財布に入れられる翻訳デバイス「ZERO」は、売り場でお客に選択肢をもたらす


Timekettleから小指サイズの小さなAI翻訳デバイス「ZERO」が先行予約販売され、ネットで注目されている。単独で利用するデバイスではなく、スマートフォンと一緒に利用することで翻訳性能と使い勝手の向上を測っている。

専用デバイスの高性能さと翻訳アプリの手軽さを両立

世界最小・最軽量クラスのAI翻訳デバイス「ZERO」がクラウドファンディングサイト「Makuake」にて、4月2日から先行予約販売をスタートし、残り30日以上を残して応援購入総額2700万円を越え、Makuakeの「翻訳機・通訳機」カテゴリで注目を集めている。

今回、発売前にZEROの先行レビューの機会を得たのでここで紹介したい。

なお、ZEROは既に米国や中国などでは「Zero Transfer」の名称で販売されており、本稿で紹介する写真には、Zero Transferの表記のままの場所がある点をお断りしておく。

Makuakeのプロジェクトページ https://www.makuake.com/project/zero-translator/
ZEROのパッケージ。商品名が「Zero Transfer」となっている

ZEROの特徴は幾つかあるが、一番目に付くのはその大きさだ。本体サイズはW40×D7.2×H17mm、重さは単体でわずか6.5g、収納カードとセットでも18gに収めている。こんなに小さくてどうやって翻訳デバイスとして使うのかというと、スマホに挿して専用アプリと連動して翻訳を行うシステムになっている。

それなら、スマホの翻訳アプリで良いじゃないかと感じる人もいるかもしれない。ZEROは翻訳アプリでは実現できないレベルの音声認識が可能で、使いたいときにぱっと使える状態になるのが優位点だ。

小さな本体に4つのマイクを内蔵しており、四方向からの音を比較して一番大きな音量を認識する。これにより、話者の方向を特定でき、音声認識の精度を高めている。

単体で利用するタイプのデバイスでは、充電が面倒だったり、画面サイズが小さくて見づらかったりという不満も聞こえるが、ZEROではスマホから給電するため、充電は不要。見慣れたスマホの画面で文字も大きく見やすい。また、ボタン操作も不要で最初にメニューで設定すれば、あとは自動で音声を認識し、翻訳を音声で再生し、テキストでも表示する。

ZEROをケースにはめると、クレジットカードと同じ大きさになる。財布や名刺入れ、カードケースなどに入れて持ち運びやすい
本体背面。シンプルにロゴのみ。なお、接続する端末により、Android 7.0以降用(USB 3.1 Type-C)とiOS 11.0以降用(Lightning)の2種類がある。
スマートフォンのUSB Type-C端子に挿し込んだところ。マイクの穴(集音部)が上を向くようにつなぐ

93言語に対応、アップデートでさらに追加予定

翻訳にはネット環境が必要になるが、一部の言語ではオフライン翻訳を試験中となっており、iOS端末向けでは、日本語と中国語、英語と中国語の双方向オフライン音声翻訳に対応する。翻訳サーバーは、東京、シリコンバレー、ロンドン、香港など、世界の14カ所に分散して配置している。

あらかじめスマホにインストールしておいたTimekettleアプリを開き、ZEROをスマートフォンの端末に挿し込んで、モードと言語を選択する。モードは「翻訳モード」「会議モード」「インタビューモード」の3つが用意されており、他に履歴表示やテキスト翻訳の機能も備わっている。

なお、使用時はスマホを地面と平行に設置するのがポイントだ。傾けていたり、あっちこっちへ動かしながら使おうとしたりすると、音声認識の精度が露骨に落ちるので注意したい。

