヘルパー支援、販売員の商品勉強会の支援、店頭の陳列や新製品導入促進支援等がある。

販促支援であれば、POPやカタログ等の支援、イベント、広告等の支援があるし、故障等が起きた場合のサポート支援も必要になってくる。これらの商慣習をある程度理解しておかないと、店頭への商品導入が終わっても実際は売れないことが多い。

■ケーススタディ
白物家電メーカーC社は日本市場に参入したが、低価格商品の参入のために、営業人員等のコストを抑えて少ない人員で対応した。新製品導入後、数ヶ月で商品の不具合が判明したが、営業担当者が少なかったため修理対応が遅れて、店頭の販売員がクレームに苦慮した。その後、家電量販企業ではこの海外メーカーの商品は積極的に販売しないようにしたため、販売数量は激減してしまい予定販売数量を大きく下回った。

投入コストのバランスに注意

日本の家電市場に入る場合、注意しなければならないのは、マーケティングコストが意外に多くかかることである。海外では、大手の家電販売企業と本部商談を行い導入が決定してからはあまりコストがかからない。しかし、日本では商談後も営業担当者の巡回、ヘルパーの派遣、プロモーションの実施等でマーケティングコストがかかる。また、価格が毎日のように変わるので、その対応も煩雑になる。

アジアやアフリカのような新興国であれば、テレビ広告の投入量と販売シェアが連動するケースが多い。ところが、日本では広告投入量と販売シェアはあまり密接な関連性が見られないことがある。その理由は多くの消費者の意思決定を促しているのが、店頭の販売員の意見とインターネット上の書き込みだからだ。

日本市場で多くのマーケティングコストがかかるのはマーケティング活動を行い、その効果分析ノウハウがないため、無駄なコストを使うケースが多いからだ。マーケティングコストは限られているので、より販売に強く関係する部門のコストを多くし、販売に関係ないコスト削減を行わないとコストオーバーとなってしまう。

■ケーススタディ
海外メーカーD社は、日本市場参入にあたり知名度アップのため、広告代理店とパートナーシップ契約を結び、テレビ広告等に力を入れた。認知度は大きく向上したが、店頭での販売は今一つであった。原因は、家電量販店等の店頭マーケティング力の不足であり、競合メーカーと比べ営業人員や店頭プロモーションツールで大きく後れを取ってしまったため。結果として目標販売台数には、はるかに及ばなかった。

参入ポジショニングに注意

日本の家電市場の多くは買い替え市場である。テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、レンジ、炊飯ジャーなどほとんどが買い替え需要である。日本の買い替え市場に参入するのは難しいと言われている。理由としては、消費者は使い慣れたメーカーの方が安心であり、現在使用しているメーカーへの買い替えが多くなり、新規メーカーへの移行が少ないからである。

一方、新規市場がある。新しいカテゴリーの商品への参入である。新規市場は全く新しい市場であり、国内メーカーも海外メーカーもある程度同等に勝負できる。例えば、スマート(AI)スピーカーは国内メーカーではソニーなど、海外であればグーグル、アマゾンから発売されているが、国内、海外メーカーの垣根なく顧客は商品を選んでいる。マーケティングで大事なことは、自らのポジションを明確にすることである。どのポジションを選択するかでマーケティング戦略は大きく変わってくる。

■ケーススタディ
クリーナーメーカーのE社は日本のクリーナー市場に参入する際、既存のクリーナー市場とは異なる布団専門クリーナーのポジションを明確にした。また、布団クリーナーの顧客として子供のいる家庭をターゲットとしてプロモーション活動を行った。布団クリーナー市場は既存のクリーナー市場とバッティングせず、市場が活性化されることでクリーナー部門の売上拡大につながると家電量販企業の賛同も得ることができ、E社は布団クリーナー市場でトップシェアを確保した。

以上、日本市場に参入する場合の注意点をご紹介した。海外メーカーの日本参入等で家電市場が活性化されることを望みたい。

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