スマートフォンの専用アプリを起動し、利用するモードを選択する。利用モードによって適切な配置が決められている

それぞれの翻訳モードで翻訳言語を選択できる。話者の方を向けたとき、どちらがどの言語になるか指定する。

翻訳に対応する言語は、日本語、英語、中国語、韓国語、ドイツ語、フランス語をはじめとした93言語(53アクセントを含む、2020年4月現在)。

たとえば英語であれば、イギリス、アイルランド、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、インド、フィリピン、南アフリカ、ケニア、タンザニア、ナイジェリア、ガーナ、シンガポールからアクセントが選べる。中国語なら簡体字(北京語)、繁体字(台湾語)、広東語から選べるといった具合だ。

言語数は今後もアップデートで追加していく予定となっている。

言語選択画面(左)では、スマホを持つ側が日本語、スマホを向けられる側がアメリカ英語の設定。言語をタップすると選択できる言語が一覧で表示されるので、スクロールして選ぶ(中)。準備ができたら、あとはスマホを地面と平行にして話すだけ(右)

発音が悪い場合の翻訳ミスにすぐ気が付ける

実際に翻訳を試してみると、簡単なフレーズであれば実に良好に翻訳できた。

翻訳デバイスは自分の日本語が、英語なり中国語なりに間違いなく翻訳されたのか分かりづらい製品も少なくないが、ZEROは翻訳元と翻訳先の両方のテキストが表示されるので、自分の日本語がうまく認識されなかった場合は翻訳結果も間違っているはずだとすぐ気が付ける。これは勝手が良いと感じた。

傾向としては、語尾を聞き落とすことがしばしばあった。日本語は話し始めが強く、語尾に近づくにつれ、トーンが下がることの多い言語なので、スマホを挟んでしゃべるときに意識すると良いだろう。

背景の音は結構シビアだ。ノイズキャンセリングは備わっており、雑踏などには比較的強いのだが、ボーカルのない音楽の演奏で一部が言葉と認識されてしまうケースがあったので、できれば雑音の少ない環境で利用したい。家電量販店の店内は、館内放送や周囲のお客の声などもあるため、結構厳しいかもしれない。

インタビューモードでは2方向からの音声録音と文字起こしが同時に行われる。内容が録音と同時にテキストデータとしても履歴に保存され、コピーで他のアプリと共有できる。

テキスト翻訳機能も、スマホを利用するデバイスならではのメリットだ。入力文章と翻訳結果は、それぞれコピーや貼り付けが利用できるので、外国語のメールを翻訳して読んだり、日本語で書いた文章を外国語に翻訳してメールしたりといった場合に大変役に立つはずだ。

翻訳モードを試したもの。左が日本語と英語(米国)で、中央は日本語と中国語(簡体字)。また、右はテキスト翻訳機能で日本語の文章を英文に翻訳したもの

販促活動を通して、知名度向上を目指す

ZEROを開発したTimekettleは、スマートフォンで知られるファーウェイでマーケティングやプロダクトマネジメントを担当した田力(リール)氏が、2016年に中国の深セン市で創業したスタートアップ企業だ。先にイヤホン型翻訳機「WT2Plus」というプロダクトを開発・販売しており、ZEROは同社の第二弾の製品となる。

WT2Plusはネット通販のほか、ヨドバシカメラやビックカメラで販売した実績があることから、ZEROもまずはネット通販と2カメの店頭からスタートしていきたい考えだ。

ただし、WT2Plusは取り扱い店舗の店員にも把握されていないことがあったそうで、ある店舗では店頭の翻訳機比較表に書かれた対応言語数が実際より大幅に少なく記載されていて知名度の不足を痛感したという。

ZEROでは販促活動を通じた知名度の向上は大きな課題と捉え、郊外型の家電量販店にも積極的に取り扱ってほしいと願っている。

新型コロナの影響でインバウンド需要は現在壊滅状態だが、今後はその揺り戻しに期待できる側面もある。国内では翻訳デバイスはソースネクストのポケトークがほぼ一強状態で、売り場でも大きな存在感を示しているが、ZEROは既存の翻訳デバイスとは差別化された形状と使い勝手を実現しており、店舗を訪れたお客に翻訳機の選択の幅を提示できるアイテムになるだろう。